さて、前半では「ABテストによる改善の限界」から「個々のユーザーによって機能・画面を出し分ける」というアダプティブUXの発想が生まれてきた経緯を説明した。
これをもう少し俯瞰的に捉えると、サービスが未成熟なうちは、全てのユーザーに対して一律に改善を行う「全体最適」で十分に成長することができるが、サービスが成熟してくると、それだけでは頭打ちになり、個々のユーザーに対する最適化、つまり「個別最適=アダプティブUX」の考え方が必要になってくるということである。
個々のユーザーに合わせて“おもてなし”を変えるというアダプティブUXの発想自体は、特に目新しいものではない。むしろ、リアルな店舗での接客においては、当たり前に実践されていることである。
例えば中古車販売店での店員による接客を考えてみよう。店員は、来店したお客さまの行動や会話の内容を通じて、そのお客さまが「どのくらい車に関する知識を持っているのか」「どんな目的でどんな車を欲しがっているのか」「どのくらい購入を急いでいるのか」などを瞬時に判断し、柔軟に対応を変えるのが普通である。
そうした対応をせずに、全てのお客さまに画一的な接客をしていては、その店の売上向上は望めないだろう。
一方、Webサイトでは、来訪するユーザーの顔が見えにくいため、そうした柔軟な対応をしようと思ってもできなかったのがこれまでの実情である。ところが近年、ビッグデータによる分析環境の整備などで、そうした個別最適がしやすくなる基盤が整ってきている。
では実際に、どのような軸でユーザーを分類して個別最適化しているのか。
ここでもまた、「カーセンサー」を例に取って説明しよう。中古車購入を考えているカスタマーの検討行動について、さまざまな調査を実施する中で、以下のような特徴が見えてきた。
一つ目は「嗜好性=ペルソナの多様性」、二つ目は「検討フェーズの多様性」として整理できるだろう。われわれはこの「ペルソナ×検討フェーズ」の2軸を柱とした個別最適化を進めている。
ちなみに、このように「意思決定に関する嗜好性がそもそも多様であり、検討期間も長期にわたる」というのは、中古車購入に限らず、「結婚」「進学」など、いわゆる「ライフイベント」領域に共通したカスタマーの特徴である。そのため、「カーセンサー」だけではなく「ゼクシィ」などにおいても同じような考え方でのアダプティブUXを展開することができている。
第4回、第5回では、検討フェーズによる個別最適化の事例と、ペルソナ(探し方)による個別最適化の事例をそれぞれ具体的に紹介したい。
ユーザー心理分析をベースとしたデジタルマーケティングのコンサルタントを経て、2015年1月にリクルートテクノロジーズ入社。ユーザー理解に基づく成果創出に強みを持ち、現在は「ゼクシィ」「カーセンサー」で「アダプティブUX」デザインを推進。
大手SIerを経て、2006年にリクルートへ転職。システム部門、カーセンサーなどを経て、リクルートマーケティングパートナーズのNET横断組織UXデザインGへ。現在はリクルートマーケティングパートナーズが運営する「ゼクシィ」「カーセンサー」「リクナビ進学」のUXデザインを担当。
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