基調講演に続いて、ベンダーによる個別セッションが行われた。セッションを担当したのは、EMCジャパン、デル、日本IBM、アリスタネットワークスジャパン、NECの5社。いずれも、OpenStackやオープンソースコミュニティに積極的に関わり、ソリューション展開で企業のOpenStack活用を支援する企業だ。それぞれのセッションの内容をダイジェストでお届けしよう。
EMCジャパンのセッションには、アドバイザリーシステムズエンジニアの吉田尚壮氏が登壇。「シンプルで高性能! 明日から使ってみたくなるストレージとは?」と題した講演を行った。吉田氏はまず、OpenStack環境のストレージについて、多くの管理者が選定に迷っている実態を指摘した。
テスト段階では、「Ceph」やローカルディスク(LVM)を使うケースが多いものの、本番環境への適用については「検討中」がほとんどだという。OpenStackでは、ブロック、ファイル、オブジェクトなど、用途に応じてさまざまなストレージサービスが利用できるが、それぞれをどう使い分けるかにユーザーは悩みがあるようだ。
こうした課題に対し、EMCがOpenStackに適したストレージとして提案するのが「ScaleIO」だ。ソフトウエアベースのストレージ製品で、サーバーの内蔵ディスクを共有ストレージ化する。EMCが提供する「Cinder Driver」を利用することでブロックストレージとして利用することが可能だという。吉田氏はデモを交えて、ScaleIOの特徴である、導入の容易さ、ノード拡張/縮小のしやすさ、パフォーマンスの良さなどを紹介した。
デルのセッションでは、エンタープライズソリューション&アライアンス部 クラウドソリューションビジネス推進マネージャー 増月孝信氏が登壇。「OpenStackを取り巻くオープンクラウドエコシステム」と題し、デルのOpenStackへの取り組みの内容やレッドハットと共同で展開するソリューション、クラウドエコシステムの内容を紹介した。
デルは、OpenStack Foundationのゴールドメンバーであり、プラットフォームベンダーとして世界初のOpenStack構築ソリューションを発表した。また、2013年にはRed Hat OpenStackを共同開発してOEM提供を開始。2014年には国内でレッドハットらとともにオープンなクラウドを推進する「OSCA(Open Standard Cloud Association)」を発足させた。
増月氏はそうしたOpenStackへの取り組みを紹介した上で、ストレージ分野で展開するSoftware-Defined Storage製品、ネットワーク分野で展開するSoftware-Defined Networking製品を組み合わせて、インフラをソフトウエアでスピーディかつ確実に制御する方法を紹介。クラウドエコパートナーとして日々ユーザー企業の相談を受けながら、実業務で即座に使える連携ソリューションを用意している強みを訴えた
日本IBMのセッションでは、クラウド事業部クラウド・テクニカル・サービスの諸富聡氏が「OpenStackで実現する企業の次世代インフラ 〜OpenStack実装事例のご紹介〜」と題する講演を行った。
OpenStack Foundationのプラチナメンバー8社のうちの一社であるIBMは、IBM版のOpenStackディストリビューションを提供している。2013年にはクラウド関連製品をOpenStackベースのアーキテクチャにして、プライベートとパブリックの両クラウドを構築することを発表。「IBM SoftLayer」を活用したOpenStackサービスの提供も開始した。
このうち、顧客占有型のOpenStackサービスとして提供しているのが「IBM Cloud OpenStack Service(ICOS)」だ。セッションでは、ICOSの特徴である、専用IaaS環境であることのメリット、99.95%の高い可用性、24×365運用サービスを紹介しながら、企業がどのようにOpenStackを実装していけばよいかを解説した。また、自動構成管理「OpenStack Heat」の開発に、IBMの構成管理手法の一つである「パターン」を活用していることや、パブリックとプライベートを柔軟に使い分けるクラウド管理手法「Dynamic Hybrid」などを紹介した。
アリスタネットワークスジャパンのセッションでは、技術本部本部長の兵頭弘一氏が登壇。「Openstack環境を支えるデーターセンターネットワークに求められるものは何か?」との演題で、OpenStackにおけるネットワークの課題と同社のソリューションを解説した。
仮想化、クラウド、データセンター向けのネットワーク機器を提供する同社は、OpenStackに関してはNeutronのリファレンス実装である「ML2(Modular Layer 2)プラグイン」の開発で貢献しているという。
このML2プラグインは、テナントネットワークの状態と、そのテナントネットワークがネットワーク上でどう具現化されているかを分離表示する機能や、仮想ネットワークと物理ネットワークを柔軟に管理する機能を提供するもの。さらに、アリスタ製品とOpenStackを連携することで、OpenStack環境の状況可視化や、テナントに連動した物理ネットワークの自動プロビジョニング、ネットワークのオーケストレーションなどが可能になることなどを紹介した。
NECのセッションでは、プラットフォームサービス事業部OSS推進センター エキスパートの鳥居隆史氏が登壇。「現場の経験から語るOpenStack活用の実際」と題し、OpenStackを取り巻く状況を概観するとともに、OpenStack活用のさまざまなTIPSを紹介した。
鳥居氏はまず、OpenStackの価値の一つは「よく考えられたAPI」にあり、そのためSoftware-Definedな開発運用が可能なこと、次々と登場する新しいハードウエア、テクノロジにも対応できることなどを指摘。ビジネス要請に即応できるインフラを実現することで機会損失の排除にもつながることを述べた。
