Windows 10では機能の追加や更新のスキームが変わり、短い期間でマイナーアップデートを繰り返すようになる。その一方で企業ユーザーのために、極力機能を追加/変更しないエディションもサポートする。
2015年7月末にWindows 10が正式にリリースされ、すでにアップグレードした人もいるだろう。無償アップグレードではWindows 10のHomeかProエディションにのみアップグレードできる。たが、Windows 10にはそれ以外にもいくつかエディションがある。今回は、Windows 10のエディション構成と今後開始されるWindows 10の更新スキームについて解説しておく。
Windows 10で利用可能なエディションには次のようなものがある。これ以外にも、英語版Windows 10などでは「Nエディション」と呼ばれる、一部の機能が削除されたエディションがあるが、日本語版では利用できないので除外している。
エディション | 機能概要 |
---|---|
Windows 10 Home | 一般ユーザー/家庭向けの一番基本的なエディション。タブレットから2 in 1デバイス、PCなど、非業務用途向けのWindows 10。Windows 8/8.1(Coreエディション)の後継 |
Windows 10 Pro | Windows 10の上位エディション。ハイエンドユーザーやビジネス用途向けに、より多くの機能を備えている。ドメインへの参加機能やHyper-V、ビジネス向けWindows Updateなど、企業内で利用する機能も備える。Windows 8/8.1 Proの後継 |
Windows 10 Enterprise | Windows 10 Proに対して、企業向けの機能や管理、セキュリティ機能を強化したエディション。DirectAccessやWindows To Go、AppLocker、Credential Guard、Device Guardなどの機能が利用可能。ボリュームライセンスでのみ提供される。Windows 8/8.1 Enterpriseの後継 |
Windows 10 Enterprise 2015 LTSB(Long Term Servicing Branch) | Windows 10 Enterpriseと同じだが、新機能の追加は行われず、セキュリティアップデートのみが適用され続けるエディション。新機能の導入などによるトラブルや再教育の必要性などを避け、同じOSをずっと安定して利用するためのエディション |
Windows 10 Education | アカデミック向けボリュームライセンスでのみ提供される、主に教育機関向けのエディション。機能的にはほぼWindows 10 Enterpriseと同等。Windows 10 Home/Proからのアップグレードが可能 |
Windows 10 Mobile | スマートフォンや小型タブレットなど、主にタッチ操作で利用するデバイス向けのエディション。従来のWindows Phoneの後継 |
Windows 10 Mobile Enterprise | Windows 10 Mobileに対して、管理機能やセキュリティ機能などを強化したエディション |
(Windows 10 with Bing) | 正式な発表はまだないが、低価格PC向けの無料バージョンとして、Windows 8.1 with Bingの後継として販売されると考えられる。ちなみに、Windows 8.1 with BingのPCは無償でWindows 10 Homeへアップグレード可能だ |
Windows 10 IoT Core | IoT(Internet of Things)向けのWindows 10。ATMや組み込み機器などで利用できる、省メモリ、省ディスクのWindows 10 |
Windows 10のエディション構成 |
Windows 10のエディション構成はWindows 8/8.1などと同じように見える一方で、Windows 10 Enterprise 2015 LTSBのように、全く新しいエディションもある。
Windows 10ではこれまでのWindows OSと違い、数年に一度のメジャーバージョンアップではなく、もっと短い間隔で小まめに機能強化が図られることになった。数年ごとに大きくバージョンアップを行うのは、ユーザーにとっても開発側にとっても負担やリスク(操作性が大きく変わって使いづらくなったり、今まで動作していたものが動かなくなるなど)が大きいし、移行作業にも手間が掛かる。
これを避けるため、今後は細かい改良や機能追加などを頻繁に行うことにした。また実際に新しい機能を一般公開する前に、一部のユーザーに向けてプレビュー版を配布し、ユーザーの反応などを見ながら開発/リリースを進めることにした。このために新しく導入されたのが「Current Branch for Business」や「Long Term Servicing Branch」「Insiderビルド」などのバージョン管理機能である。
Windows 10に新しい機能が追加されると、それがWindows 10の最新の「Current Branch(カレントブランチ)」となり、Windows Updateなどを通じて一般に公開される。カレントブランチは数カ月に1回程度リリースされる。
カレントブランチには更新プログラムなども含まれるので、ユーザーはセキュリティパッチやバグフィックス(不具合修正)などと共に新しい機能も受け取ることができる(逆に言えば、これらを別々に適用することはできない)。
Windows 10 Homeでは、この仕組みによって、OSが常に最新の状態に保たれることになる。新機能を追加しないといった選択はできない。
ところでWindows 10に新しい機能が追加されても、ビジネス用途では、すぐにはそれを必要としないことも少なくないだろう。十分検証してからでないと何が起こるか、現状のシステムが正しく動作するかどうか分からないからだ。
そこで、新しい機能の導入を明示的に遅延させる機能が用意された。「Current Branch for Business」という機能だ。これを使うと、Windows Updateによるセキュリティパッチなどは受け取るものの、新しい機能(カレントブランチ)を受け取るのを「数カ月間」だけ延期することができる(いつまでも延期できるかどうかは不明)。新しい機能の検証が完了してから導入すればよい。この機能は、Windows 10 Pro以上のエディションで利用できる(Windows 10 Homeでは延期できない)。
