Docker、OpenStack、DevOps、オープンソースと「VMware」のこれから米ヴイエムウェア プラットフォーム責任者が語る

米ヴイエムウェアは、コンテナー関連の取り組みを強めている。一方で、OpenStackやHadoop関連の動きも活発化させている。これらは単なる防御的な動きなのか。同社のクラウドインフラ担当上席副社長であるラグー・ラグラム氏に単独インタビューした。

» 2015年08月25日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

「新しいアプリケーション」への対応を進めるヴイエムウェア

 2015年に入ってからの米ヴイエムウェアは、「Docker/コンテナー」などに関する発表が相次いでいる。

 4月には、コンテナー環境に特化した軽量Linux OSの「Project Photon」、およびコンテナーアプリのための認証・権限管理機能を提供するオープンソースプロジェクト「Project Lightwave」を発表した。さらに6月には、同社が開発中の「Project Bonneville」について説明した。このプロジェクトは、一言でいえば、仮想化環境全体を、単一のコンテナホストであるかのように見せる取り組みだ。

 一方でヴイエムウェアは、2015年3月に、「VMware vSphere」の上に「OpenStack」をかぶせた「VMware Integrated OpenStack」を正式提供開始。すでに導入が進んでいるという。また、ビッグデータでは、VMware vSphere上での「Hadoop」クラスター展開を自動化する「VMware vSphere Big Data Extensions」を発表した。

 このように、2015年に入ってからのヴイエムウェアの活動で目立つのは、「新しいアプリケーション」と、新しいアプリケーションの開発者のための環境を提供する取り組みだ。では、ヴイエムウェアは、時計の進む速度を遅らせようとしているだけなのか、それとも新しい世界に、積極的に貢献したいと考えているのか。米ヴイエムウェアでプラットフォーム製品群を統括する、上席副社長兼Software-Defined Data Center 担当ゼネラルマネージャー、ラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏に、単独インタビューでこれを聞いた。

「コンテナー仮想化」に対する「サーバー仮想化」の価値とは

――Dockerのようなコンテナー仮想化が注目されるようになると、「サーバー仮想化の時代はもう終わりだ、その価値は低下してきている」と言いたがる人が出てくる。既存顧客や新規顧客に対して、VMware vSphereの価値をどうアピールし続けるつもりなのか。

ラグラム これまでやってきたことと、基本は全く変わらない。「『SAP』から『Docker』まで、あらゆるアプリケーションに対し、単一のプラットフォームを提供する」ということだ。顧客は、このことに価値があると理解してくれているし、私たちは、この価値をさらに高めていかなければならない。

 顧客にとって、インフラは目的を達成するための手段でしかない。ビジネスを提供するアプリケーションこそが重要だ。だが、モバイルの時代には、ちょっとしたダウンタイム、レスポンスの遅さがますます目立ってしまう。セキュリティ侵害についても同様だ。つまり、インフラは目に見えないが、その重要性は増大している。「あらゆる人々が、(いろいろな意味で)インフラを考えなくて済むようにしなければならない」ということを、当社はもっと訴えていく必要がある。

米ヴイエムウェア 上席副社長兼Software-Defined Data Center 担当ゼネラルマネージャー ラグー・ラグラム氏

 いったん「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」ベースのOpenStackを試しても、VMware vSphereに戻ってくる人が多いのは、この理由による。インフラを立ち上げるのは簡単だ。だが、これがビジネスの源泉となるアプリケーションを支える基盤として機能するかどうかは、また別の問題であり、私たちの製品の価値が見直される部分でもある。

 次のようなことがいえると思う。第一に、インフラコストはアプリケーション単位、つまり仮想マシン当たりで考えるべきだ。そしてVMware vSphereは、仮想マシン当たりのコストの点で、他社製品より優れている。第二に、広義でのQoS(Quality of Service)がある。アプリケーションの保護、セキュリティの確保、リソースの保証といった要素で、VMware vSphereが優れていることを、多くの顧客は認識してくれている。そうでなければ、KVMなどを導入するはずだ。

――確かにOpenStackも、商用ディストリビューションを使う場合は、コストが大きく下がるとはいえない。

ラグラム しかも、OpenStackディストリビューションは、まだ運用が難しい。(OpenStackを使いこなしている)シリコンバレーなどの一部企業は、洗練されたエンジニアのチームを持っていて、自分たちで運用をまかなえる。だが、ほとんどの一般企業にとって、(OpenStack、あるいはITインフラの運用は)自分たちの本業ではない。

開発環境におけるサービスレベルの必要性

――では、ソフトウエア開発環境について、「ITインフラに高いサービスレベルは必要ない」と考える人がいるが、これについてはどう考えるか。

ラグラム それは、ある意味で間違った認識だと思う。CI(Continuous Integration)/CD(Continuous Delivery)に取り組み始めた途端、例えばビルドに2時間も掛かったら、開発者はうれしくないだろう。シリコンバレーのソフトウエア企業で、「開発環境のサービスレベルが低くていい」と思っているところはない。

 当社でも、私の下に4000人の開発者がいる。コンパイルが10分でなく2時間掛かったとしたら、これは明らかに生産性の低下だといえる。従って私たちは、開発環境のためのインフラに、大きな投資をしている。

 ただし、開発者とは新しいことを学び、試したいタイプの人々だ。試す際に、事前に金を払いたくはない。当社が「App Catalyst」(筆者注:ヴイエムウェアが無償提供するラップトップ上の開発者向け仮想化環境)や、今後「vCloud Air」でやろうとしていることはこれだ。人々にまず環境を提供し、これがどう使いものになるのかを試してもらう。使ってくれるならば、使った分だけ料金をもらうといやり方を提供していきたい。だが、開発者が(インフラに)金を使わないというわけではない。

