国内IoT関連で、2016年に一部の注目を集めたOpenFogコンソーシアム。同コンソーシアムは「フォグコンピューティングのアーキテクチャを策定し、相互運用性とコンポーザビリティを推進する」というが、具体的に何をやろうとしているのかは今一つ分かりにくい。そこで、同コンソーシアム設立者でプレジデントのJeff Fedders氏に直接、数々の疑問をぶつけてみた。
2016年における国内IoT関連トピックの1つに、OpenFogコンソーシアムがあった。これは2015年11月に設立された「フォグコンピューティング」推進団体で、2016年4月には日本地域委員会が設立され、同10月には日本のIoT推進コンソーシアムとの、IoT分野の協力に関する覚書が締結された。記事執筆時点で、Open Fogコンソーシアムには日本企業として日立、東芝、富士通、さくらインターネット、NTTコミュニケーションズ、IIJ、三菱電機、NEC、伊藤忠テクノソリューションズが参加している。
OpenFogコンソーシアムは「フォグコンピューティングのアーキテクチャを策定し、相互運用性とコンポーザビリティを推進する」というが、具体的に何をやろうとしているのかは今一つ分かりにくい。そこで、同コンソーシアム設立者でプレジデントのJeff Fedders(ジェフ・フェダーズ)氏に直接、数々の疑問をぶつけてみた。同氏は、同コンソーシアムでは相互運用性向上のため認証を行うとし、初期の認証対象として自動運転車などが考えられるなど、興味深い回答をしている。
――あらためて、OpenFogコンソーシアムとは何なのかを短く説明してほしい。
インターネット、クラウドの次に来るのはフォグコンピューティングだ。OpenFogとは、OT(Operational Technology)、IT、そして5G通信の融合に関する、業界リーダー間での初期の取り組みだといえる。
これまでの標準化組織による活動はスピードが遅過ぎた。そこでITの世界で生まれたのが、コンソーシアムを通じ、実際の標準が固まる前に初期の合意を得るというやり方だった。一方で、オープンソースのコミュニティは業界内の合意形成よりも速いスピードで物事を進められる。だが、多くの人たちは、IoTにおいて金になるのは産業分野だと考えている。この分野では、有力企業がまず、自分たちのビジネスをITが侵食しつつあることを認識しなければならない。これは非常に難しいことだ。
産業分野の企業は多くの場合、ITは信頼性が低く、安全でないと認識している。こうした人たちに、Software Definedなアプローチを認めてもらうのが最初にやるべきことだ。
――では(OpenFogコンソーシアムは業界にこだわらないというが)、活動の対象はやはり産業分野ではないのか。
違う。インダストリアルインターネットでは、Industrial Internet Consortium(IIC)やIndustiral 4.0により、クラウドへの接続を前提とするエンドツーエンドのアーキテクチャが整備されてきたというだけだ。実際にこれを展開しようとすると、どんなネットワークでも容量が限界に達し、遅延も問題になる。そこでモノの接続をクラウドから取り戻そうとする動きが出てくる。同時に5G通信が果たす役割も大きくなってくる。
「モノ」の、「モノ」「ネットワーク」「クラウド」との接続を仮想化し、データが何も考えずに行くべき場所へ行けるようにすることが重要だ。これはあらゆる分野に当てはまる。オープンソースへの取り組みは大切だが、その可能性に興奮する前にまずやらなければならないのは、こうした世界がどのようなものになるのか、基本的なフレームワークを生み出すことだ。OpenFogコンソーシアムは、こうした役割を担っている。
――だが、IoTでは多様な人々が、さまざまなユースケースでこれを使う。例えば極小のセンサーを接続する人もいれば、大型の産業機械をつなぎたいと考える人もいる。それぞれ、つなぎ方やセキュリティ確保のやり方は異なるはずだ。
それは各分野の人々が考えることだ。OpenFogでは、アーキテクチャの基本アプローチを水平な、業界にとらわれないものとしている。実際のところ、このアプローチはIoTからも独立したものだ。接続性とコンピューティングアーキテクチャを組み合わせ、普遍的なものとして展開する。
例えば、最終的に自動車(コネクテッドカー)は、クラウドやネットワークのことを何も意識しなくてよくなる。世界とやり取りすることだけを意識していればいい。スマートフォンについても、あなたのスマホが私のスマホの計算能力を使う世界を想定できる。いろいろなモノ同士が、ストレージ、計算能力、ネットワークを共有できるわけで、私たちは特定産業に特化したアーキテクチャを提供することにこだわっている暇はない。
自分たちのアーキテクチャが使い物になるということを示すために、いくつかの産業分野を例として活用したいとは考えている。しかし、ユースケースがアーキテクチャの推進要因になることはない。
あなたはユースケースなしにアーキテクチャを策定できないと言いたいようだが、私ははっきりと、「できる」と言いたい。十分なコンピューティングパワーと接続性があれば、ユースケースから独立したアーキテクチャを策定できる。全てのユースケースをカバーできるとは言わない。だが、多くのユースケースをカバーすることはできる。
――それでは、先ほどの質問に戻りたい。このコンソーシアムの活動の対象となるのは誰なのか。
