人によって、またベンダによって異なる期待をされている「SDN(Software Defined Network)」。この記事では、各社のSDNに対する取り組みを知ることで、SDNに対する理解を深めていく。初回は、SDNのアーキテクチャやOpenFlowプロトコルの研究・開発に当初から参加し、国内外でSDNの発展に関与してきたNECに話を聞いた。
最近話題の「SDN(Software Defined Network)」は、ネットワークの分野で最も注目されているキーワードの1つである。しかし、その定義についてはいまだはっきりとしないところもあって、それがユーザーの理解が進みにくい原因にもなっている。
狭義のSDNは、ネットワークをソフトウェアによって動的に制御する技術を指す。OpenFlowに代表されるSDNプロトコルを用い、アプリケーションとコントローラ、コントローラとスイッチ間で情報をやり取りする。
一方、広義のSDNは、ネットワークの仮想化、構成や状況の可視化、運用の自動化や最適化(オーケストレーション)、論理ネットワークの構築など、ネットワーク運用管理全般の技術や機能まで含む。
とは言え、こうした定義も境界はあいまいで、各ベンダ、キャリア、サービスプロバイダによって、SDNサービスやSDN製品の適用範囲は異なるようだ。
そこでこの記事を通じて各社のSDNに対する取り組みを知ることで、SDNに対する理解をより深めていただきたいと思う。今回は、SDNのアーキテクチャやOpenFlowプロトコルの研究・開発に当初から参加し、国内外でSDNの発展に関与してきたNECの取り組みについて、同社のSDN戦略本部長を務める野口誠氏に話を聞いた。
NECは2013年4月に「2015年中期経営計画」を発表し、その中で“社会価値創造型企業への変革”という方針を掲げ、ICT(Information and Communication Technology)で社会インフラの高度化を支える、社会ソリューション事業に経営資源を集中するとしている。
社会インフラの高度化を担うICTとは、情報を収集する「クラウド」、その情報を分析して将来を予測する「ビッグデータ」、そしてそれらの技術を支えるインフラとしての「SDN」の3つからなる。これらのICTを駆使して、社会課題を解決に導こうというコンセプトだ。
SDN事業については、ビジネスユニットを横断する組織であるビジネスイノベーション統括ユニット内に「SDN戦略本部」を同4月に設置して、野口氏を筆頭に本格的なSDNビジネスを推進する予定だ。
NECでは、SDNを従来のICTが抱える課題を解決する技術として捉えている。
従来のICTシステムでも、簡単で、自由にどこでも通信が可能で、しかも安価なサービスが提供されている。しかし一方で、高度な社会システムや複雑なICTシステムを迅速かつシンプルに構築したり、構成を変更したりすることについては、難しい局面も見え始めているという。カーナビで道案内をするように、目的を入力するだけでICTシステムを構築・変更できるような利便性を実現できないだろうか――それが、SDNというわけだ。
従来のネットワークは、ネットワーク専用機器を用いて、ネットワーク制御とデータ転送処理が一体となった静的な仕組みであった。そのため、いったんネットワークを構築してしまうと、構成変更には非常に手間が掛かる。
「SDNで提供されるネットワーキングとは、ネットワーク制御とデータ転送が“分離”され、汎用サーバ上のソフトウェアを用いてデータ転送処理のみを行う機器を“動的に制御”するものである。NECのビジネスとしては、これらを構成する要素、ソフトウェアやハードウェアのすべてが対象となる」(野口氏)
SDNでネットワークをコントロールすることにより、システム全体を見える化して障害発生を抑制し、リソース配分の最適化によってインフラ設備の効率化を図ることができる。ひいてはセキュリティレベルの向上にもつながる。これらが、ICTの高度化に結びつき、社会インフラを充実させるというのがNECの考えだ。
一例として、ネットワーク上のサービス配分を動的にコントロールすることにより、災害時にはメールや音声通話などを優先させるといった、「災害に強い社会インフラ」の実現が考えられる。ほかにも、ユーザーの利用環境や混雑状況によってリソースの割り当てを制御することで、使いやすいインフラが実現することだろう。
「SDNの登場によって、オープン化やコモディティ化という、これまでIT市場で起きてきた進化が、ネットワーク市場でも進展しつつある。それも、この数年という非常に短いスパンのことだ。ITとネットワークが融合した市場が登場し、新たな価値創造の競争へとシフトしていくだろう」(野口氏)
NECの予測では、SDN市場は2014年から急速に伸び始め、2017年には世界規模で4.7兆円にまで成長するという。このとき、ネットワーク市場全体の規模は15〜16兆円とのことで、この3分の1ほどはSDNの概念が適用されたものという計算だ。この数字には、SDNに対する大きな期待も見て取れる。
NECは、SDNの研究開発に深く関与し、さまざまな団体に所属して積極的に発展と普及の活動を行っている。ネットワークを広く捉え、狭義のSDNにとどまらず、各分野・各技術の発展と製品開発に寄与している点が特長である。
SDNの開発が始まったのは2008年、米国スタンフォード大学の「Clean Slate Program」によるもので、NECはこのプログラムに当初から参加して研究に取り組み、結果、世界初となるOpenFlow対応製品を世に送り出した。
現在最も主流であるOpenFlowは、Open Network Consortium(ONC)によって仕様策定と標準化作業が始まり、2011年にOpen Networking Foundation(ONF)に引き継がれている。現在、ドイツテレコムやフェイスブック、グーグル、マイクロソフト、ベライゾンといった名だたる企業90社以上が加盟し、OpenFlowの標準スペックの策定を進めている。NECは、ONCの創立からこの組織に加盟し、アーキテクチャワーキンググループやコンフィグワーキンググループのバイスチェアを担当している。
キャリア向けには、世界の大手通信事業者13社が参画しているETSI(European Telecommunications Standards Institute)の下部組織、Network Functions Virtualization(NFV) Industry Specification Group(ISG)が、汎用サーバを用いて専用のネットワーク機器と同等の機能を提供するネットワーク機器仮想化(NFV)技術の実現に向けて活動している。
ここではNFVの詳しい解説は避けるが、狭義のSDNとは明確に区別され、互いに高度な補完関係にあるとされる。組み合わせて活用することで、高価なネットワーク機器は汎用ハードウェアと高機能なソフトウェアに置き換えられ、最適化と拡張性を実現するという。
NECは、このNFV ISGにも設立時から参加し、リライアビリティワーキンググループのバイスチェア、およびオーケストレーションワーキンググループとソフトウェアワーキンググループでエディタを担当している。
このほかにも、シスコやIBMなど18社が立ち上げたOpenDaylight Projectで、NECは、マルチテナント仮想ネットワークを作成・管理する「Virtual Tenant Network(VTN)」モデルをアプリケーションとして提供している。この組織は、SDNコントローラのオープンソースプロジェクトとして2013年4月に発足し、SDNフレームワークの構築を推進するものである。
またNECは、SDNソフトウェアの開発を目的にスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校が中心となって設立したOpen Networking Research Center(ONRC)にも設立時から参加。共同でOpenFlow製品を開発しているところだ。
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