デジタルトランスフォメーションのトレンドが進展するに伴い、IT部門には「経営に寄与する」ことが一層強く求められている。では「寄与」とは具体的に何をすることなのか?――2017年 @IT SystemDesignフォーラム SNSランキングベスト10に、そのヒントを探ってみてはいかがだろう。
ITの力で新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーションの取り組みが急速に進んでいます。金融、流通、小売りをはじめ、2017年もさまざまな業種でITサービス開発競争が活発に展開され、ビジネスが「ソフトウェアの戦い」に変容してきたことを、多くの人が実感したのではないでしょうか。
これに伴い「経営に寄与するIT」という言葉の中身が、今あらためて強く問い直されています。特に「システムの安定運用」や「ベンダーコントロール」などが従来のメインミッションだった企業のIT部門にとっては、「経営に寄与せよ」と言われても、ビジネスまでの距離が遠い故に、「具体的に何をすべきかイメージできない」という向きも多いといわれています。
そうした状況を反映してか、“デジタル時代のIT活用の在り方”をメインテーマの1つとしている@IT SystemDesignフォーラムにおいても、「寄与の中身」を考えるヒントとなるような記事が多数読まれました。本稿では、以下のSNSランキングベスト10から、4つのポイントを俯瞰して紹介します。
順位 | タイトル | いいね!数 | 掲載日 |
---|---|---|---|
1 | むしろセールスフォースユーザーに適する?:「Amazon Connect」の、コールセンターを変える「破壊力」 | 3788 | 9月20日 |
2 | Google Cloud Next ’17:Google Cloud Platform、15のサービスで永久無料枠を提供開始 | 702 | 3月13日 |
3 | 「ビジネスに寄与する情シス」の具体像:「情シスのあるべき姿」とは――フジテック CIO、10の言葉 | 572 | 3月28日 |
4 | エンジニア視点で説明する「メルカリ」、リリースから4年の道のり:特集:情シスに求められる「SRE」という新たな役割(4) | 454 | 11月6日 |
5 | まずは米国西部(オレゴン)から:[速報]VMware Cloud on AWS、とうとうサービスを一般提供開始 | 387 | 8月28日 |
6 | AWS Summit Tokyo 2017:AWSへの移行開始から3年半、ソニー銀行の「節約大作戦」があらためて教えてくれること | 326 | 6月21日 |
7 | Google Cloud Next Tokyo 17:「アマゾンは本当に怖い」とファミリーマートの澤田社長、Google Cloudをフル活用へ | 261 | 6月15日 |
8 | Gartner Insights Pickup(29):取締役会でセキュリティに関するプレゼンテーションを行う際のコツ | 208 | 8月25日 |
9 | 事業戦略に沿って選択と集中:SOMPOホールディングスは、機械学習/AI、クラウドをどう活用しようとしているか | 187 | 8月29日 |
10 | 特集:情シスに求められる「SRE」という新たな役割(2):米Google SREディレクターに聞く、運用管理の意義、価値、役割 | 182 | 3月17日 |
ビジネスが「ソフトウェアの戦い」になっていると前述しましたが、それは社外向けのITサービスだけではなく、社内向けの業務システムを含めた企業システム全体に当てはまる話だといえるでしょう。ビジネス展開に即応できるスピードと柔軟性を獲得するために、“ビジネスインフラのソフトウェア化”が年々急速に進んでいるのです。
第1位『むしろセールスフォースユーザーに適する?:「Amazon Connect」の、コールセンターを変える「破壊力」』は、そうしたトレンドを象徴するニュースだったのではないでしょうか。「専用機中心のシステム構成だったコンタクトセンターシステムをクラウド提供する」「SaaSに近いサービスであり、AWSやITに関する知識はほぼ必要ない」といった点は、まさしく企業ITが進んでいる方向を示唆しています。
また、常に大きな関心が寄せられるのが、第2位『Google Cloud Next ’17:Google Cloud Platform、15のサービスで永久無料枠を提供開始』のようなニュースです。ビジネス要請に対していかにスピーディーに対応するか、より良い策を提案するか――ビジネスの武器として“使いこなせる”手段、新しい手段は常に強く求められていることがうかがえます。