メンバーという点では、OT企業、IT企業、5G関連企業が対象だ。コンソーシアムのボードメンバーは、OT企業、クラウドプレーヤー、テクノロジー企業、そしてコンソーシアムから選び、これによって参加企業のバランスをとった。
例えば日立、Schneider Electric、GEはOT分野を代表している。インテルとARMはテクノロジー分野を代表している。シスコとデルは、機器ベンダーを代表している。
こうしたメンバーに、エンドユーザー企業を加えようとしている。例えば自動車メーカー、ホテル、あるいは日本でいえばJRのような運輸関連企業に参加してほしいと思っている。
――ユーザー企業が参加しないと、単なる業界内の集まりのように見えてしまう。
そういう言い方がされるのも分からなくはない。ただし、OpenFogがユニークな点の1つは、IEEEのような標準化組織も参加していることだ。Open Fogコンソーシアムとして標準を生み出すことはない。だが、パートナーとの協力により、標準化を進めようとしている。私たちの役割は、認証を行うことだ。認証された機器やソフトウェアパッケージには、OpenFogのロゴを付けることになる。
Wi-Fiコンソーシアムがやっていることと似ている。相互運用性が確保されることを確認するため、テストを実施する。
私たちはアーキテクチャを策定し、標準化作業についてはIEEEに任せる。IEEEはフォグコンピューティングのワーキンググループを設置し、標準を策定するとともに、IEEEの監督下に置くことになる。彼らは標準化プロセスの管理と発行については熟知している。
標準が策定されたら、OpenFogコンソーシアムでは、認証のためのテストベッドを運営する。製品ベンダーは、このテストベッドを通じ、標準への準拠を確保できる。私たちは、教育機関との協業のための研究テストベッド、および相互運用性を示すための業界テストベッドも運営する。
――認証の対象になるのは、まずモバイルルータやIoTゲートウェイのような機器なのか?
違う。最初に認証テストの対象となるのはおそらく自動運転車だろう。自動運転車は、市場という観点から見て、OpenFog環境の完璧な例だといえる。車車間通信は、必ずしもクラウドを経由しない。位置情報や安全情報を共有するとともに、サービスを共用することが考えられる。自らの処理リソースなどを共有することもあり得る。
だからこそ、ゼネラルモーターズ、トヨタ、BMWなどの企業に参加してほしい。こうした企業がボードメンバーになったとしても、驚くべきことではない。「市場はまさにそこにある」からだ。これが成功すれば、スマートシティに適用できる。スマートシティも、OpenFog環境として完璧だ。ビルや街路灯はFogノードになる。
――「OpenFog準拠ビル」も登場するのか?
もちろんだ。JRもOpenFog環境に準拠するようになったら素晴らしいと思う。
――では、OpenFog準拠のための要件とは何か。
私たちのやろうとしていることは、自由な市場を形成し、相互運用性を確保するとともに、ベンダーロックインを排除することだ。すべての米国政府関連機関が私たちに注目している。理由は、例えばマイクロソフトとSchneider Electricの製品がどのように機能セット単位で相互運用を期待できるか、そしてまたSchneiderのエンジン上の情報を、どのようにマイクロソフトのクラウドがコントロールする製品へ送り込めるか、1つ1つつながれるかということにある。相互運用性を語る際、データの相互運用性を欠かすことはできない。
「私のデータがOpenFogに準拠している」というとき、このデータは、信頼、セキュリティ、プライバシーなどの標準を満たしていなければならない。さらに、共通プラットフォーム上に構築でき、共通の方法で管理できなければならない。
――コンソーシアムは、情報モデルにも関与するのか?
もちろんだ。スマートオブジェクトも該当する。
――それはまた別の難しい問題を引き起こさないか。これまで、業界別のマークアップ言語を定義しようとする動きはいくつもあったが、成功した例は少ない。
確かに、これにはOT、IT、5G全てのセクターから十分な後押しを得る必要がある。
私たちはこのテーマを出発点にしたわけではない。もし最初から「私たちはデータの相互運用性やデータスキーマを担当する組織だ」と言っていたとしたら、この組織を立ち上げることはできなかったろう。
しかし、私たちが真のデータマーケットプレイスになろうとするなら、これを避けることはできない。必須だと思う。私たちがこの組織で、世界の4大GDP地域をカバーしようとしている理由もここにある。私たちは、欧州・中東地域、米州、中国、アジア太平洋地域を意図的にカバーしようとしている。これら地域間のデータ相互運用性が求められるからだ。
いつの日か、この点は議論の対象となり、合意に達する必要がある。この問題を解決しない限り、IoTにおける障壁が生まれてしまい、IoTは自らの約束を果たせないままになってしまうだろう。
なお、OpenFogコンソーシアムに参加しているさくらインターネットのフェロー、小笠原治氏は、特にコンシューマーIoTデバイス間の高速・低遅延なやり取りに関心があると話している。同社は「さくらのIoT Platform」をテストベッドとして提供する考え。OpenFogコンソーシアムの具体的な活動は、詳細が定まるのはこれからだとしながらも、日本の小規模企業であっても、早い段階でこうした国際的な取り組みに参加し、1票を持って発言していけるのは大きなチャンスだと話している。
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