ここまで、システム構築・運用の自動化という観点で、OpenStackの意義を説明しました。図3は、OpenStack誕生4周年記念イベントに向けて、OpenStack Foundationが作成した公式のロゴマークです。ちょっとイケてない感じのロボットですが、その下に「AUTOMATE ALL THE THINGS(全てを自動化する)」というメッセージが書かれています。つまり、自動化を徹底的に追求することは、OpenStackの開発者たちが目指す理想でもあるのです。
冒頭では、「伝統的な企業システム」の人手に頼った運用を取り上げましたが、それをやゆするつもりはありません。運用の自動化という概念がまだ一般的ではなかった時代では、これが普通のことでしたし、システム間の依存関係を考えながら適切な運用手順を組み上げるには、システム全体の深い理解が必要でした。
言い換えると、OpenStackにより一気通貫の自動化が可能になったとしても、「適切な自動化の流れ」を作り上げるには、アプリケーション間の連携、アプリケーションとOSの依存関係など、システム全体の理解が求められることに変わりはありません。これまでと異なるのは、これまで別々のスキルセットを持ったチームで管理されていたコンポーネント群が、一つの仕組みとして統合的に取り扱えるようになるということです。
OpenStackを活用したシステム構築・運用の世界では、仮想化された複数のコンポーネントを組み合わせてシステムをデザインするという能力を基礎として、先に紹介したツール群を利用して、これらの操作を自動化していくというスキルが要求されるようになります。
特に、伝統的な手順書運用の企業システムを新たなOpenStackの世界へと移行する上では、既存システムの仕組みについても、その全体像を把握して、段階的に自動化の世界へと移行していく必要があります。これまで、バラバラのチームに分断されていたノウハウをどのように統合して自動化していくのか、そこには、エンタープライズ企業ならではの高度なチャレンジが待っていることでしょう。
クラウドの登場に合わせて、「フルスタックエンジニア」という言葉が注目を浴びるようになりました。今回の説明から分かるように、OpenStackを使いこなすという観点では、「インフラからアプリケーションまで、あらゆる知識を持っている」という単純な話ではありません。広い範囲の知識を持つことは大切ですが、それらの知識を総合して、自動化というクラウドのメリットを最大限に引き出すように、システム構築・運用の仕組みを作り上げていくことが求められます。
これまでの企業システムにおいても、システム全体の仕組みを理解したエンジニアがいなければ、個々のパーツの専門家だけが集まっても、システム構築はうまくいきませんでした。クラウドの世界における、仮想化されたシステムの全体像を「広く・深く」理解できるエンジニアは、これまで以上に重要な役割を担うようになるでしょう。
もちろん、OpenStackのクラウド基盤そのものを構築するという観点では、仮想化された世界の理解だけでは不十分です。仮想化を支える、物理サーバー、物理ネットワーク、物理ストレージに加えて、OpenStack内部で利用されるさまざまなLinux技術に精通する必要があります。クラウド基盤を構築するエンジニアと、クラウド上の仮想化された環境を自動化で効率的に構築・運用するエンジニア――OpenSatckは、新たな二つのエンジニアの流れを生み出そうとしています。
次回は日本OpenStackユーザ会 会長の中島倫明氏が、OpenStackの機能セットを詳しく解説します。
中井 悦司(なかい えつじ)
日本OpenStackユーザ会メンバー
レッドハット株式会社 クラウドエバンジェリスト
予備校講師から転身、外資系ベンダーでLinux/OSSを中心とするプロジェクト、および問題解決をリードする傍ら、多数のテクニカルガイド、雑誌記事などを執筆。その後レッドハットに移り、エバンジェリストとして企業システムにおけるLinux/OSS活用の促進に注力。最新の著作として『オープンソース・クラウド基盤 OpenStack入門』(中島倫明 共著/監修:中井悦司、KADOKAWA/アスキー・メディアワークス刊)を執筆。
スピーディなビジネス展開が収益向上の鍵となっている今、ITシステム整備にも一層のスピードと柔軟性が求められている。こうした中、オープンソースで自社内にクラウド環境を構築できるOpenStackが注目を集めている。「迅速・柔軟なリソース調達・廃棄」「アプリケーションのポータビリティ」「ベンダー・既存資産にとらわれないオープン性」といった「ビジネスにリニアに連動するシステム整備」を実現し得る技術であるためだ。 ただユーザー企業が増えつつある一方で、さまざまな疑問も噴出している。本特集では日本OpenStackユーザ会の協力も得て、コンセプトから機能セット、使い方、最新情報まで、その全貌を明らかにし、今必要なITインフラの在り方を占う。
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