では、プログラミング教育を既に実践している先進校では、どのような授業が行われているのか。2015年から文部科学省プログラミング教育実証指定校として授業研究に取り組む茨城県古河市立 大和田小学校 藤原晴佳教諭の発表を紹介しよう。
大和田小学校は2015年度に文科省のプログラミング教育実証指定校や古河市ICT教育推進事業重点整備校、プログラミングモデル校として認定を受けた。これをきっかけに、校内のICT環境が整備され、全ての子どもに1人1台のiPadを配備し、さらには普通教室に大型ディスプレイやApple TVも導入した。
こうした恵まれた環境で、どのように学校としてプログラミング教育を進めていくのか。藤原教諭は「大和田小学校では、議論の取りまとめ(※1)に基づき、プログラミングを教科の“ねらい”を達成するツールとして位置付け、全教科の中で実施することにした」と語る。
具体的には、低学年の授業には「アンプラグド」(※2)、中学年には「Codeable Crafts」「ScratchJr」「Pyonkee」などのビジュアルプログラミング、高学年にはそれに加えて「Sphero」「レゴWeDo」などのハードウェアを制御するプログラミングを取り入れて、体系的に学べるカリキュラムを作成した。
※1:小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)
※2:CS(Computer Science)アンプラグドのこと。コンピュータでプログラミングをするのではなく、カードなどを用いたゲームやグループ活動を通して、コンピュータの基本的な仕組みを学ぶ。詳細は、こちら
藤原教諭は、3年生の国語で「ScratchJr」を活用したプログラミングの授業に挑戦した。「ゆうすげ村の小さな旅館」という単元では、物語の伏線となる“しかけ”を読み取ることを教科の“ねらい”とし、“しかけ”のある話を自分でも制作する活動を取り入れ、それをプログラミングで「デジタル紙芝居」として表現することにした。
「この活動で最も大切なことは、“国語”の部分と、“プログラミング”の部分に対して、どこまで何を達成できればいいのかという視点や評価を明確にすることだ。国語では話がつながっているかどうか。プログラミングは“しかけ”が入っているかどうか。子どもたちにも目的意識を持って取り組ませた」(藤原教諭)
その後は、いきなりプログラミングに入るのではなく、まずはワークシートにオリジナルの物語を書き出し、頭の中のアイデアを設計図に落とし込む作業を行わせた。子どもたちは、出来上がったワークシートを友達と読み合いながら、互いに“しかけ”部分について意見やアドバイスをもらい合い、推敲を重ねる。物語が完成したら、今度は絵コンテを作成し、絵の部分を「ScratchJr」で表現していく。
「出来上がったデジタル紙芝居は、1、2年生の前で発表するようにし、制作中は読ませる相手がいるという意識を持ちながら作品づくりに取り組ませることも留意した。この活動を通して思考のアウトプットや可視化をしっかり行うことで、子どもたちの考えがより広がっていく手応えを得た」(藤原教諭)
藤原教諭は、「アンプラグド」も授業に取り入れて「プログラミング的思考」の習得も各教科で実践している。例えば、3年生算数の単元「いろいろな三角形」における「二等辺三角形を作図する」という活動で、プログラミングで大切なシーケンス制御、つまり「順序」の考え方を取り入れた学習を行った。
この単元では従来、教員が作図の仕方を言葉で説明するだけで終わっていたが、そこにプログラミングを絡めて、「二等辺三角形の作図を順序正しく説明しよう」という“ねらい”を位置付けた。そのためには、まず「順序」とはどのようなものなのかを理解するために、子どもたちは「ルビィのぼうけん」を使って学習。その後、二等辺三角形の作図方法について説明書を書き上げ、友達がその説明書を見ながら作図できるかどうかも挑戦した。
「“アンプラグド”を活用したプログラミングの授業は、単に、子どもたちが順序正しく考えているかどうかに終始するのではなく、“順序”の考え方自体がさまざまな場面で使われていることを子ども自身が気付くように意識した。身近な家電の動作順序を考えさせてみたり、他の教科でビジュアルプログラミングを使うときに順序を意識させたりと、“アンプラグド”で学んだ内容を、子どもが体感的に理解できる場が重要だ。こうした学習を通して、子どもたちには『プログラミングの学習は、その考え方を学ぶことなんだ』という意識を持たせていくことができるのではないか」(藤原教諭)
もう1つ、栃木県大田原市立 大田原小学校の海老澤洋一教諭の実践事例を紹介しよう。海老澤教諭は、6年生英語の単元「Let's go to Italy」で、「Scratch」を用いたプレゼンテーションの制作と発表に取り組んだ。
この学習では、「子どもが世界のさまざまな国に興味を持ち、自分の行きたい国やお勧めの国について調べ、英語で発表する」ことが“ねらい”になる。一般的には「PowerPoint」などのプレゼンテーション専用のソフトウェアを使って調べた内容を発表することが多いが、この学習ではそうしたツールを使わずにScratchを用いてプレゼンテーションの制作と発表を行った。
6年生は既に5年生のときにNHK for Schoolのプログラミング教育番組『Why!? プログラミング』を視聴しており、また、Hour of Codeの経験があったことが、Scratch採用の決め手になったという。
この学習活動は大きく分けて4つのパートに分かれるが、プログラミングは「第2次」のパートで実施された。子どもたちは、興味を持った国について世界遺産や料理、スポーツなどをインターネットで調べ、その結果をScratchでまとめる。より良い伝え方、見せ方に仕上げるためには、どのような動きをプログラミングすればよいか。友達と意見交換をしながら進めていった。
「表現したいことを高度な内容にしていく話し合いの過程において、Scratchの得意な子が、そうではない子に教えたり、互いに作品を検討し合ったりする様子が教室の至るところで見られた。また英語表現に関しても、授業で習ったセンテンスだけを言うのではなく、Scratchの動きに合わせて『Yummy!』などの感情表現を英語で話す子どももいて、温かい雰囲気で発表の時間を楽しめた」(海老澤教諭)
一方で、プログラミングを実施するために授業時間数を調整することが課題だ。今回の活動についても、英語の授業だけでは足りず、「総合的な学習の時間」を利用してプログラミングに取り組む時間を確保しているという。
「各教科でプログラミングを取り入れるには、時間数が足りないことが想定されるため、カリキュラムマネジメントが重要になってくる。また、いきなり教科にプログラミングを取り入れるのではなく、初期の頃はコンピュータの操作に慣れる時間なども確保すべきだ」(海老澤教諭)
海老澤教諭は最後に、会場の参加者らに向けて次のように訴えて講演を締めくくった。
「まずは自分が楽しめそうなものからトライしてほしい。私自身も最初は分からないことが多かったが、Hour of Codeから始めて、だんだん楽しくなり、教科学習のどの部分で、どう使えるのかをイメージできるようになっていった。教員が楽しんでこそ、子どもたちにもその楽しさが伝わる。そうした気持ちを忘れずに授業を考えていくことが大切だ」
次回は、模擬授業や教材について取り上げる。
政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。
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