Eコマースサイトをより高速に、快適なものにするためのポイントをエンジニア視点で紹介してきたこの連載も最終回。最後に、これからのEコマースサイトの在り方を見ていきましょう。
連載第2回「もはや当たり前? CDNとクラウドを活用した構成」の中で、国内Eコマースサイト1社当たりの売り上げ・流通総額(推計値)を紹介しました(図1)。今回はその中から、自社で独自にEコマースビジネスに取り組む製造業系の動向についてひも解いていきましょう。
製造業・製造小売業の直販ECサイトの1社当たりの流通規模は100億円以下に集中しており、巨大Eコマースサイトである楽天やAmazonに遠く及びません。しかしながら、各社は独自にIT設備投資を行い、Eコマースサイトを営んでいます(クロスワープ調べ)。
それでは、まず一般的な小売業と製造業とで、Eコマースへの取り組みがどのように異なるのかを見てみましょう。
図2は小売業と製造業におけるEコマースへの取り組みの違いを、機能別に表した例です。小売業は、例えば「靴の販売を行う、店舗を持った事業者」といった形態を想像していただけると理解が早まります。店舗があり、在庫を持ち、O2O(Offline to Online)やオムニチャネルにより実店舗への顧客誘導と在庫流通効率化を図りつつ、ECモールやECサイトの売り上げの最大化を目的としているモデルです。
では製造業におけるEコマースはどうでしょうか? 製造業のEコマースサイトでは、顧客に対する自社ブランドの訴求を目的としてEコマースサイトが構築されている例が多く、差別化のためECモールなどへの出品は行いません。また製造業では、多くの場合店舗を持たないため、O2Oやオムニチャネル戦略は取り入れていません。
このように、業態によりEコマースサイトへの取り組みは大きく異なっているのです。
若干脱線しますが、Eコマースサイトではしばしば、規模の大小を問わず、購買行動と顧客層に特徴が見られます。
図3は「Amazonで購入されない商品ランキング」を示したものです。上位には「食品」と「貴金属」が入っています。私もこのグラフを見るまで気付いていませんでしたが、言われてみれば、Amazon経由で食品や貴金属を購入した経験はありませんでした。
これはあくまで一つの指標値ですので、このリサーチ結果全てが正しいとは言い切れませんが、このように巨大Eコマースサイトでも、“得意な分野”と“不得意な分野”があるのです。
この流れは、新興Eコマースサイトの成長からもうかがい知ることができます。
図4は新興Eコマースサイトの成長と流通規模を示したものです。GrouponやEtsyなど既に老舗に分類できる事業者に混じって、ZulilyやFabなど、創業から数年以内の事業者がランキングされています。これらの新興事業者が“得意な分野”を絞って戦略的に売り上げを伸ばしてきたことを意味するものといえるでしょう。
今も昔もビジネスにおいて「的確にターゲットを絞り、他社とは異なる強固な市場基盤を作っていく」手法が王道であることに変わりはありません。自社のファンを作り、一緒に成長していくことが、どのようなビジネスでも成功への第一歩なのです。
第2回の「もはや当たり前? CDNとクラウドを活用した構成」でも紹介した通り、Eコマースにおいては、ビジネスを加速させるためさまざまな手法が活用されてきました。
例えば、マーケットプレイスによる売買仲介や、オススメ商品を提示するレコメンド機能、集団購入によるディスカウント、サブスクリプションによる予約購入、ユーザー参加型の商品開発と販売、期間限定によるフラッシュセールスなど、主に6つのトレンドがEコマース市場形成の手段として使われています。
さて、製造業のEコマースサイトを考えた場合、自社製品のみを販売するためマーケットプレイスによる手法は該当しません。しかしその他の手法は全て、ビジネスを加速させる有効な起爆剤と成り得ます(図5)。
では、これらEコマースを加速させるビジネスモデルをサイトへ取り込んでいくには、どうすれば良いのでしょうか? システムエンジニア視点からひも解いていきましょう。
図6は、ECサイトのリニューアル時に見られるニーズと、その実現のためによく取られる対応方法です。
EC SaaSの場合、自社独自の機能を追加することは不可能ですので、多くのECサイトではECパッケージソフトに直接手を入れ、独自開発を行っています。また、ここ数年のクラウド化の流れを受けて、EコマースでもPaaS(Platform as a Service)によるシステム構築という手法も取られ始めました。
ECサイトをリニューアルする目的のほとんどが「新しいUI/UXによる商品訴求の強化」となっています。図7に示したZapposはそうした新しいUI/UXの一例です。こうした目的を達成するため、必然的に、既存システムの機能を損なうことなく迅速なカスタマイズ対応が求められることになります。
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