5人目、最後の発表者は、お茶の水女子大学の椎尾一郎先生。第1セッションのイグノーベル賞受賞記念講演に登壇した塚田先生とは同僚で、国内インターフェイス研究の草分け的存在である。
まず、専門であるインターフェイス系の研究を発表。今回発表された研究の中で最も古いものは20年以上前のものであり、椎尾先生の研究を振り返ることはそのままインターフェイス研究の歴史をたどることともいえる。
続いて、お茶の水女子大学での「生活空間を対象にした」研究の数々を発表。
最後に紹介したDreamDrillについては、「このアプリのデータを使って修論を書く学生がいます。ぜひダウンロードしてください!」と、学生に配慮した温かいメッセージを添えて、20連発を終了。
椎尾先生の発表からは、アイデアとそのときの状況(手に入るデバイスなど)が組み合わさって研究が進化していく様子や、研究のきっかけを生活の中に置いた身近なアイデアがうかがえて、とても楽しく見ることができた。また、第1回の研究100連発で発表した暦本先生、第2回で発表した増井先生らと共同で行われたものも多く、併せて見てもらいたい。
研究100連発は第1回のシンポジウムから毎回行われている目玉コンテンツである。登壇する側にとってもこれだけの数の研究を圧縮して発表することはほとんどない。また、数万人が注目し、大量のコメントが寄せられるニコニコ生放送の場で、研究者が「どうだ!」と自分のバリューをぶつけられる貴重な機会でもある。そこに込められたテンションが毎回「ここでしか見れない」発表を生んでいるように思う。
もともと研究分野に感心のある人はもちろん、研究がダイレクトに未来と現在をつなげるショーケースとして非常に面白いので、これまで研究になじみがなかった人にもぜひ見てほしい。
第4セッションは思想家/小説家として活躍する東浩紀氏を中心として、福島第一原発の25年後を見据えた、観光地化計画について考えるセッションが行われた。
東氏は、「痛ましい事故を起こした福島第一原発だが、時間の経過とともに何らかの形で事故は収束し、25年後にはここが『跡地』と呼ばれるようになる。そのときに向かって現時点から『何をどう残すか』という計画を立て、『未来に向けて教訓を残そう』という意思を示す必要がある。そうでなければ、記憶も教訓も風化してしまう。例えば広島の原爆ドームに対しても、終戦直後には『痛ましい記憶なので残したくない』という意見があったが、当時の議論の結果として、今も残っている。福島第一原発についても、多くの人が訪れて教訓を持ち帰る「観光地」として残していくための計画を立てた方がよい」と問題提起。世界各地のさまざまな天災・事故の記念館を例に出し、保存の必要性を語った。
続いて江渡さんが「ダークツーリズムとしてのアルスエレクトロニカ」と題した発表を行い、八谷さんも「人が使わないと設備はすぐに動かなくなるので、暫定のプランも考えた方がいい」と、宇宙港のプランを発表。
どちらかというと実績を紹介する他のセッションと違い、未来に対する問題提起を行うセッションに、さまざまな意見がコメントとなってニコファーレを埋めた。
ニコニコ学会βシンポジウムの企画は、パッと見でデモがしやすい研究が多く、このセッションのような、ある意味思考実験的な内容は珍しい。
この時点までオープンから4時間ほどが経過しているが、視聴者の数は増える一方で、生放送を見ている視聴者が前のめりにニコニコ学会βシンポジウムを楽しんでいる様子がうかがえた。
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