OpenStackの導入については「小さく初めて大きく育てることが望ましい」とアドバイス。これは「最初から動くものを作る」という意味だという。「車を作ることに例えると、タイヤからベアリング、車体の生産と進むのでなく、スケートボードからキックボード、自転車、バイク、自動車と作るものを発展させていくイメージ」だ。
また、運用で重要なこととして「とにかく自動化すること」「規模が小さいからといって手動で行わないこと」を指摘。CI/CD(Cotinuous Deployment)においては「とにかくテストすること」「テスト自動化が必須」であり、CI/CDをシステムとして実装することも推奨した。最後に重要な要素として「文化(会社のカルチャー)を変える」ことを挙げるなど、導入・活用の要件を分かりやすくまとめた。
セミナーの最後を飾ったのは、2015年5月17〜22日にカナダ・バンクーバーで開催された「OpenStack Summit Vancouver 2015」への参加者による特別講演だ。同サミットは、過去最高となる約6000人、106の企業が参加するなど、グローバルでのOpenStackへの注目度の高さを象徴するイベントとなった。
その模様について、インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)プラットフォーム本部システム基盤技術部の齊藤秀喜氏、伊藤忠テクノソリューションズ クラウドイノベーションセンターの後藤僚哉氏、グリー インフラストラクチャ本部の大山裕泰氏の三氏が、バンクーバーサミットで実施された注目セッションをそれぞれの視点で選び、その内容を“生の興奮”として伝えた。
ここで紹介されたセッションは、いずれも動画が「OpenStack Summit Vancouver 2015」の特設サイト上に公開されているのでぜひ参考にしていただきたい。
まず、IIJの齊藤氏がピックアップしたのは、以下のHA関連セッションだ(以下のリンクは全て「OpenStack Summit Vancouver 2015」特設サイト内の動画コンテンツにリンク)。
齊藤氏は参加に当たって、「プロダクション環境でのシステム構成例」「コントロールプレーンでの高可用性を確保する手法」「コンポーネントや機能ごとのHA構成ノウハウ」などに期待を寄せていたという。実際、参加者らの期待を反映してHA関連セッションはどれも満員状態。HA構成についてはこれまでノウハウが定まっていない部分もあったが、今回のセッションを通じて、実戦で使えるベストプラクティスが出そろってきたことを実感したという。ぜひ上記のセッション内容を見てみてはいかがだろうか。
また、サミットはOpenStackに関心を持つ世界中のエンジニアとの交流の場でもあり、関連テクノロジの最新情報を獲得できる上、気軽に参加しやすい雰囲気であることを紹介。来場者らに積極的な参加を促した。
続いて登壇した伊藤忠テクノソリューションズの後藤氏は、OpenStackのバージョンアップ問題に注目し、以下の2つを注目セッションとして紹介した。
OpenStackがリリースを重ねるうち、「どうバージョンアップを行うか」という課題に直面する企業も出てきた。だが後藤氏によると、資料が少なく、複雑に絡み合ったコンポーネントの調整は大変だという。
特にプロダクション環境について、バージョンアップの「ダウンタイムをどう見積もるか」「どんなツールを使っているのか」「そもそも本当にできるのか」を確かめたいという思いがあったという。参加してみると、バージョンアップ問題は本番環境の本格利用が進む中で実例がそろいだした状況だという。「CI/CDやオーケストレーションツールを巧みに使うなど、それぞれの環境で工夫することがポイントだ」とした。
グリーの大山氏が注目したのは「文化の変革」だ。具体的には、トロント・ドミニオン銀行(TD Bank)とタイム・ワーナーケーブル(Time Warner Cable)の2社の以下の事例講演を挙げた。
TD Bankは企業買収を繰り返した結果、規模が大きくなり、ベンダー依存になっていた。そこで50人規模のエンジニアリングセンターを設立。OpenStackの採用などで技術の断片化を解消し、組織のサステナビリティを向上させる変革を進めた。
タイム・ワーナーケーブルは、オンデマンド時代に対応すべく、プログラマブルでオンデマンドな提供ができるOpenStackを導入。取り組みを進めた結果、アプリケーションのクラウドへの移行が進み、さまざまな付加価値が提供できるようになったという。大山氏はこれらの事例に基づき、「OpenStack導入の際には、企業文化を変えることが重要だ」と述べ、インフラ変革の前提条件を力強く訴えた。
今回のセミナーには150人の定員を大幅に上回る174人が参加。スピード、柔軟性、新しい要素を随時取り入れられるオープン性など、「今、経営環境がITインフラに求めている要件」に応え得るテクノロジとして、国内でも着実に関心が高まっていることがうかがえた。コミュニティやユーザー、ベンダーの取り組みにより、導入・運用のベストプラクティスも固まりつつあり、導入のハードルは急速に下がりつつある。現在の運用課題を抜本的に解決するための方策として、あらためてOpenStackの可能性を見据えてみてはいかがだろうか。
スピーディなビジネス展開が収益向上の鍵となっている今、ITシステム整備にも一層のスピードと柔軟性が求められている。こうした中、オープンソースで自社内にクラウド環境を構築できるOpenStackが注目を集めている。「迅速・柔軟なリソース調達・廃棄」「アプリケーションのポータビリティ」「ベンダー・既存資産にとらわれないオープン性」といった「ビジネスにリニアに連動するシステム整備」を実現し得る技術であるためだ。 ただユーザー企業が増えつつある一方で、さまざまな疑問も噴出している。本特集では日本OpenStackユーザ会の協力も得て、コンセプトから機能セット、使い方、最新情報まで、その全貌を明らかにし、今必要なITインフラの在り方を占う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.