ハイパーコンバージドインフラ専業のスタートアップ企業である米ニュータニックスは、ようやくこの分野が注目されるようになったにもかかわらず、「ハイパーコンバージドの次に進もうとしている」という。同社チーフアーキテクトへの取材で、何をやろうとしているのかを探った。
「ハイパーコンバージドの次に進もうとしている」。ハイパーコンバージドインフラシステムの専業ベンダーである米ニュータニックスの、チーフアーキテクトを務めるBinny Gill(ビニー・ジル)氏は、こう話す。
本連載が、表面的なハイパーコンバージドインフラシステムの解説を目的としたものであるなら、「ハイパーコンバージドインフラの次」を語るベンダーを、第2回で取り上げるのは不適切なのかもしれない。だが、連載タイトルを「あなたの知らないハイパーコンバージドインフラの世界」としている理由は、表面的な事実にとらわれずに本質は何なのかを探ることが目的だからだ。実際、Gill氏は今後の興味深い展開について話してくれた。そこで今回は、ニュータニックスの製品戦略を取り上げる。
まず、短くおさらいをすると、ニュータニックスは、VMware vSphereを用いた仮想化環境を一体的なシステムとして提供し、成長してきた。一方最近では、オープンソースのハイパーバイザであるKVMに改変を加えた「Acropolis Hypervisor(AHV)」を用いる仮想化環境も提供。これらを混在利用できるようにしている。
これは、ハイパーコンバージドインフラの世界ではユニークな取り組みだと言える。KVMを利用可能なクラウド基盤には、例えばOpenStackがある(OpenStackはKVM以外にVMware ESXi、Hyper-Vといったハイパーバイザ、そして物理サーバ(、さらにはコンテナ)も管理対象とすることができる)。「ニュータニックスはアプライアンス形式で、OpenStackよりも軽量で簡便なKVM運用環境を提供している」という表現もできる。
「私たちがハイパーコンバージドインフラ製品を生み出した際、開発したのはストレージソフトウェアではない。プラットフォームだ。iPhoneのiOSに例えることもできる。プラットフォームであるため、これを活用し、iPhoneアプリのように、多くの技術を統合していける」とGill氏はいい、ニュータニックスのこれまでのハイパーコンバージドインフラ製品について、次のように説明する。
「当初、ネットアップやEMCのストレージ専用装置などで動いているソフトウェアを細かく分割し、サーバ上に実装した。大きなものを小さい要素に分割すれば、クラスタ管理が必要になる。そこでZookeeperとCassandraを採用した仕組みを作り、拡張性に優れた構成とメタデータ管理を実現した。これが私たちの作ったプラットフォームだ。結局のところ、私たちはストレージを開発したのではない。拡張性の高いメタデータ管理プラットフォームを構築したことになる」
ニュータニックスは、同プラットフォーム上に、さまざまなアプリケーションを提供していくことができる。ここに他社との根本的な違いがあるのだとGill氏は強調する。
ニュータニックスが最初に発表したハイパーコンバージドインフラ製品は、上記のプラットフォームに、アプリとしてストレージソリューションを構築したものだという。
「次に2、3年前から取り組んだのは、仮想化スタックだった。仮想化スタックは、2つの要素から成り立っている。ハイパーバイザと管理ファブリックだ。ハイパーバイザについては、KVMをよりシンプルで安全なものにし、これを『AHV』と呼んで、私たちの製品の上で使えるようにした」
「管理ファブリックとは、ヴイエムウェアでいえばVMware vCenter、マイクロソフトでいえばSystem Center Virtual Machine Manager(SCVMM)のようなものだ。仮想化環境の管理ファブリックには、データベースとAPIが必要だが、私たちはどちらもすでに開発していた。そこでこれらを用い、仮想マシンのメタデータ管理を実現した。
これにより、従来ストレージで発揮されていたメリットが、仮想マシンについても提供できるようになった。つまり、高可用性、高信頼性、ワンクリックでのアップグレード、ゼロダウンタイムのアップグレードなどだ。
中核となっているのは分散構成のできるコントローラだ。ヴイエムウェア、マイクロソフトだけでなく、OpenStackですら、(デフォルトでは)こうしたアーキテクチャを備えていない。単一のデータベースしか持っていない」
ニュータニックスが次に取り組んでいるのは、次世代の分散リソース管理機能だという。例えば、VMware vSphereには「DRS(Distributed Resource Scheduler)」という分散リソース管理機能がある。各仮想マシンを、それぞれの要求仕様に応じて適切なサーバに動的分散を行い、各仮想マシンの性能を確保するとともに、全体としての性能向上を図る仕組みだ。重要なアプリケーション(仮想マシン)については、優先度の低い他の仮想マシンとのリソース競合が起きないよう、重要でない仮想マシンを、他のサーバ機へ自動的に移行するといったことができる。
「ワークロードの求めるIOPSや帯域幅に応じて、データを最適な場所に配置できる。ホットデータを移動できるような、DRAMやSSDの空きがあるかどうかを、各サーバハードウェアについて確認し、実行できる。これは、遅延に基づく一般的なストレージのDRSよりもかなり高度だ」
