“グローバル・スペシャリティファーマ”としてのブランド確立にAWSを活用。協和発酵キリン 情報システム部長に聞く「安定運用」の真意ITでビジネスを変革。デジタル時代のテクノロジリーダーたち(2)(3/3 ページ)

» 2015年05月15日 05時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]
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クラウド導入以前から、運用作業を徹底的に標準化

編集部 一方、クラウドへの移行過程にある点で、現在はオンプレミスとのハイブリッド環境となっているわけですが、運用管理はどのように効率化しているのですか?

篠田氏 運用は2001年からアウトソーシングを進めており、情報システム部門の運用管理グループがコントロールしています。オンプレミスとは別にクラウドのデータセンターが増えたというだけで、管理方法は基本的に従来と同じです。

 一つのポイントは、運用ルールを標準化して「誰でも運用できる仕組み」を以前から確立していることです。例えば、サーバーの構築・設定もその手順に従うだけですし、リソース容量などの選択肢もあらかじめ決めているため、スキルを問わず誰でも正確に実施することができます。クラウドのスピードを生かす上で自動化は一つのカギとなりますが、徹底した標準化を進めているため、現時点では大規模な自動化ツールは必要がないと判断しています。

編集部 クラウド環境ではその手軽さ、柔軟性ゆえに仮想サーバーが乱立するなどガバナンス面で問題が生じやすい側面もありますが、その点はいかがですか?

篠田氏 もちろんサーバー構築の申請・承認フローを設定している他、フローを通さず勝手にサーバーを立てるとネットワーク上でそれを検知して、ネットワークに接続できない仕組みとしています。こうした仕組みは物理環境の時代、2000年代前半から導入しています。

 またハイブリッド環境という点では、現在はクラウドとオンプレミスのハイブリッド環境を構築できる「VMware vCloud Air」も評価中です。より効率的に運用できるインフラを築くため、クラウドはクラウドの専門家、運用は運用の専門家のノウハウを活用して、新しいテクノロジに着目しつつ常に改善を目指すとともに、われわれはビジネス推進に必要な取り組みに集中する。こうしたスタンスは今後も変わりません。

システムを“変えないこと”は、それ自体がリスク

編集部 昨今は、ハードウエアの安定運用のみに終始しがちな傾向に対して、「システムのお守りだけでは通用しない」「IT部門は業務に寄与すべきだ」といった声もあるわけですが、貴社の場合、まさしく常に業務を見据えてインフラを検討・整備されているわけですね。

篠田氏 「お守りをする」という考え方自体、私は持ったことがありません。というのも、システム運用は「しっかりと継続性のある形で、サービスレベルを担保すること」がミッションです。そのためにコスト低減には当たり前に取り組みますし、事業継続性を確実に担保できる強固な基盤提供にも努めます。また、事業に即した形で迅速にシステム基盤を整備・運用できることも不可欠です。これらは単にシステムの稼働状況を見ているだけでは決して実現できません。

 つまり「システムの安定運用」とは、新しい技術を導入しない、改善しないということでは決してないのです。新しい技術を早めに取り込むことで、業務を支え収益に貢献できる、より効率の良いシステム、よりメンテナンス性の良いシステムを作る、あるいは改善し続けることなのです。この考え方を大前提に、粛々と取り組みを進めていくことがインフラ運用では大切だと思っています。

 「安定」は「“変えないこと”から生まれる」と思われがちですが、これは誤解です。変えないことはそれ自体がリスクです。常に変えられる体制をいかに作っていくか。それをマネジメントしていくことが大切です。変更できないシステムほど怖いものはありません

編集部 まさしくそうした考え方が、クラウドの全面的な活用につながっているわけですね。最後に、次代を支える若手のエンジニアへメッセージをいただけますか。

ALT 「安定は“変えないこと”から生まれると思われがちですが、これは誤解。変えないことはそれ自体がリスク。何もやらずに安定を取る姿勢はいずれ破綻する」

篠田氏 そうですね。業務を安定的に支えることがシステムの役割である以上、「誰のためにこの仕事に取り組んでいるのか」をよく考えることが大切だと伝えたいですね。それは「会社が成長するため」であり、ひいては、弊社の場合「世界中の患者さんに貢献するため」です。われわれはそのためにシステムを構築・運用しています。システムに閉じた視点ではなく、そうした最終目的を見据えて、システムの観点から“業務そのもの”を設計できる人材になってほしいと思いますね。その意味では、情報システム部門のスタッフも、他の部門と同じゴールを見ることが大切です。

 また、データ中心アプローチは、「物理の事象をどのように汎化してデータとして表すか」を大切にする考え方だとお話ししましたが、同様に「言葉」も大切にするべきですね。物事の本質を捉えて、誰にでもしっかりと伝わる言葉で表現していく――これは業務部門やパートナーなど、全てのステークホルダーと有効なコミュニケーションを図る上でも必須のスキルです。業務そのものを設計・改革し、それを実行できるよう周囲をサポートし、導いていけるようになることが大切だと思います。

 一方で、運用管理には、先にお話ししたような意味で、粛々と取り組む。新しい技術を知り、それを適用していくのは当たり前のこと。何もやらずに安定を取る姿勢はいずれ破綻を招きます。“より良いもの”に向けて果敢にチャレンジしていくスタンスこそが、技術者としてあるべき姿の真髄だと私は思います。

 クラウドが広く浸透した今、「オンプレミスか、クラウドか」といった議論は多くの企業にとって共通のテーマだ。だが最も大切なのは、業務とその推進に必要なインフラの要件だ。われわれは、ともすれば、まず“手段ありき”でそこに要件を当てはめていくような考え方に陥りがちなものだ。今回の篠田氏の言葉は、インフラ選定、運用管理の上でまず考えるべきことは何なのか、あらためて気付かせてくれるものだったといえるのではないだろうか。

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