ハード/ソフトの垣根を越えた、ユーザセントリックなサーバ機の開発特集:業務革新を支える最新サーバテクノロジを追う(2)(2/2 ページ)

» 2013年03月01日 16時00分 公開
[原田美穂@IT]
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このハードウェアには「京」の開発で得たシステムパフォーマンス最適化のノウハウが詰まっている

 「京」は、理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピュータの名称だ。2011年6月には、スーパーコンピュータの性能ランキングである「Top 500」で1位を獲得、低消費電力であることと併せて話題となった。神戸市中央区に設置されている。

 「京」で使われているCPUはSPARC64 VIIIfxというHPC用途に開発された45nmプロセス製造技術を使ったプロセッサだ(SPARC M10に搭載されているSPARC64 Xはより高集積な28nmプロセスである)。この開発を富士通のSPARCプロセッサ開発チームが担当した。

 「『京』の開発では、ハードウェアとソフトウェアの処理の切り分けをどのようにするか、レジスタは、メモリはどう使うべきか、コンパイラはどういうコードを出力するのか、といったごくごく物理層に近いところから、丁寧に課題を切り分けて開発しました。富士通のSPARCプロセッサ開発チームはこの議論を経験して、ハードウェア以外の領域の知識や課題への対処法、ハードウェアと周辺領域との関係がどうあるべきかを深く理解できたんです」(志賀氏)

 「京」は、次世代スーパーコンピュータの開発プロジェクトとして、過去の考え方を捨てて目標とする高性能スーパーコンピュータを構築する必要があった。このため、ソフトウェア/ハードウェアの垣根なく、まず、目的に対してどのように問題を解決していくかを全て議論していく必要があったのだという。

 「『京』の開発で、プロセッサチームがソフトウェアを効率的に動かすための支援をするという経験を積んでいます。その、同じチームが今回のSoftware on Chipの開発に参画しているんですよ。『京』のときはこの命令をコールしてもらったら性能が上がったから、データベース開発者に話してみよう、なんていう発想はそこから生まれています」(志賀氏)

「だけど、それだけでは世の中を革新していけないでしょう?」

 SPARC M10では、こうした取り組みの多くがデータベースで汎用的に用いる処理で適用されている。処理を速くするためにソフトウェア側で改善できることをハードウェアの技術者が指摘し、その要請にソフトウェア開発者側が応じ、またソフトウェア側だけでは改善できない課題をハードウェア側で改善できないか提案する、といった双方向でのパフォーマンス改善に向けた取り組みが進んだのだという。

 実際に、SPARC M10では、データベース処理の一部を自動的にプロセッサ側に渡し、ハードウェアで処理させる実装を持っている。

 パフォーマンス改善の多くがデータベースにフォーカスしているのは、データベースが企業の基幹システムの根幹に位置付けられるからだ。信頼性を重視したSPARC M10は、基幹システムなど、重要なデータを扱うシステムに採用されることを想定している。

 「お客さまのシステムは、ハードウェア/ミドルウェアのスタックの上に載ります。ですから、ミドルウェアとハードウェアが効率よく動作することで、お客さまの既存システムも十分に効率よく動作させることができるのです」という志賀氏のコメントからも、技術中心主義でもなく、最新技術至上主義でもない、目的重視の開発体制であったことがうかがえる。

 こうした開発体制と目的の明確化があるからこそ、データベース開発者のパフォーマンス課題をハードウェア開発者からのアドバイスで改善を試みられる。これこそがSPARCとSolaris、そしてOracle DatabaseやSymfowareといった製品の連携できる強みとなっている。

 「富士通としては、顧客のビジネスに対して布石として何が提供できるか、という点を重視しています。当然、Hadoopのような技術トレンドだってきちんとキャッチアップします。だけれど、それだけでは世の中を革新していけないでしょう? 今ある技術を寄せ集めただけではなく、顧客のビジネスに対して価値のある、新しい提案ができることこそが富士通ならではなのです」(志賀氏)

データベースで一般的に使われる処理をSoftware on Chipで処理できる。特に10進数の処理では430倍ものパフォーマンスとなっている(富士通によるベンチマーク結果より)

旧資産をそのまま載せるだけで高速化、新規アプリケーションはさらに高速に

 Software on Chipでは、memcpy()のような関数がコールされると独自の並列処理回路を使うように改良を施してあるという。つまり、従来のシステムを前提としたアプリケーションであっても、処理内容によっては並列処理の恩恵にあずかれるわけだ。

 「この仕掛けがあるので既存の旧資産であってもM10に持ってくるだけで、純粋に速くなるんです」(志賀氏)

 先に富士通が製品発表で示した図を思い出してほしい。そこでは旧資産の統合の他に、新規データ分析アプリケーションをも統合していく、という絵が示されていた。

 新規のアプリケーションであれば、純粋にSPARC M10の性能を生かした、リアルタイム性の高い情報系システムを実現しやすくなる。従来であれば、業務系と情報系を単一システム内に置くことは、分析系処理の高負荷処理が業務系の応答速度重視のアプリケーションに悪影響を及ぼすという課題があったが、Oracel VM for SPARCの仮想化技術を使えば、一方のシステムの負荷がもう一方の側に影響しないことが保証されている。企業が保有するハードウェア資産の最小化に寄与するだけでなくビジネススピード向上にも大きく寄与することが良く分かる。

 つまり、SPARC M10とデータベースサーバの組み合わせは、旧資産を移行するだけでもハードウェアによる処理高速化、Software on Chipによる高速化が活用でき、さらにデータベースソフトウェアの改良による高速化、アプリケーションのリコンパイルによる高速化が可能ということになる。

 「ハードウェアを作りこんで速度を求めようとする動きもあるが、やはりハードウェアだけでは限界が見えている。ソフトウェア/ハードウェアの垣根を越えて最適化していくわれわれのアプローチはそうした課題に対する答えになっていると考える」(志賀氏)

 志賀氏はまた、「OSとCPUを一緒に作り、ミドルウェアのベンダとも協調しているからこそ、やりたい方向に向かって回路もOSも思い切って変更できるんです」とも語っていた。

 SPARC M10開発体制についていえば、その「やりたい方向」が、データ資産活用に向かう企業のビジネスニーズに応える、という顧客中心主義を貫けているといえるのではないだろうか。


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