“グローバル・スペシャリティファーマ”としてのブランド確立にAWSを活用。協和発酵キリン 情報システム部長に聞く「安定運用」の真意ITでビジネスを変革。デジタル時代のテクノロジリーダーたち(2)(2/3 ページ)

» 2015年05月15日 05時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]

「クラウドの方が品質は向上する」

編集部 クラウドへの移行はどのような方針で進めているのですか?

篠田氏 現在(2015年4月)、約400台の物理サーバーを運用していますが、更新を迎えたものから順次Amazon VPCに移行しています。現在の進捗はおよそ全体の30%。2014年12月には、弊社の基幹系システムの中核ともいえるシステム、トランザクションHubもサーバーが更新時期を迎えたためクラウドに移行を済ませました。移行できるサーバーは基本的に全てクラウドに移すという方針で進めています。

編集部 ただ、先に品質のお話も出ましたが、一般にパブリッククラウドというとセキュリティや安定運用などを危惧する声もあります。重要なシステムはオンプレミスの物理環境で、優先順位が低い、あるいは頻繁に変わるシステムはクラウドで、といった使い分けの議論もあります。貴社の場合、そうした点が導入の懸念材料にはならなかったのでしょうか。

ALT 「Amazon VPC」へのシステム全面移行を推進(資料提供:協和発酵キリン)

篠田氏 そうした懸念はまったくありませんでした。というのも、クラウドは障害が生じたときに別のサーバーに即座に切り替える、すぐに新しいサーバーを起動して復帰するといった際のスピードがオンプレミスとはまったく違うからです。短期復旧という点では、クラウドの方が全体的な品質は上がっていると評価しています。

 それに、もともとオンプレミスのシステムは“ハードウエアそのもの”に保証があったわけではありません。つまり“ハードウエア製品としての品質”は保証していても、故障率を保証しているわけではないため、故障して止まるケースも実際にあったわけです。一方、AWSはISO9001(製品やサービスの品質マネジメントについてグローバルで認められた標準)などの認証を取得しており、「サービスレベルや管理レベルを証明する保証」もユーザーに明確に提示してくれます。

 すなわち、自社で実現したい業務/品質レベルと、サービスレベルの保証内容を検討した上で利用できるわけです。“ハードウエアの安定稼働”ではなく“ビジネスの安定稼働”を考えることに注力できる点はクラウドのメリットだと思います。

 AWSを選んだのも、迅速なシステム配備が可能なことや、障害対応の速さ、リーズナブルな価格などもありましたが、やはり各種認証を取得しており品質面で優れていたことが第一の要因です。「SAP ERP」「Oracle Database」など、ミッションクリティカルな基幹系システムの動作保証もするなど、各ベンダーと協業するサービス提供体制が整っていたことも評価しました。

問題は、ビジネスの求める基準にインフラが適合しているか否か。「オンプレかクラウドか」ではない

編集部 なるほど。しかし、エンタープライズHubが管理するマスターデータは貴社の競争力の源泉となるものだと思うのですが、社内でクラウド移行に対する抵抗はなかったのでしょうか?

篠田氏 もちろん当初は「エンタープライズHubはオンプレミスに残す」という意見もありました。ただ、この業界において競争力の源泉となるデータとは「薬を開発する前の研究段階のデータ」です。実際に薬を開発するためのデータは、官公庁に公開するデータであり、特許としても公開するものです。その意味では、エンタープライズHubには事業の根幹を揺るがすようなデータはそれほどありません。とはいえ前述のように、データは業務を安全・効率的に遂行するための核となる資産。しっかりと守る必要があります。

 つまり重要なのは、データ自体の価値の重さというより、「データを守れるか守れないか」なのです。その観点で言えば「自社のデータセンターだから安全」という一方的な考え方は成り立ちませんし、自社の定めた基準でデータが守られるなら、クラウドかオンプレミスかはあまり関係がないといえます。AWSを選定する際も「守れるか否か」に注目し、インフラのセキュリティを保証する複数の認証を取得していることなどを評価しました。クラウドもデータセンターという環境の一つです。“ビジネスを安全・確実に遂行する上での弊社が求める基準”に適合していれば、オンプレミスかクウラドかは関係ないのです。

 実際に使ってみると、ビジネスに影響を与えるような違いもありませんでした。むしろ「万一の際、即座に別のサイトでシステムを動かすことで安全性、事業継続性を担保する」という点ではクラウドの方が適していると考えています。

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