金融や工場、各種制御装置など、よりシビアな(ミッションクリティカルな)用途でWindows 10を利用しているので、新機能の追加は一切不要ということもあるだろう。そのようなケースでは、「Long Term Servicing Branch(LTSB)」を利用するという方法もある。LTSBでは機能追加は行われず、セキュリティパッチやバグフィックスのみが行われる。LTSBはWindows 10 Enterpriseでのみ利用できる。
2015年7月にリリースされたWindows 10では、最初のLTSBとして、「Windows 10 Enterprise 2015 LTSB」が提供されている。Windows 10のメインストリームサポート期間は5年、延長サポート期間は5年なので(これは他のエディションでも同じ)、合わせて10年の間、つまり2025年までは、このエディションに対して機能追加は行われない。
なおこれは、新しいLTSBが今後10年間リリースされないということではない。数年を経てカレントブランチの更新がある程度進み、ビジネス向けの重要な機能がWindows 10に追加された場合、そのカレントブランチが新たなLTSBとしてリリースされることになるだろう。そしてそこからまた10年間は機能を維持したまま、セキュリティパッチやバフフィックスのみが行われることになる。
次のLTSBがリリースされたからといって、そのLTSBにアップデートする必要はないし、いくつかスキップしてさらに後のLTSBにアップデートしてもよい。またLTSBから最新のカレントブランチにアップグレードしたり、逆にカレントブランチからLTSBにアップデートしてもよい。
LTSBとカレントブランチなどの関係を図にすると次のようになる。
新機能の導入延期とは反対に、新しい機能をより早く試してみたい、というケースでは「Insiderビルド」プログラムに参加するという方法がある。これはWindows 10のプレビュービルドなどでも利用されていた方法で、これに登録しておくと、新しいビルド(新しいブランチのベータ版)がリリースされればすぐに手元のPCで試用できるようになる。
Insiderビルドの入手タイミングには「Fast」と「Slow」の2種類がある。新しいビルドができるとまずFastリングの参加者にリリースされ、安定してくれば「Slow」リングの参加者にもリリースされる。その後問題がないようならカレントブランチとして正式にリリースされる。
そのため、Fastの方が更新頻度が高く、新しい機能を早く試せるが、その分不具合などに遭遇する確率が高くなる。また、しょっちゅうシステムが更新されることになるだろうから、ユーザー側の負担も少なくないと想像される。よく理解してからInsiderビルドプログラムに参加していただきたい。
Windows 10のエディションと利用可能な更新スキームをまとめておくと次のようになる。
エディション | 更新スキーム | 更新の配布方法 |
---|---|---|
Windows 10 Home | ・Insiderビルド ・カレントブランチ |
・Windows Update |
Windows 10 Pro | ・Insiderビルド ・カレントブランチ ・Current Branch for Business |
・Windows Update ・Windows Update for Business ・WSUS |
Windows 10 Enterprise | ・Insiderビルド ・カレントブランチ ・Current Branch for Business ・Long Term Servicing Branch(LTSB) |
・Windows Update ・Windows Update for Business ・WSUS |
Windows 10 Education | ・Insiderビルド ・カレントブランチ ・Current Branch for Business |
・Windows Update ・Windows Update for Business ・WSUS |
Windows 10のエディションと利用可能な更新スキーム 「Insiderビルド」は実験的なビルド(ベータ版)で、これは短い頻度で更新される。機能の追加やデバッグが完了すると「カレントブランチ」として正式にリリースされる。ただしCurrent Branch for Businessの機能がを有効になっていると、適用は延期される。Long Term Servicing Branchでは機能追加を行わず、当初のままの機能が維持される。 |
Windows 10でも従来のWindows OSと同じように、Windows Updateを使って更新プログラムや新ビルドなどを導入しているが、新しく「Windows Update for Business」を使った更新機能もサポートされている。ただしWindows Update for Businessを利用できるのは、Windows 10 Pro/Enterprise/Educationのみである(Windows 10 Homeは対象外)。
Windows Update for Businessを利用すると、企業内のWindows 10クライアントに対して、次のような更新が可能になる。ただしWindows Update for Business(を管理する製品)はまだ正式にリリースされていないため、詳細は今後紹介する。
今回はWindows 10の新しい更新方式について見てきた。マイナーアップデートを繰り返してシステムの機能を常に最新に保つ方法は、スマホや他のOSなどではすでに一般的だが、Windows OSではこれが初めてである。これにより、セキュリティパッチの適用を忘れたりすることなく、常に新しくて(たぶん)安全なシステムを手に入れることができるようになるだろう。
だがいつまでアップデートをしてくれるのか、頻繁なアップデートでだんだんシステムが重くなってしまわないのか、(OSの機能強化に合わせた)ハードウエアの強化は必要ないのか、アップデートを完全に禁止することはできないのかなど(今のところ、LTSB以外にはそのような機能は用意されていない)、いくらか気になる点もある。だが、まずはその方針転換を歓迎したい。何か大きな問題が起こるようなら、それこそ自動更新機能を使って修正してくれるだろう。
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