「DRSでは、もう一つ追加しようとしている機能がある。ソフトウェアストレージというデータ管理機能を備えている私たちは、詳細な履歴データを蓄積できる。この履歴に機械学習を適用して、現在発生している事象だけでなく、予測される状況を基に、データの最適配置を常時実行できるようになる」
一方、セルフサービスポータル関連でも、2016年の中頃に新機能を提供するつもりだという。
「一般企業では、制御と柔軟性の両立が必要だ。これを実現する新機能を提供する。エンドユーザーにリソース利用の上限値を設定しておき、各エンドユーザーはその範囲内で自由に仮想マシンを作成できるようになる。運用担当者にとっても、エンドユーザーにとっても、作業は容易にできる。AWSのように、エンドユーザーはログインして、テンプレートから仮想マシンを作成し、これを活用すればいい。エンドユーザーにとっての使い勝手は、AWSに非常に近い」
「しかし、結局のところ、企業が気にしているのはアプリケーションであり、アプリケーションのライフサイクル管理だ。そして、AWS、Microsoft Azureのようなパブリッククラウドも、アプリケーション・ライフサイクル管理に優れているとはいえない」
Gill氏はまず、アプリケーションの投入をシンプルにしたいと話す。
「iPhoneユーザーがApp Storeを使うのと同じようなシンプルさを、企業向けアプリケーションの導入作業に持ち込みたい。私たちは既に、いくつかのアプリケーションについてはサイジングツールを提供している。各アプリケーションに特化したいくつかの質問に答えてもらうことで、適切な構成を割り出し、この構成でインストールを実行する。こうした機能を、多数のアプリケーションに提供できるようにしたい。
現在は、社内ユーザーが例えば『Cassandraを使いたい』と言ってきたとき、IT担当部署にCassandraのエキスパートがおらず、設定作業ができないといった事態がよく発生している。専門知識なしで導入できるようにすることで、IT部門が社内ユーザーをすぐに助けられるようにしたい」
ニュータニックスが取り組もうとしているもう一つのテーマは、アプリケーションのアップデート作業だという。確かに、現在のところ、エンタープライズ・アプリケーションを容易にアップデートできるような標準的な手法は存在しない。アプリケーションごとに異なるやり方で、エキスパートが作業をしなければならない状況が、ここにもある。
「私たちは、アプリケーションベンダーにAPIを提供し、これらのベンダーがこのAPIに基づいてアプリケーションを提出すれば、プロビジョニング作業が自動化できるような、プラットフォームになっていきたい。アップデートについても、このプラットフォームのAPIで自動的に実行される。こうした環境が提供される必要がある」
Gill氏は、上記の新しい取り組みを、次のように総括している。
「これまで説明してきたように、私たちは、ハイパーコンバージドインフラの定義をはるかに超えるようなことをやろうとしている。私たちは、これを『エンタープライズクラウド』と呼び、今後市場に向けてメッセージを伝えていく。ハイパーコンバージドインフラは認知されるまでに数年掛かった。今回も2、3年掛かるかもしれない。だが、最初は否定するものの、そのうち徐々にコンセプトを理解し、『エンタープライズクラウド』というものが重要だということに気付いてくれるようになることを期待している」
上記の、ニュータニックスの「ハイパーコンバージドインフラ製品発展戦略」をまとめると、次のようになる。
1.仮想化環境管理のインテリジェント化
2.セルフサービスポータルの機能強化
3.アプリケーションのライフサイクル管理機能の充実
このうち1、2については、中立的な視点で解釈すれば、従来のハイパーコンバージドインフラシステムの定義を超えるものではない。これらは「より優れたハイパーコンバージドインフラ製品」を作る取り組みだ。同時に、ニュータニックスにしてみれば、仮想化環境の部分をヴイエムウェアに握られたままにしておくのではなく、この部分で同社の価値を高めようという狙いがあると考えられる。vSphereに加えてKVMの環境を提供しているのもその一環と考えられるし、Gill氏が今回説明した高度なDRS機能や運用管理機能も、「vSphereよりも高度な仮想化環境を提供する」ことを目指した動きだといえる。
最も興味深く、ハイパーコンバージドインフラシステムの定義を広げてくれる可能性があるのは、何といっても3のアプリケーション・ライフサイクル管理機能だ。アプリケーションレベルで、その投入とアップデートの自動化を進められれば、企業の社内におけるアプリケーション運用を「PaaS化」および「SaaS化」できることになる。すると、現在のところIaaSレベルの価値のみが認識されている「ハイパーコンバージドインフラ」は、あらゆるレイヤで「社内のクラウド化」という価値を実現するものになり、最終的には「ハイパーコンバージドインフラ」という、「インフラ」を意識したネーミングが不適切になることも考えられるようになる。
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