同じ13日午前のセッションでは米ヒューレット・パッカード(HP) クラウドチーフテクノロジストグループ 技術担当部長 真壁徹氏が「オープンソースがクラウドを変えていく」と題した講演を行った。
HPでは、クラウドに関するビジョンを「ボタンひとつでアプリとデータがクラウドの間を行き来できる」ことと規定している。
そのビジョンに対しての課題は、真壁氏によると2つあるという。1つはIaaS層での共通化、もう1つは「クラウドの間を行き来する」際の物理的な距離による伝送遅延による制約だ。
1点目の共通化に関しては、クラウド環境を実現するテクノロジが、現段階では群雄割拠の状態であり、決定打となるスタンダードが存在していない。多様なアーキテクチャを持つクラウド環境が乱立する中で、これらの差異を吸収する目的でオーケストレータやブローカーといったツール類が登場しているが「これらは必ずしもうまくいっているとはいえない。やはり、ベースとなるIaaS環境でのクラウドが共通化できていないからだ」と指摘する。
この点で、HPは明確にOpenStackをIaaS環境の標準となると判断している。後述するように社内実践においても既にOpenStack指向にかじを切っている。
もう一方の伝送遅延の問題については「中長期的な技術課題」として継続的に注力する一方で、近々の最重要課題をOpenStackプロジェクトの成果を軸にしたクラウド環境の共通化であるとする。
HPでは既にOpenStackをベースにしたパブリッククラウドサービスを2013年12月から正式提供している(関連記事:HP Public Cloud 13.5がリリース、管理コンソールはHorizonをベースに刷新)。真壁氏は講演で、今後、日本国内にデータセンター拠点を開設する考えを示した。これは、同社のプライベートクラウドソリューションとの密な連携が可能なサービスとして、日本企業の要請に則したパブリッククラウドサービス提供を付加価値として提供したい意向の表れだと考えられる。
米HPでは現在、自社内で構築した20のAWS利用システムを、この自社パブリッククラウドに移行しており、同様にOpenStackベースで構築した社内プライベートクラウド(HP CloudSsystem)との連携も実践するなど、OpenStack環境を軸としたハイブリッドクラウド環境運用のノウハウを蓄積しつつある。
2011年来、自社製品のOpenStackへの対応を推進してきた同社だが、2014年はその取り組みを一層加速させることになる見込みだ。
「今春には、新しいHP CloudSystemアーキテクチャを披露することになるだろう」(真壁氏)
同社プライベートクラウドソリューションであるHP CloudSystemでは、従来クラウド環境管理で利用されてきたMatrix OEがオプション扱いになるという。その代わりとなるのがOpenStackの標準ツールだ。また、従来ハイパーバイザはKVMのみに対応していたが、次のバージョンでは新たにヴイエムウェアのESXiにも対応するという。さらに自社パブリッククラウドサービスで利用してきたオーバーレイネットワーク技術も「HP Virtual Cloud Networking」として提供するとしている。
真壁氏はこうしたOpenStack環境を軸としたハイブリッドクラウド構築環境提供の先にあるものとして、「企業ITのカタログ化」についても言及した。
「クラウド運用管理ツールで生のインフラ要素を逐一管理する必要はない。より抽象度の高い“サービス”として、自動化された仕組みを提供していく。アプリストアでアプリケーションを購入するような利便性を兼ね備えた自動化ツールだ」(真壁氏)
具体的には、インフラ部分をOpenStackに統一した上で、各種ワークロード類を抽象化、パブリック/プライベートを問わずにデプロイできる環境としてHP Cloud Services Automationを、また、そのワークロードを取得する環境としてマーケットプレイスの提供によるITのサービス化を推進する考えを示した。
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本稿では、OpenStack Days Tokyo 2014の2つのセッションを紹介した。両セッションとも、クラウドないしハイブリッドクラウドを前提としたインフラストラクチャの必要性、真の意味で物理環境を隠蔽したサービス自動化に向けた活動を重視している点が印象深い。
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