「派遣切り」の悪夢再び?――改正労働者派遣法が派遣エンジニアに与える影響とは法律は敵か味方か?(4/4 ページ)

» 2015年10月06日 05時00分 公開
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3 派遣元事業主は、雇用している派遣労働者のキャリアアップを図る義務を課す

 だが、登録型の派遣スタッフで、まだ正社員への打診がもらえるほどの実力がないエンジニアはどうなるのだろうか。3年ごとに職場が変わり、正社員に比べると教育を受ける機会が少ないのに、どうやってスキルアップを図ればよいのだろうか。

 筆者たちの疑問に、高橋氏は「それを改善するための方針が、三番目の改正ポイントだ。実は今回の法改正で一番注目すべきは、この一歩踏み込んだ内容で作られた『均衡待遇』部分だ」と述べる。

 改正で盛り込まれた「均衡待遇の義務」は、おそらく派遣社員に対する教育の機会が少ないと国が問題視した結果だと高橋氏は考える。

 「有期雇用の登録型派遣社員と、無期雇用の正社員では、これまで教育研修の機会にかなりの格差があった。これを是正するために計画的なキャリアコンサルティングを行い、正社員と同程度の段階的かつ体系的な教育訓練を行うべし、とうたわれている」(高橋氏)

【キャリア形成支援制度】

1 派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めていること。

 ○ 教育訓練計画の内容
 1 実施する教育訓練がその雇用する全ての派遣労働者を対象としたものであること
 2 実施する教育訓練が有給かつ無償で行われるものであること(4の時間数に留意)
 3 実施する教育訓練が派遣労働者のキャリアアップに資する内容のものであること(キャリアアップに資すると考える理由については、提出する計画に記載が必要)
 4 派遣労働者として雇用するに当たり実施する教育訓練(入職時の教育訓練)が含まれたものであること
 5 無期雇用派遣労働者に対して実施する教育訓練は、長期的なキャリア形成を念頭に置いた内容のものであること


4 教育訓練の時期・頻度・時間数等

 1 派遣労働者全員に対して入職時の教育訓練は必須であること。キャリアの節目などの一定の期間ごとにキャリアパスに応じた研修等が用意されていること
 2 実施時間数については、フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり、毎年おおむね8時間以上の教育訓練の機会を提供すること
 3 派遣元事業主は上記の教育訓練計画の実施に当たって、教育訓練を適切に受講できるように就業時間等に配慮しなければならない

平成27年労働者派遣法改正法の概要」の「キャリア形成支援制度」より引用

 重要なのは、これが「努力目標」ではなく「義務」として定義されていることだ。「報告義務があるので、違反があったら監督官庁からの指導がある。派遣の免許取り消しや懲罰もあるかもしれない。これはエンジニア派遣にとって、大きな一歩となるだろう」と高橋氏は述べる。

 自分がやりたいことを仕事にしたい、賃金を上げるように力を付けたい……そのためには、キャリアプランを派遣元企業にしっかり伝え、望む教育研修を受けられるようにアピールするとよいだろう。

派遣エンジニアにはむしろいいことが起きるはず

 ここまでの内容はあくまで予想であり、実際にうまく運用されていくかは未知数だ。そもそも、労働者派遣法の改正を自分ごととして捉えている派遣エンジニアは、少ないのではないだろうか。

 加えて、派遣元企業もどこまで改正の内容を把握しているか分からない。所属や登録している派遣会社に「研修を受けさせろ」といきなり言っても通じない可能性も高い。まずは今回の改正がどの程度理解されているか確認が必要だ。

 高橋氏は、今回の改正を「エンジニアが自らのキャリアを見直すチャンス」と考える。「ネガティブな見方も可能だが、ポジティブに捉えると良い側面もたくさんある。派遣エンジニアはこのタイミングで、自発的にやりたいことを考え、派遣元、派遣先にアピールするべき」と締めくくった。

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