IoT(Internet of Things)は製造・運輸・交通といった特定業種だけでなく、医療・官公庁・小売りなどにも広まり、ビジネス変革をもたらす技術として期待されている。では、どのようにIoTに取り組んでいけばよいのだろうか。これまでにさまざまなビジネスを支援してきたマイクロソフトでは、クラウドを中心としたIoTの実現を提案している。
IT専門の調査会社であるIDC Japanが2015年に発表した予測によると、日本のICT市場は、2014年から2019年にかけて年率0.1%のマイナス成長が見込まれるという。市場が停滞する中で、急成長が見込まれる貴重な分野の一つが「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」だ。IDC Japanでは、年率12%、9兆円(2014年)から16兆円(2019年)まで増大すると予想している。
2014年以前のIoT市場は、いわゆる「M2M(Machine to Machine)」が中心で、主に製造・運輸・交通といった以前から組み込み機器を多用していた業種がけん引していた。2015年以降、2019年までの成長を担うのは、単なる機器間の通信ではなく、ビッグデータやアナリティクスを活用して、よりインテリジェントな結果を得る本当の「IoT」になるはずだ。
現在のところ、最もIoTに近いのは製造業である。先進的な企業ではクラウドを活用したインテリジェンスをプラスして、IoTを実現しようという動きが見られる。特に2015年から、具体的な方策を検討する企業が増えつつあるようだ。
次に期待できるのは、運輸・流通などのサービス系や公共公益といった社会インフラ系である。他の業種とは毛色が異なるが、医療分野においてもウエアラブルデバイスなどの発展が早い。小売業・官公庁も、IoTへの関心が高い分野だ。
業種はさまざまでも、「IoTはビジネスに大きなインパクトを与える技術」という点で認識は一致している。しかし問題は、IoTをどのようにとらえ、どのように実現するかということだ。
日本マイクロソフトの大谷健氏(サーバープラットフォームビジネス本部 クラウドプラットフォーム製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャー)は、マイクロソフトが実現するIoTは「IoYT(Internet of Your Things)」であると強調する(図1)。
「“Your Things”──つまり、皆さんが今持っている既存の資産をつなぎ合わせてインテリジェンスを提供し、できるだけ迅速に成果を出せるようにすること。それがマイクロソフトの使命であると考えています。その“要”となるのがクラウドです。私たちはすでにMicrosoft Azure上で、デバイス管理やビッグストレージ、ビッグデータ分析といった、IoTに必要な全てのパーツを用意しています」(大谷氏)
“IoYT”の名の通り、マイクロソフトのIoTサービスでは、すでに導入済みのBI(Business Intelligence)ツールも利用可能だ。さらに同社は、これまで法人向けExcelの機能として提供していた「Microsoft Power BI」をWebサービスとして独立・無償化し、幅広いユーザーがIoT/アナリティクスを活用できるような取り組みも実施している。
具体的な製品・サービスとして、米マイクロソフトは2015年3月、IoT環境向けのクラウドサービス「Azure IoT Suite」を発表した。2015年秋にも、プレビューが開始される予定とのことだ。
Azure IoT Suiteでは、遠隔監視や資産管理、予兆保守などの機能があらかじめ準備されており、さまざまな用途に活用することができる。また、IoTデバイス向けの最新OS「Windows 10 IoT」の他、AndroidやiOS、Linuxなどのマルチデバイスに対応していく予定だ。2020年には500億以上のデバイスがインターネットに接続すると予想されているが、その多くを容易に組み込めるようにSDK(Azure IoT Agent)を提供するという(図2)。
Azure IoT Suiteでは、まずは最小限のコンポーネントのみを導入してスモールスタートし、ビジネスの成長や必要に合わせて各種機能を追加導入していくことも可能だ。これも、Io“Y”Tを意識した施策といえる。
「IoTは、さまざまな仕組みを組み合わせることで実現されるものです。そのためには、レイヤーごとに強力なパートナーシップを形成し、各業種・各ユーザーへ最適なソリューションを提供していく必要があります。そこで日本マイクロソフトでは、日本固有のエコシステムを構築するため、積極的に働きかけ・取り組んでいるところです」(大谷氏)
マイクロソフトでは、IoTを「システム/デバイス(デバイスの接続と管理)」「コネクティビティ(データの収集・処理)」「アナリティクス/プラットフォーム(データの管理と高度な分析)」「ソリューション/アプリケーション(ビジネスにつながる情報活用)」という4つのレイヤーに分類し、それぞれでハードウエアメーカーやキャリア、サービスプロバイダー、ソフトウエアベンダーなどと協力体制を敷いていく予定だ(図3)。
「各パートナーが自分の得意な分野と不得手な分野を補完し合えるように、私たちはテクノロジのプラットフォームだけでなく、ビジネスのプラットフォームも提供していきたいと考えています」(大谷氏)
そもそもIoTは、企業や経営者がビジネス上の目標を達成するために活用する仕組みである。例えば、まずは効率化による「生産性の向上」、その結果としての「売上高の最大化」を目指すことができる。さらに高度化が進めば、主力事業とは異なる新たな周辺サービス開発などのような「ビジネス変革」も可能になるだろう。
すでに、マイクロソフトのIoTソリューションを活用し、ビジネス変革を実現している成功事例が登場し始めている(図4)。
例えば、世界最大規模を誇るドイツのエレベーターメーカー、ティッセンクルップ(ThyssenKrupp Elevator)では、エレベーターの連続稼働性を向上する高度な予兆保全サービスと、低コストの保守ビジネスを両立するためにIoTの導入に踏み切ったという。
現在は、エレベーターの稼働状況をリモートからリアルタイム監視できる、予兆保全サービスを提供している。また、問題発生時の属人的な対処方法を機械学習(Machine Learning)の機能で蓄積。そのノウハウを世界中に展開して、急成長する市場(特にアジア)で必要とされる大量の保守技術者の育成に役立てているとのことだ。
また、京都に本社を置く大手電気機器メーカーのオムロンでは、多品種の製品を少量生産している工場で頻発する「生産ラインの段取り替え(部品の交換や装置の設定)」が大きな課題となっていたという。この生産ラインの改善は属人的で、交換や設定に長時間かかってしまうこともあるという。
そこで同社は、使い慣れたExcelを用いて生産の流れを時間軸上に可視化することで、現場担当者が自ら分析・改善できるような仕組みを構築。その結果、生産性は30%の改善が見られ、改善点の抽出時間も6分の1にまで削減することに成功したという。さらに、製造データと品質不良の関連性も機械学習で予測できるようにして、今後の品質制御(ゼロ不良)を目指してIoTを活用していくということだ。
IoTの本質は、「モノ」と「人」をつなぐところにある。現場と経営者の間には、いろいろなギャップが存在している。直接会話をしても、なかなかかみ合わない場合が多い。そこで必要なのは、データを共通言語として会話することである。そのつなぎ役が、「コネクティビティ」「データ(格納・管理)」「アナリティクス」といった新たなITになる。
「そうしたITは、高い信頼性(セキュリティ)と拡張性(キャパシティ)を備えたクラウドで提供するべきです。それを実現するのがITベンダー、マイクロソフトの役割だと考えています」(大谷氏)
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