VMware vSphereの将来像

――VMware vSphereは将来に向け、どう進化していくのか。例えばアイデンティティ管理およびネットワークセキュリティに関して、もっといろいろなことができるのではないか。

ラグラム いくつかの方向性がある。

 一つはインフラサービスだ。あなたが指摘するように、ネットワーキングおよびネットワークセキュリティを、私たちは非常に重要な分野だと考えている。もう一つ忘れてほしくないのは、ストレージやストレージの可用性向上サービスだ。

 さらに、ビッグデータ、アナリティクス、機械学習、ディープラーニングといった、新世代のアプリケーションへの対応がある。こうしたアプリケーションでは、全く新しい種類のハードウエアを仮想化して提供する必要がある。

――例えば?

ラグラム 例えばGPUだ。多数の顧客が、ニューラルネットワーク関連で、GPUを使いたがっている。GPUをクラウド的に提供するには、仮想化しなければならない。新世代のメモリもある。インテルはDRAMとフラッシュの中間に位置する新たなメモリ階層について発表した。このように、多数のハードウエア的なイノベーションが起こっており、これをアプリケーションに対して提供するとともに、関連するインフラサービスを提供しなければならない。

――(ビッグデータに関連して)例えば重力の大きなデータをコスト効率の良い場所に置いておき、必要に応じてCPU処理のために再配置するといった機能はどうか?

ラグラム それは、Actifioなどの企業が取り組んでいる、「Copy Data Management」のようなものを指しているのか?

――そうだ。

ラグラム 楽しみにしていてほしい。非常に面白い分野だと考えている。あなたがいったように、データとコンピューター処理は、新たな形で融合しなければならない。今後私たちがやることの中で、大きな部分を占めることになると思う。

 新世代のデータ指向アプリケーションでは、データの量は膨大になるが、リアルタイムで処理されなければならない。これは重要な分野だ。

オープンソースの活用について

――プラットフォーム製品の機能を拡張するために、オープンソース・ソフトウエアをもっと活用していきたいという考えはあるのか。

ラグラム その通りだ。私たちはこれまで、十分にオープンソースを活用してきたとはいえない。だが、今後はどんどんやっていきたい。

 一つの例として、ビッグデータ用の「VMware vSphere Big Data Extensions」(筆者注:Hadoopクラスターの展開を自動化し、セルフサービス化するためのツール)を通じ、Hadoopコミュニティと連携している。私たちは他のコミュニティとも連携し始めている。

 これは、業界全体が進もうとしている方向だ。例えば「MongoDB」が、その下のインフラとどうやりとりするかはよく分かるので、いろいろなことができる。「Redis」や「Spark」など、10年前には存在しなかった技術は、他にもたくさんある。私たちは、エンタープライズ製品ベンダーよりも、これらのコミュニティと一緒にやることが多くなってきている。

Dockerとの関係

――Dockerは、コンテナー技術の周りに独自の世界を築こうとしているように見えるが、どう付き合っていこうとしているのか。

ラグラム 私たちは、コンテナーのAPIを複数の方法で実装できるように、「Open Container Initiative」など、コンテナーのオープン化を推進するコミュニティに参加している。私たちだけでなく、グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど、誰もがコンテナーは有益な技術だと考え、オープンな標準を求めている。

 Dockerも同じように考えているはずだ。会社が大きくなれば、より多くのことをやりたくなるのは当然だ。だが、オープンなメカニズムがある限り、複数の方法で実装ができる。そこで私たちは、一部で同社と重複することもやるが、ほとんどの部分では協力していく。コンテナーネットワーキングで、DockerはSocket Planeという企業を買収しているが、私たちは同社と協力し、オープンなネットワーク仮想化を推進している。顧客はDockerの提供する機能を使うこともできるし、「VMware NSX」を利用することもできる。

 彼らが「batteries included, but removable」(筆者注:「電池は装着されているが、取り出して入れ替えが可能」という、電気製品への例え。Dockerはこの言い方で、自社で周辺技術を展開する一方、他社の技術を活用することも可能としている)という姿勢を保つ限り、顧客は複数の実装から選択できる。

OpenStackとの関係

――OpenStackについてはどうなのか。OpenStackを試した人がvSphereに戻ってくるなら、VMware Integrated OpenStack(VIO)などは要らないのではないか。

ラグラム 私たちは以前から、「OpenStackはソフトウエア開発者、そして『DevOps』のためのオープンフレームワークであり、データセンターのリソースへのプログラマティックなアクセスを実現するものだ」と言ってきた。今後も同じことを言い続けるし、これを提供し続けていく。「OpenStack 2015.1.0(Kilo)」に対応したVIOの新バージョンも提供する。OpenStackコミュニティへの貢献も続ける。私たちの立場は何も変わっていない。2015年8月30日からサンフランシスコで開催する「VMworld 2015」では、VIOを採用した顧客を紹介するつもりだ。

 現在のOpenStack導入では、ベンダー独自のインフラ製品の上に、オープンなフレームワークとしてOpenStackを載せているケースが多い。今後もこうした動きは広がると考えている。それは悪いことではない。「POSIX」が商用製品を含む各種のOSの上で、共通のAPIとして機能してきたように、OpenStackはデータセンターのためのオープンな、共通APIとして機能することができるからだ。

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