3人目の発表者は名古屋大学の河口 信夫先生。「素朴な願望で研究する」をテーマに、ユビキタスコンピューティングについて発表。河口先生はユビキタスな環境を実現するために、プロトコルの設計やデバイスの製作、製品化までを行っている。
最初に、センサやコンピュータから、家の照明や家電のオンオフなどあらゆるものがコントロールされる「スマートハウス」の実現に10年以上前から取り組んでいるCogmaプロジェクトを紹介。
スマートハウスは、コンピュータを介して人間と家がつながるシステムだが、河口先生はそれと並行して人間と人間をコンピュータでつなげ、遠隔で会議やプレゼン、家庭教師などを行う仕組みも開発している。
まず18人同時につなげる多地点会議プロトコルX-CASTを紹介。多人数でのビデオ会議は、Google+ハングアウトなどでやっと普及が始まったところだが、河口先生は2006年ころから実際にX-CASTを会議などで使っていて、使ってみたことで生まれたアイデアを基に、さらに研究を発展させている。
そのうちの1つ、
“Side-by-Side Assistance:ビデオチャットを利用して家庭教師を行う場合、対面で行うのではなく、横にディスプレイを置くことにより、より効果的に学習支援できる”
の紹介時には、「時代が追いついたな」「研究段階から10年ぐらいたつと実用に降りてくる」などのコメントも見られた。
さらに多人数でのオンラインコミュニケーションを目指して、「仮想の三次元空間を作り、そこをアバターが動き回って、学会のポスターセッションを行うシステム」を開発、そのことによって生まれた
などの関連研究が紹介された。
ユビキタスコンピューティング、スマートハウスなどの実現には、あらゆるものの計測が欠かせない。河口先生の研究室では、多くの計測機器や、取得したデータを面白い形でアウトプットする仕組み、データを共有してより研究を進化させるコンソーシアムづくりなどにも取り組んでいる。
等の研究が紹介されて、河口先生の20連発が終了。
河口先生の発表からは、思い付きからスタートしたものを、実際に使える形にし、それを使ってみながら進化させていくという課程がうかがえ、未来が地続きでつながっていくのが感じられて、とても興味深かった。
データの活用や共有の仕組みを作り、広めていくことで、なぜそれが進まないのかという原因や、どういう形ならば多くの人を巻き込めるかについても知見がたまっていくと思われる。Webサービスやスマホアプリとして使えるものも多いので、僕らも気軽に試せるのもうれしい。
また、寺田先生の研究と同様、実際に社会にユビキタスコンピューティングが導入されつつあるので、研究の知見が社会でどう生かされていくのが見えてきつつある。
4人目の発表者は、慶應大学湘南藤沢キャンパスの田中浩也先生。
Makerムーブメント、建築、メディアアートなど、多くの専門分野を持つ田中先生らしく、「歩く」「アミニズム」「Fab」シリーズと3つに分けてこれまでの研究や作品を紹介。
まず、「歩く」シリーズとして、なんと小学校4年生のときにPC-8801 mkII FRで開発した「Walk in g in Sapporo」というソフトから発表が始まった。今回の発表のために1985年製のプログラムを再度動かして動画を撮影したとのこと。田中研究室のサイトには、札幌市のマイコンアイデアコンテストに何度か入賞した実績が残っていて、田中先生のルーツがマイコン少年にあることがうかがえる。
このソフトの開発時に、苦労してVRAMへの書き込みを行ったことが、博士論文のPhotoWalkerにつながる。写真を合成して3次元の空間の中に配置し、その中を歩き回るサービスで、その後のGoogle Street ViewやマイクロソフトのPhotosynthの走りになった研究だ。
「歩く」研究はさらに進化し、GPSや加速度センサをハックして情報を集め、登山の記録をコンピュータ上に描画するGeoWalkerが生まれた。
続いて「アニミズム」シリーズとして、小鳥(ジュウシマツ)の鳴き声をコンピュータが学習し、鳥に返すアート作品 「Call and Response」を紹介。学習したコンピュータ同士を相互作用させることでさらに学習を進めさせ、最終的には学習を重ねたコンピュータを森に戻して、実際の小鳥と対話させるところまでが紹介された。
続いて、
などを続々発表。
「畑にセンサを置くときに、センサを盗まれないように植物に擬態させる」ゴーヤ形センサ、「コーンの触感を持ったコーンスープ缶」などを発表したときには、ニコニコ技術部ともつながるような作品にニコ生のコメントも大絶賛。
そして最後に「Fab」シリーズとして、田中先生が発起人となっているFablab鎌倉などで行われているプロジェクトを紹介。
等々が発表されて20連発は終了。
田中先生の20連発からは、ハード・ソフト・アート・研究など、田中先生がジャンルを超えてさまざまな作品を作ってきたことがうかがえつつ、全体を貫く「色」が見えて面白い。かつて田中先生にインタビューした際に、一緒につくる人やコミットする人が変わることで、作られる作品もまた変わっていくことについて語っていただいたので、興味がある人は併せて読んでもらいたい。
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