ここまでの説明で、Amazonがかなり富豪的なアプローチも取り入れつつ、技術的な課題をクリアしてきたことが理解してもらえたかと思います。では、実際にこの機能をどう活用するかという話に移りましょう。
最初にデモされたのは、Fire Phoneの待ち受け画面のデモです。
Androidでも標準で動く壁紙機能がありますが、ダイナミックパースペクティブを利用すると、画面をのぞく角度によって視点が変わる壁紙を配置できます。
この壁紙自体はデザイナーが事前に作り込んだもので、Fire Phoneのカメラでこのような写真が撮影できるわけではなさそうです。けれど、かなり大量のプリセット壁紙が用意されていて壁紙好きな僕としてはここだけでも引かれるモノがありました(笑)。
次に紹介されたのはマップ機能です。
Fire PhoneはAndroidベースですが、通常のGoogle認定Android端末ではないため、Google純正のマップアプリではなく、Amazonが開発したマップが標準搭載されています。このマップがダイナミックパースペクティブに対応していて、お店などを検索し、該当場所にピンが立った状態で、ちょっと斜めから画面をのぞき込むとそれぞれのピンに詳細情報の吹き出しが浮き出ます。
正直、この操作が直感的かと言われると違う気もしますが、ポイントは、できる限りタッチ操作なしに操作できるところでしょう。
発表冒頭でベゾス氏が、「いろいろな画面サイズを試してみたけれど、4.7インチが最適だった」と語っていました。しかし4.7インチの液晶だと、やはり片手では大きすぎると感じる人が大半じゃないかと思います。今回の発表会でも、Fire Phoneの特徴の一つとして「Small touches」という機能を挙げており、極力画面のタッチ操作を減らすことをFire Phoneの命題の一つにして開発したようです。
タッチ操作にダイナミックパースペクティブによる操作を加えることで、大幅にタッチ操作を減らすことができるという前提の上に、「4.7インチが最適」という決断が成り立っている気がしました。
別のダイナミックパースペクティブの活用例はさらに興味深く、従来の2D画面では解決できなかった問題を解決しようとしていました。
マップアプリのデモに話を戻すと、よくある事例として、現在位置に移動する矢印ボタンのアイコンが邪魔で、下に書かれている地図情報が読めず、やむを得ず画面をスクロールさせて情報を確認するという例を挙げていました。
これは確かに“あるある”なシチュエーションです。この操作をするとせっかくの現在位置追従モードが外れてしまって、再度、現在位置アイコンをクリックし直さないといけません。
ダイナミックパースペクティブに対応したマップなら、地図を横からのぞき見ることができます。つまり現実世界と同じように、ちょっと横からのぞき込むとアイコンと地図の視差が変化して地図情報が読みとれる、というデモでした。
僕はこのデモは非常に説得力があるなと感心するとともに、2Dから3Dインターフェースへの進化の中間地点として、この2.5D的なユーザーインターフェースの大きな可能性を感じました。
ちなみに、ここまでベゾス氏は、冒頭から何の説明もなしに当たり前のように「ひねる」「傾ける」などの動作を利用してFire Phoneのメニューやスクロール操作を行っていましたが、実はこれもダイナミックパースペクティブによる操作でした。
最近のiPhone、Androidアプリでは、「ハンバーガーメニュー」という、画面端から中心にスワイプすると出現するメニュー操作が一般的ですが、Fire Phoneの場合、このメニューを表示させるには手首をひねるだけです。しかも右にひねれば左から、左にひねれば右からメニューが出現します。さらに画面を前後に傾けると、Webページやメニューのカーソルをスクロールすることもできます。
僕の場合、スマホでWebなどを見ていて最もうっとうしいと思う操作が、スクロールのためのタッチ操作です。これは操作自体が煩わしいだけでなく、自分の手が画面を隠してしまうという、タッチ操作が持つ根本的な問題に起因しています。
ダイナミックパースペクティブが本当にこのデモの通りに精度高く動作するならば、従来のタッチパネル主体のスマホ操作の常識を覆してしまうかもしれません。
