日本マイクロソフトブースの目玉は「.NET Micro Framework」のデモである。.NET Micro Framework自体は以前より提供しているものだが、組み込み機器開発業界での短納期化や開発コスト削減の機運が高まっていることから、初期段階でのプロトタイプ制作のための環境を求める声が高まってきている。一方で、低価格かつ、簡易な開発環境での試作が可能になってきたことと、クラウドサービスを利用した高速なアプリケーション開発環境が整ってきたことから、IoT関連のビジネス展開を検討するソフトウェア開発者に対してあらためて、同社の提供するIoTソリューション開発環境を示していた。
.NET Framework環境の開発に慣れ親しんできた開発者であれば、使い慣れたVisual Studio環境がそのまま使える点も有利だろう。導入障壁が低く、またターゲットに選べるボードの種類もある程度そろっている。
日本マイクロソフトブースでは、IoTのスターターキットとして「IoT Kit(仮称)」の紹介もあった。若松通商が販売する「SAKURAボード」(センサーモジュール付き)と.NET Micro FrameworkやVisual Studio、Microsoft Azureなどを組み合わせたもの。ベースボードはルネサスエレクトロニクスが展開するCoretex-Aマイコン「RZ」を搭載した「GR-PEACH」だ。11月中旬の提供開始を見込んでおり、価格は9000円前後になる予定だという。
非組み込み系ソフトウェアエンジニアが、いわゆる「フィジカルコンピューティング」を実現するための環境は、古くは「Gainer+」「Arduino」、あるいは現在人気の「Raspberry Pi」などがある。JavaScriptなどの言語でAPIを操作すれば済む環境が整ったことで、従来、ハードウェア知識がないと踏め込みにくかった組み込みの世界に、ソフトウェアエンジニアが入り込む間口は大きく広がった。命令セットやC++テンプレートなどの知識なしでも、あらかじめ用意されているライブラリを利用して、慣れ親しんだ言語環境を使い、シンプルな工数で組み込み機器向けアプリケーション開発が可能になっなった。そのため、例えば、センサーの値を取得してサーバーに送るようなプログラムを、(クロスプラットフォーム開発の手間はあるにせよ)Webアプリケーションを作る場合とさほど変わらないプロセスで実装できる。
IoT機器のセンサー情報を取得する環境は「Visual Studio 2012」と.NET Micro Frameworkを使い(.NET Micro FrameworkはVS 2013は非対応)、センサーデータの格納はインターネット経由でクラウドサービスである「Microsoft Azure」を利用、クラウドに格納したデータの閲覧・加工にはVisual Studioで開発したアプリケーションや「Excel」「PowerBI」を利用できる。
「従来、この領域はCやC++を使い、職人技の実装が多かった。しかし、昨今の製品ライフサイクル短期化に伴い、組み込み機器のソフトウェア開発には高い生産性を求められるようになってきている」(ブース説明員)
ポイントとなるのは、Windows Azure環境では機械学習サービスが既に用意されているところだろう。センサーから取得した情報群を蓄積し、その情報を基にした将来予測などのアプリケーションを、あらかじめ用意されている分析モデルを使って比較的少ない工数で開発できる。
また、ある意味でデータ分析のデファクトスタンダードともいえるExcelや、オンラインで公開されているデータからインテリジェントにデータを取得、可視化する機能を持つPowerBIも利用できる。出口アプリケーション構築の容易さにおいても、.NET Frameworkでのアプリケーション開発経験者にとっては非常に魅力的なものになっているといえるだろう。
IoTと言ったときに、産業機器などと組み合わせた開発が必要なデバイスやデータ分析アプリケーションと組み合わせた大規模ソリューションを想起しがちだ。しかし、実際にはここで見てきたプロトタイプのように、ソフトウェアスキルを軸に、デバイスのAPI、クラウドサービスのAPIなどの知識を使ってアイデアを膨らませられる状況がそろいつつある。
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