秘伝のソースは門外不出。お客さまには差し上げません「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(40)(3/3 ページ)

» 2017年04月24日 05時00分 公開
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「黙ったまま渡さない」のは正しいか

 だからといって、本件のようにソースコードの引き渡しについて何の約束もせず、後になってから「渡せない」というのはどうだろう。

 これは法律というより商売の問題だ。

 本判決を事例に、「ソースコードの引き渡しは義務ではない」と言うのはいいが、事前に何も言わずにいるのは、信用を落とし、次の商売に影響を及ぼす危険がある。さらに、本件のように裁判になってしまったら、損失はかえって大きくなってしまう。

 むしろ受注者(ベンダー)は、知識がないかもしれない発注者(ユーザー)には、「ソースコードの引き渡しは必要か」と先に聞くべきだ。そうした方が安全だし、結局は得策だ。

 ソースコードを渡すことになっても、「複製権」や「利用権」、あるいは「流用して使う権利」を受注者に残す交渉はできるし、先ほど挙げた例のように、ソースコード代を別に請求できるケースもある。

 交渉の結果無償で全てを渡すことになっても、「ユーザーをごまかそうとしたベンダー」というそしりからは免れられる。ベンダーは、営業や契約の担当者や開発に携わるメンバーに、この考えを徹底すべきだろう。

細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。


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