「年末年始に、何か本を読んでみようか」と思っている、SF好きのエンジニアにお勧めしたい一冊『SF映画で学ぶインターフェースデザイン』監訳者の安藤幸央氏に今後のUIやシステムはどうなっていくのかを伺った。
「年末年始に、何か本を読んでみようか」と思っている、SF好きのエンジニアにお勧めしたい一冊がある。2014年7月に出版された『SF映画で学ぶインターフェースデザイン アイデアと想像力を鍛え上げるための141のレッスン』(丸善出版/Nathan Shedroff、Chiristopher Noessel著/原題『Make It So』)である。
この本は、古今のSF映画に登場する「インターフェース(ユーザーインターフェース、UI)」のデザインに徹底的に着目したものだ。SF映画の中で、人間が機械に意図を伝えたり、逆に人間が機械から情報を受け取ったりするためのUIが、どのようにデザインされ、機能しているかを知ることで、現在、仕事としてUIを作っているデザイナーや開発者が、現実世界における「優れたUIデザイン」の着想を得ることを目的としたものである。
本の中で取り上げられている作品は、1902年に公開された古典、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』から、『宇宙大作戦(スター・トレック)』『スターウォーズ』『エイリアン』『ターミネーター』『マトリックス』『ブレードランナー』『マイノリティ・リポート』などのメジャー作、さらには『銀河ヒッチハイク・ガイド』『バーバレラ』といった、SF映画ファンにはなじみの深い作品まで多岐におよぶ。本書で扱われている最新の作品は2011年公開の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』だが、実にSF映画の100年以上の歴史を「UIデザイン」という観点で詳細に調査、分析した貴重な成果となっている。
各時代のSF映画に登場するUIは、制作された時代背景を下に、制作者たちの豊かな想像力によってデザインされている。実際の技術研究の延長線上に想像され、その後、すでに現実となったものもあれば、現時点でも実現不可能な奇抜なものまで、振れ幅も広い。そして、これらの多種多様なアイデアは、現在、仕事としてUIデザインにかかわる人々に、機械と人間との、より良い、より快適なインタラクションについて考えるための新鮮なインスピレーションを与えてくれる。
この本の日本語版の監訳者を務めたのは、自らもUXリサーチャーやCGプログラマーとして多くのUIデザインを手掛けてきたエンジニアの安藤幸央氏だ。@ITでも「安藤幸央のランダウン」というコラム連載を執筆している。今回、安藤氏に、同書籍の中に登場するUIに関連して「近未来、人間と機械とのインタラクションはどう変わっていくのか」について話を聞いた。
――今回は主に『SF映画で学ぶインターフェースデザイン』の中に出てくる、さまざまなタイプのUIについて、現状がどうなっているのか、今後どうなっていきそうかについて、お話をお伺いできればと思います。
2014年9月に行った@ITの読者調査でも、「興味がある次世代技術」として1位に「ウェアラブル」、2位に「3Dプリンター」、以下「クラウド」「スマホアプリ開発」「ロボット/人工知能」「ビッグデータ/機械学習」「IoT」「生体認証」「KinectなどNUI」「電気信号による触覚、嗅覚、味覚の制御/脳波」「遺伝子解析/ヘルスケア」などが上位にあがりました。書籍でも下記のように分かれて紹介されていて、共通する部分があります。
そこで、それぞれの技術について順番に、日本の現状、世界の現状、SF映画での使われ方、エンタープライズでの生かし方、2015〜2020年の近未来に実現できるかどうかの未来予測などを伺います。よろしくお願いします。
安藤 よろしくお願いします。今回の記事に関しては、ある技術がSF映画で公開された年と実現された年をマッピングした「The Fiction to Reality Timeline」という年表があるので、これも参考になると思います。
――ありがとうございます。
――では最初は「機械式コントローラー」です。いわゆる物理的な「ハンドル」や「レバー」「ボタン」といったものですね。
安藤 本書の中で例として出ているのは『スタートレック』における「エンタープライズ号の操縦桿」です。他の部分は、全てデジタルで操作していますが、操縦桿だけは手で操作する機械式のものなんですね。全てがデジタル制御になれば、本来はアナログ時代の「機械」を模倣したコントローラーを付ける必要は特にないはずです。
しかし、多くのSF映画の中でも、現実でも、そうはなっていない。長く残っている「ハンドル」「ボタン」「スライダーレバー」のようなUIは、人間が「身体の延長」として使える、最も使いやすい道具として残されているのでしょうね。
「身体の延長」として捉える際に重要なのは、機械からの「フィードバック」が大きいと思います。プログラマーの中にもキーボードにこだわる人は多いのではないでしょうか。大切なのは「押し下げる」時に力のフィードバックがあることで、これがあるからこそ快適に使えているわけです。タッチパネルだとそれがないため、かえって効率が下がってしまいます。
――逆に、キーボードよりも効率の良い入力手段が見つかれば画期的なのかもしれませんが、ちょっと思いつきませんね。機械式のキーボードは今後も残っていくんでしょうか。
安藤 キーボードのタッチパネル化はあらゆる場面で進んでいますが、特に、大量の入力を素早く行わなければならない、専門の用途などでは機械式のものは残っていくでしょう。以前、デジタルカメラのプリントサービスの工場のようなところで、色調整などを行う職人さんが、1列しかない専用のキーボードを、ものすごいスピードで操作して作業しているのを見たことがあります。「手元を見ないで」「素早く」入力するための装置は、タッチパネル化するのは難しいのではないでしょうか。
また、機械式のキーボード入力は、人間が「練習」することで、どんどん能率が上がっていくという要素もあります。練習すると、キーボードを自分の身体の延長として使いこなせるようになるということで、楽器の習得に近いものがあると思います。この「身体の延長」としての感覚はかなり強力なもので、これを代替するものが登場しない限り、当分は使われ続けるのではないでしょうか。
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