IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「データベースの著作権」について、判例を基に解説する。
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IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、データベースの著作権について解説する。
著作権については過去に、プログラムや画面設計について何度か取り上げてきたが、データベースについては、分かりやすい裁判の例がなかった。しかし、2016年1月に知財高等裁判所でかなり具体的な判例が出たので紹介する。
「データサイエンティスト」という職種が、プログラマーや設計者と同じか、それ以上に評価されるようになったことからも分かるように、昨今は「データ」がはやりである。
データの重要性が増すにつれ、それを格納する「データベース」もまた、重要度を増してくる。多数のデータを格納し、迅速かつ容易に高度な検索や分析を行えるデータベースは、それそのものが貴重なソフトウェア資産であり、自らが創意工夫して作ったデータベースの設計や定義を、他人が勝手に使ってしまうようなことがあれば、黙って看過することはできないだろう。
著作権法でも、データベースが保護の対象になり得ることは明確にうたわれている。
データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
法律にはこのように定められているが、もちろん全てのデータベースが著作権保護の対象、つまり著作物として認められるわけではない。
例えば、ある団体が会員の情報を管理するデータベースを作り、「氏名」「住所」「電話番号」「メールアドレス」と言った項目が並んだテーブルを作ったとしても、これが著作物と認められる可能性は低い。
こうした項目定義や並びは、誰もが簡単に思い付くし、これに著作権を認めてしまったら、日本中のデータベースが著作物となってしまう。
一方で、数百万件のレコードから瞬時に必要なデータを抽出するためには、「データベースの構造」「インデックスの張り方」「キー項目」など数々の工夫が必要だ。Web上に散在するデータを組み合わせて「主語」「述語」「目的語」を作り出す「RDF(リソースディスクリプションフレームワーク)」などは、その構造がプログラムに匹敵するほどの複雑さを持っており、その構築には高いスキルや自由な発想が必要だ。こうしたものに、きちんと著作権を認めてほしいと考えるのは当然だろう。
データベースに著作権が認められるか否か、その境界線はどこにあるのか、その考え方を明確にした判例を紹介しよう。
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