『Anyca』は東京海上日動保険とシステム接続し、オーナーとドライバーのマッチングが成立したら、契約時にドライバーが保険に加入する仕組みになっている。保険システムとのつなぎ込みは、山のような仕様書と格闘する日々だったという。
自身が企画したサービスだけに、自分でコードを書きたくなるはずだが、モバゲー開発時代に比べると『Anyca』の開発では、コーディング以外の業務が大幅に増えていた。コーディング時間を死守したいとまで宣言している馬場さんは、この点についてどのように受けて止めていたのだろうか?
「川崎さんの時間を雑務に使ってほしくないという思いから、自分は喜んでその他の業務に徹しました」
それは、ある出来事がきっかけだった。
メインシステムのある程度動くものが出来上がったころのことだ。川崎氏が画面を操作しながら「何だか気持ちが悪い」と言い始め、「手直しするから2週間ほどこもるね」と言って、本当に部屋にこもってコードを直し始めたという。
「出社してから退社するまで、ずっと部屋にこもりっきりなんです」
そうして出来上がったものは、操作性や画面の状態遷移などが格段に良くなっていた。馬場さんは、これを「神アプデ」と呼んでいる。
「コードを書き上げて息切れしている人を初めて見ました。エンジニアにしか出せないバリューがあるということを目の当たりにしてとても感動しました」
企画やアイデアを成功させるためには、自分でコードを書くよりもプログラミングの天才に委ねた方が良いことがある。マーケター、エンジニア、デザイナーなど、サービスに関わる人たちは、それぞれの立場でしか出せないバリューがある。それを最大化するためには、自分がその他の業務を担当するのも“あり”だと考えるようになった。
それと同時に、川崎氏のようにエンジニアにしか出せないバリューを自分の武器として持つことも大切だ。「企画を出すこと」「プロジェクトを成功させること」「エンジニアとしてスキルを磨くこと」、それぞれを経験して、それぞれが別次元のものだということを馬場さんは理解したのだった。
『Anyca』のリリース後は、同サービスのリードエンジニアとして、必要な機能をゴリゴリと実装するようになった馬場さん。Androidアプリの実装を手掛けた他、開発環境や分析環境、運営用システムなど、現在の『Anyca』システムの基盤を作成した。
コーディング時間もしっかりとキープし、エンジニアとしてのスキルを着実に磨き上げているようだ。
一方で、最近では『Anyca』のプロジェクトリーダーとして、ユーザーへの電話インタビューから協業先との交渉まで行い、『Anyca』をリードする立場になった。その中でもコーディング時間をしっかりとキープし、エンジニアとしてのスキルを着実に磨き上げているようだ。
そこで馬場さんに、将来は、部屋にこもってゴリゴリとコードを書くタイプと、企画も含めていろいろな業務を進めていくタイプの、どちらになりたいかを聞いてみた。
「プログラミング以外の業務をすることで、サービスそのものや、開発プロジェクトというものを多角的に捉えられるようになったのは間違いありません。でも、こもってゴリゴリとコードを書くのも一度はやってみたいですね」との答えが返ってきた。
やりたいことは全てトライして、そこから絞り込んでいくのは、就活時代から続く馬場さんのスタイルだ。可能性を自ら限定しない馬場さんらしさは、将来さらに良い方向に進んでいくだろう。
最後に、今、就活やキャリアアップで悩んでいる人たちへのアドバイスを頂いた。
「やりたいことが明確でなく、ふわふわとしてしまうのは普通のこと。それっぽいこと見つけて、無理やり自分を型にはめていくよりも、焦らずに『これだ!』と思えるものを探した方がいいと思います」
馬場さんによれば、近ごろはエンジニアの通年採用を行う企業が増えており、必ずしも決まった時期に就活しなければいけないわけではないとのことだ。それだけに、学生時代はいろいろなことに目を向けておくことも大切だという。
そしてもう1つ。将来、ネットサービスの企画、開発、運営を目指したい人は、自分が本当にやりたいのは、サービスを企画することなのか、自分でコードを書くことなのか、それとも開発プロジェクトを成功に導くことなのか、もう一度見つめ直してみると良いかもしれない。
本連載では、今後もIT企業の最前線で活躍するトップエンジニアに、学生時代に行った就職活動の内容や、これから就職活動を行う学生へのアドバイスを聞いていく。ぜひお楽しみに。
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