スマートフォンやタブレット、そしてPCという「マルチ・デバイス」を利用していると、メール環境が複雑化して使い勝手が悪くなったり管理の手間も増えがちだ。そこでGmailを活用してメール環境をシンプル化する方法を解説していく。
ここ数年、スマートフォンやタブレットなどのモバイル・デバイスの隆盛には目を見張るものがある。そういった比較的廉価なモバイル・デバイスを複数台持ち歩き、公衆無線LANやLTE、WiMAXといった高速な無線通信網を利用して無償のクラウド・サービスに接続し、いつでもどこでも仕事をこなす。社内でもBYOD(Bring Your Own Device)よろしく個人所有のモバイル・デバイスを持ち込んで仕事に活用する。そういった新しい仕事のスタイルが次第に広まっている。
しかしその一方で、デバイスが増えたことにより、仕事に必須の電子メールを取り巻く環境が複雑化するという問題も生じている。例えばメール・サーバの制約により、あるデバイスでは読み書きできるメール・アドレスが別のデバイスだと読み書きできないことがよくある。また、モバイル・デバイスが増えるたびに複数の既存メール・サービスへアクセスできるようにセットアップし、以後もメンテナンスするのは非常に面倒な作業だ。また、スマートフォンの導入時に付いてくる携帯キャリアのメール・アドレスも、ほかのデバイスでの読み書きが制限される、メール・アドレスが増えるという点で複雑化に拍車をかける。
当然、メール環境が複雑になるほどメールの使い勝手も悪くなる。もっとメール環境をシンプルにして、どのデバイスでも同じようにメールを扱えて、管理やメンテナンスの負担も減らすことはできないだろうか?
この問題に対して本連載では、Googleのメール・サービス「Gmail」で解決することを提案したい。
ここで「いまさらGmailかよ!?」とお思いの読者も多いかもしれない。確かにGmailは10年近い歴史を持ち、全世界で億単位のユーザー数を誇るメジャーなサービスだ。すでにGmailを利用中という読者も多いだろう。しかしながら、ユーザーが複数のデバイスを「普通に」利用するようになってきたいまこそ、Gmailの持ついくつかの特長がメール環境の複雑化を解消するのに役立つと筆者は考えている。連載第1回の今回は、その理由を具体的に説明したい。第2回からは、モバイル・デバイスへの対応やメールの集約など、メール環境のシンプル化のための作業について解説していく。
本連載で対象とするのは、小規模企業やSOHO、あるいはビジネスパースンのメール環境である。セキュリティを軽視するわけではないが、使い勝手とのセキュリティのトレードオフが比較的しやすい組織を想定している。厳格なセキュリティ・ポリシーの下で社内システムを運用しているような企業とは相容れない部分もあるので、ご留意いただきたい。
クラウド型のメール・サーバのメリットとしては、次のようなものがある。
Gmailではメッセージをメール・サーバ側で一元的に管理するのが一般的だ*1。メッセージをサーバ上にあるメール・ボックスに蓄えつつ管理し、振り分けや削除といったメッセージの整理は、このメール・ボックスに対して実行する。たとえデバイスがメッセージをダウンロードしても、それはコピーあるいやキャッシュとして扱われ、マスタ・データはあくまでもメール・サーバ側にある。古くからのメール・サーバで主流だった、ダウンロードしたメッセージをデバイス側で管理し、メール・サーバからはメッセージを削除していく、という運用形態とは真逆だ。
*1 GmailでもPOPでメッセージをダウンロードして、メール・サーバ側にメッセージを残さないという運用は可能だ。しかし以下で述べるようにメリットが少なく、主流の使い方とはいえない。
Gmailのようにサーバでメッセージを管理していると、複数のクライアント(デバイス)でメールを扱う際に大変便利だ。あるデバイスでメッセージを読んだり書いたり振り分けたり、といった処理を行うと、それは同期処理を経てメール・サーバに反映される。当然それはほかのデバイスからも参照できる。つまり、どのデバイスでもメール・サーバを介して同じようにメッセージを扱えるわけだ。
これが古くからのメール・サーバのようにデバイス側でメッセージを管理している環境では、あるデバイスでは全メッセージを読めるけど、ほかのデバイスでは一部のメッセージが読めない、といった状態に陥りやすい。特にメッセージの振り分けはデバイスごとに実行するため、デバイス間で環境を揃えにくい。デバイス数が増えるほど、同じメール環境を実現するのに手間が大幅に増えていく仕組みだ。
メール・サーバ側にメッセージを蓄積するとなると、メール・ボックスに相応の容量が必要になる。その点Gmailは無料で15Gbytesまで利用できる。実際にはGoogleドライブなどGoogleのほかのサービスと共有するため、Gmailだけでまるまる15Gbytesを使い切れるとは限らない。それでも無償のメール・サービスとしては大容量というべきだろう。
容量が不足したら、例えば1カ月あたり4.99ドルを支払えば100Gbytesに拡大できる。詳細は次のページを参照していただきたい。
一元管理の恩恵を受けるのはメールだけではない。アドレス帳(連絡先)もGmailのサーバに保存しておき、複数のデバイス間で同期しつつ共有できる。特にiOSやAndroid OSでは標準機能だけでGmailの連絡先との同期を実現できるし、サードパーティ製のアプリケーションにもGmailの連絡先をアドレス帳として利用できるものは多い。
スマートフォンやタブレットがこれだけ普及した現在、こうしたモバイル・デバイスでもPCと同様にメールを読み書きできるかどうかは重要なポイントだ。その点でも、Gmailは多様なモバイル・サポートを提供していて、モバイル・デバイスでも使いやすいメール環境を実現しやすい。
iOS(iPhone/iPod touch、iPad)およびAndroid OS向けには、Gmail専用アプリケーションがそれぞれのアプリケーション・ストアから無償で提供されている。PC用WebメールUIの全機能が実装されているわけではないが、それでもオフライン利用やリアルタイム通知、複数アカウントの切り替えなど、以前よりずっと機能は増えて使い勝手も向上している。
PCでも、Webブラウザ「Google Chrome」向けにオフラインでGmailを利用するための拡張機能が無償で提供されている。ノートPCにセットアップしておけば、インターネット接続のないモバイル環境でもメール送信やキャッシュされたメールの閲覧などが可能だ。
上記のアプリケーションをインストールできない環境でも、WebブラウザからGmailのサイトにアクセスできるなら、WebメールUIが利用できる。しかもPCはもとより、スマートフォンやタブレットでも最適化されたUIが利用できる。
モバイル・デバイスの場合、前述の専用アプリケーションとWebメールUIでは、前者の方が多機能である(WebメールUIでは複数アカウントの素早い切り替えができない)。その一方で使い勝手やUIのデザインは大差ない。状況に応じて使い分ければよいだろう。
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