ユーザーは、自分たちも一緒に勉強するって言い出したの。全ては分からなくても、ソフトの表面的な機能だけでも知っていればきっと役に立つだろうって。
はー、見上げたもんだ。
その結果、システム導入は成功した。導入中はスッタモンダあったけれど、何か問題が発生したとき、ユーザーとベンダーの間で率直に解決策を話し合える環境と知識があったのが大きかったのね。
同じ穴のムジナって訳かあ。
な、何か違うけど……。まあ結局、ベンダーの情報開示意識とユーザーの当事者意識、それに度量が勝因だったって訳よ。
ベンダーは怖くなかったのかな。ヘタしたら怒られそうじゃない。
最初のうちならモメても何とかなるって腹くくったらしいわ。
なるほどねえ。僕もこの間、店長やってたお店で刺身用の魚を冷蔵庫に入れるの忘れて大量に腐らせたこと、早めにパパに言っとこうかな。
アタシ、アンタの店では買物しないわ。絶対。
他には、何かない? 注意することとか。
じゃあ最後に質問を1つ。自分たちの業務とパッケージの機能が合わないとき、それでもパッケージを使うか、それとも他のソフトにするか、さあどうする?
えー? そんなの分からないよー。
もし、そのパッケージソフトを使うなら、業務の流れややり方を変えなきゃいけなくなるでしょ? さっき話したみたいに、野菜の生産者の表示や管理をやめるとか。
うーん。でも、それはやっぱりできないよ。
どうして、できないのかしら?
だって、生産者の表示はウチの重要な戦略だから……。。
それよ!
えっ?
自分たちの会社の重要な戦略や、そもそものシステム化目的に関わる変更を余儀なくされるのなら、そのパッケージソフトはつ・か・え・な・い。
なるほど。そうやって判断するのか。
もしも、売り場で使うPOS端末の機能を大幅に向上させるパッケージがあったとして、でもその操作が複雑で、売り場の人の生産性を落とすような場合なら、どうする?
ああ。そういうこと、前にあったなあ。
システム化のそもそもの目的が「売り場の生産性の向上」だったら、どんなに高機能なシステムでも目的に合ってなければ、使えない。逆に商品管理や売れ筋分析にとても役に立つもので、それこそが今の経営戦略にマッチするものだったら、売り場のオペレーションをソフトに合わせて変えてもらってでも導入すべき、ってことになるわ。
結局、経営的な視点からの判断ってことか。
システム作りでは、よく「現場の声を大切に」って言うけれど、それは何でも現場の言うことを聞くっていうのとは違うのよ。経営者として、どちらに重きをおくかを戦略に照らして判断する必要があるし、ベンダーもその当たりをしっかり踏まえて、パッケージソフトの選定や、代替提案を行う必要があるってこと。
すごいねえ、塔子。さすが僕の元カノ!
元カノじゃない! 1回映画に行っただけでしょ!
そんなに照れることないさ。何だったらこれからまた……
ア・リ・エ・ナ・イ!
章介はベンダーオススメのパッケージを導入するのか? 次回は1月24日掲載です。
細川義洋著
日本実業出版社 2100円(税込み)
約7割が失敗すると言われるコンピュータシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。
細川義洋
東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員
NECソフトにて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムにてシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダ及びITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも稀有な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
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