破壊的変革の時代にマーケティングはどうあるべきかGartner Insights Pickup(26)

企業のマーケティング、そしてビジネスそのものが、破壊的変革の時代に突入している。こうした時代にマーケティングはどうあるべきなのか。「顧客エクスペリエンス」「音声」「モノ」「機械」「人」に、あらためて焦点を当てるべきだ。

» 2017年07月28日 05時00分 公開
[Chris Pemberton, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 Gartner for Marketers Conferenceが初めて開催されてから3年が経過した。その間、デジタルマーケティングはディスラプション(破壊的変革)を引き起こし続け、その一方でデジタルマーケティング自体においても破壊的変革が進んでいる。

 「破壊的変革の時代が幕を開けつつあり、マーケッターはそのけん引役となっている」。GartnerのGartner for Marketers部門バイスプレジデントを務めるイボンヌ・ジェノベーゼ氏は、2017年5月に開催された2017 Gartner Digital Marketing Conferenceの基調講演でそう語った。

 「『デジタルディスラプション(デジタルによる破壊的変革)』の流れは長く続くだろう。デジタルディスラプションはその担い手と、市場で展開されているそのさまざまな形態によって定義される」(ジェノベーゼ氏)

破壊的変革の担い手

 デジタルマーケティング調査会社L2(最近Gartnerの傘下に入った)の創業者でCEOのスコット・ギャロウェー氏は、「新たな変革の時代に勝利を収める企業は、ベンジャミン・バトン(※)のような企業だ。すなわち、顧客データを利用して価値を生み出し、年々若返っていく企業だ」と同カンファレンスの基調講演で述べた。この新しい「価値のアルゴリズム」では、顧客データを賢明に活用し、新しい形の顧客価値を創造することが重要だ。

※2008年に公開された映画『The Curious Case of Benjamin Button(ベンジャミン・バトン 数奇な人生)』の主人公。80歳で生まれ、年を取るごとに若返っていく数奇な運命を生きた。

 AppleやFacebook、Google、Amazonのような巨大デジタル企業は、市場に絶大な影響を及ぼしている。こうした企業は、あらゆるブランドの顧客の生活にとってOSのような役割を担うようになっているからだ。マーケッターは、自社ブランドが価値を保ち、こうした巨大デジタル企業にはじき出されないための戦略を立てる必要がある。

 「未来は大きな企業ではなく、俊敏な企業の手中にある」(ギャロウェー氏)

破壊的変革の形態

 顧客は、ブランドを評価する場合、自分を取り巻く全ての中からの最高の企業やエクスペリエンスを基準とし、どんな業種や分野かは問わない。それだけに、マーケッターはブランドが掲げている約束を果たす必要がある。Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるジェーク・ソロフマン氏は、「マーケッターにはこれまで以上にスピードと精度が求められるようになっている」と、Gartner Digital Marketing Conferenceで語った。

 「自動化が可能なことは全て自動化する必要がある。マーケティング支出の4分の1以上がテクノロジーに振り向けられている理由の1つがそこにある」とソロフマン氏。CMOの管理下にあるテクノロジー支出はごく近い将来、CIOの管理下にあるテクノロジー支出を上回る見通しだ。

 マーケッターにとっては、顧客ニーズを十二分に満たすために、マシン、人、“モノ”が相互にやりとりし、絶えず変化する状況が、新たな常態(ニューノーマル)となっている。顧客ニーズを先取りして満たし、エンゲージメントにつながる豊かなエクスペリエンスを創造できれば、長期的な顧客ロイヤルティーの獲得という形で報われる。

エクスペリエンスの時代

 マーケッターは多かれ少なかれ、カスタマージャーニー(企業と顧客が関わる一連のプロセス)における「購入」フェーズについてはマスターしている。だが、「購入>所有>支持」が理想的な流れである顧客エクスペリエンスジャーニーにおいて、重要なのは「所有」フェーズだ。

 マーケティングリーダーは顧客エクスペリエンスを通じて、ブランドの約束を実現する責任を負っている。エクスペリエンス時代には、約束を果たさないブランドは見限られてしまう。2018年には、各分野において、顧客満足に関するリーダー的存在である企業は全て、最高顧客責任者あるいは同等の役職を置いているだろう。

音声の時代

 2016年には、音声検索はマーケティングリーダーのレーダーにほとんど捉えられていなかった。今では、検索件数全体に占める音声検索の割合は増加の一途をたどっている(500億件程度)。目と手を使わずに検索ができれば、運転やエクササイズ、ウォーキング、さまざまな人的交流など、これまでにない場面で可能性が広がる。

 その結果、大部分の人は、起きている時間の中でネットにつながっている時間の割合が急速に100%に迫る。マーケッターは、画面を使わない新しいユースケースの課題を解決するとともに、顧客やオーディエンスのターゲティングとエンゲージメント獲得に取り組む必要がある。2020年には、Web閲覧セッションの30%が画面なしで行われるようになると予測している。

モノの時代

 車両や設備、機械、家電が接続され、消費者の代わりに決定を行う権限を担うようになっている。そのため、マーケッターはこうした機械類が決定にどのような影響を与えるかについても鑑みなければならない。

 Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるマーティン・キーン氏はGartner Digital Marketing Conferenceの基調講演で、消費者が意思決定を仮想エージェントに任せたら、何が起こるかを考えるようマーケッターに呼び掛けた。2020年には、デジタル商取引トランザクションの25%がIoTデバイスから起こるようになると予測している。

機械の時代

 マーケッターにとって、機械に関わる新たな常態は3つのフェーズで進む。フェーズ1では、“機械を活用した”マーケティングが行われる。マーケッターがマーケティングオートメーションを利用してキャンペーンを作成したり、A/Bテストを実行したりといった具合だ。

 フェーズ2では、機械が作業を行うプログラマティックな広告など、“機械を通じた”マーケティングが行われる。

 フェーズ3では、“機械に対する”マーケティングが行われる。ソフトウェアが半自律的に機能し、オーナーのために結果の最適化をある程度代行する。例えば、Googleの自然検索アルゴリズムで高く評価されるマーケティングコンテンツやコピーを作成する。2020年には、人と企業の商業的な関わりの大部分に仮想エージェントが参加するようになる見通しだ。

人の時代

 マーケッターは、あの手この手でデータや機械、アルゴリズムを駆使してバズ(口コミ)を生み出す一方で、マーケティングプロット(シナリオ)を堅持する必要がある。データ、アナリティクス、機械学習は、今ではマーケティングの要素として定着しているが、やはり人こそが、マーケティングをユニークで人間味のある有意義な活動たらしめている。

 機械はマーケッターをさまざまな作業から解放し、マーケティングの人的側面に集中することを可能にしている。機械は一晩中眠らずに稼働するが、ユーモア、皮肉、共感は不得意なテーマだ。

 キーン氏は聴衆に、機械の目的はマーケティングの人的側面を縮小するのではなく、増幅することにあると考えるよう促した。「マーケティングに携わる人間にとって、今ほど良い時代はない」(同氏)

出典:Marketing in the Age of Disruption(Smarter with Gartner)

筆者 Chris Pemberton

Writer and marketing strategist


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