この手の技術は、最終的には精度が命です。ちょっとでも思い通りに動かなければこの手の操作は使われませんし、誤動作が頻発すれば、そもそも評判を下げ売れなくなってしまいます。ですのでAmazonとしてもかなり慎重に開発し、投入してきた印象を受けます。
その後もいくつかのゲームのデモなどでダイナミックパースペクティブの機能を紹介していました。
最近、ゲーム業界ではOculus Riftやソニーのプロジェクト モーフィアスなど、ゴーグル型の360°全方向型のバーチャルリアリティデバイスが話題となっています。ただ、これらの技術が一般に普及するには、もう一つか二つ、技術的なブレイクスルーが必要になりそうだなと実感しています。そんな中、このダイナミックパースペクティブをうまく活用するゲームが登場したら、「これぞ、Wiiのモーションコントローラーに続く新しいブームを作れる技術じゃないか」とまで妄想してしまいました。
興奮した勢いでかなりの長文になってしまいましたが、僕がFire Phoneに感動した理由が少しでも伝われば幸いです。
もう一つ、発表会を通じて感じたのは、ジェフ・ベゾス氏とスティーブ・ジョブズ氏の類似点と相違点です。
プレゼンテーションの手法などは、かなりジョブズを意識しているというか、まんまジョブズ氏のプレゼン的な感じでしたし、ベゾス氏の先見性やクオリティに関するこだわりにもジョブズ氏に通じるものを感じました。世界初ではない新しい技術を、あたかも自分が初めて発明したかのようにアピールするあたりも似ているかもしれません(笑)。
ただ、ベゾス氏がジョブズ氏と根本的に違うところもあります。ジョブズ氏は全く新しいライフスタイルとプラットフォームをユーザーに提示して世界を変えていくのに対して、ベゾス氏は、既に成熟したプラットフォームの問題をじっくり検証し、最後発で乗り込んできて後出しジャンケンをするという感じでしょうか。
またAppleはハードウェアからソフトウェアまでを一環して開発しているのに対して、Amazonはハードウェアからソフトウェア、さらには流通や物販までを押さえています。Firefly機能なども、最終的にAmazonでのショッピングにつながるように作られているという意味では、Amazonハードウェアは最終的にAmazonコンテンツを売るためのプラットフォームなので、やる気になったらFire Phoneを無料で配っても損はしないんじゃないかと思ったりします。
そう考えるともう、“Amazon無敵”という感じです。けれどその一方で、Amazonはハードウェアとソフトウェアを握っているとは言っても、その中身を全て自前で設計しているわけではなく、多くの部分をAndroidや汎用品に依存しています。ここもよく言えば他社の“いいとこ取り”をしているのですが、一方のAppleはOSやプログラミング言語までを自前で開発しています。
このアプローチの差が最終的にどう影響するのかは気になります。とはいえAmazon的にはハードやソフトで成功しなくても、最終的に自社の物販・流通が加速すればいいと考えると、その時点でやっぱりAmazon無双なのかもしれませんが……。
実は、この記事を書き上げてる最中に「Google I/O 2014」が開催されました。ご存じの方も多いと思いますが、こちらの基調講演でもGoogleからたくさんの新しい発表があったので、そこら辺の対比もしたいなと思いつつも、まずはこの記事を書き上げることに注力しました。
次回に予定しているGoogle I/O 2014ネタでは、6月に怒濤(どとう)のように発表されたApple、Amazon、Googleあたりの動きをからめながらGoogle I/Oの内容に触れていけたらなと思っています(それにしても、6月に多数の発表会がまとまりすぎですね……)。
また今回の内容は、僕の運営しているポッドキャスト「backspace.fm」の#030でも紹介しています。興味を持たれた方はぜひこちらのPodcastも聴いてみてください。
著者プロフィール ドリキン
サンフランシスコ在住 ガジェット、テック系ブロガー。ブログはDrift Diary XVにて。最近、1週間分のテック系ニュースを配信するbackspace.fmというラジオ番組をITmediaの松尾さんと始めました。通勤のお供にぜひ聞いてください!
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