一方、2017年は、パブリッククラウドに対し、「これから作る新しいシステムの展開先」としてではなく、「既存システムの移行先」としての関心が高まった年でもありました。それを象徴するのが、第5位『まずは米国西部(オレゴン)から:[速報]VMware Cloud on AWS、とうとうサービスを一般提供開始』です。オンプレミスシステムのクラウド移行において課題となってきた、「クラウド向けのシステム設計」と「その後の運用」の両面でハードルを下げるとして大きな注目を集めました。
2017年12月現在は、複数のクラウドサービスプロバイダーが「既存システムをそのままクラウドへ」とうたうメッセージを打ち出しているのも周知の通りです。クラウドサービスプロバイダーのデータセンター内に占有環境を構築・運用するサービスであるホステッドプライベートクラウド、ユーザー企業のデータセンター内にプライベートクラウドを構築・運用するサービスなど、選択肢も複数ある今、企業にとってアジリティを獲得しやすい環境は年々整っているといえるでしょう。
そうした中で、第6位『AWS Summit Tokyo 2017:AWSへの移行開始から3年半、ソニー銀行の「節約大作戦」があらためて教えてくれること』は多くの読者に多大なインパクトをもたらしたのではないでしょうか。昨今の変化が激しい経営環境を鑑みれば、クラウド移行はもはや必須であることを、ミッションクリティカルシステムを持つ金融系の事例から感じ取った読者は決して少なくなかったことでしょう。第7位『Google Cloud Next Tokyo 17:「アマゾンは本当に怖い」とファミリーマートの澤田社長、Google Cloudをフル活用へ』も、その反響の大きさから多くの読者にインパクトを与えたことがうかがえます。
ただ、以上のように積極的にクラウドを使いこなそうとする動きがある一方で、セキュリティや安定性などへの懸念から、いまだクラウド移行に踏み出せない日本企業が多いのも現実です。しかし、懸念点はそれだけではありません。クラウドによって、インフラ配備・運用の「自動化」「セルフサービス化」が進むと「自身の存在意義がなくなってしまうのでは」といった脅威を抱く運用管理担当者も少なくないといわれています。しかし、それは誤解であり、役割やミッションが変わると考えるべきではないでしょうか。
それを示唆するのが第10位『特集:情シスに求められる「SRE」という新たな役割(2):米Google SREディレクターに聞く、運用管理の意義、価値、役割』です。「自動化を進める中で私たちが気付いたのは、『需要の増加は往々にして自動化のスピードを上回る』ということ」「私たちは運用スタッフの数を減らしているのではなく、運用スタッフが増え続ける状況に歯止めをかけている」「運用管理スタッフは、“繰り返しではない、取り組みがいのある業務”に大きな関心を持っている」といった言葉は、運用管理者の新しい役割を考える上で大きなヒントになるはずです。
また、そうした役割を、一層リアルに実感できるのが第4位『エンジニア視点で説明する「メルカリ」、リリースから4年の道のり:特集:情シスに求められる「SRE」という新たな役割(4)』でしょう。運用管理者として持つべきマインドセットから具体的な取り組みまで、非常に詳しく紹介していますので、ぜひご一読をお勧めします。
そして最後に紹介したいのが、今回のランキングの中でも「経営に寄与するIT」の具体像が最も鮮明に収められた、第9位『事業戦略に沿って選択と集中:SOMPOホールディングスは、機械学習/AI、クラウドをどう活用しようとしているか』と、第3位『「ビジネスに寄与する情シス」の具体像:「情シスのあるべき姿」とは――フジテック CIO、10の言葉』です。
前者では「保険(業界)自体がディスラプトされることが幾つも起こっている」という“危機感”、局所的な取り組みではなく「グループ全体のミッションとしてデジタルビジネスに取り組んでいる」という“スタンス”、「事業会社および事業部門と、どんな事業を目指していくかを徹底的にディスカッションし、事業戦略を考えながらデータ戦略に落とし込んでいる」という“プロセス”――いわばデジタルビジネスに取り組むための重要なポイントをほぼ網羅しています。これらを実際のプレイヤーのリアルな肉声を通じて読むことで、実は泥臭く厳しいものである“デジタルトランスフォーメーション”の真の姿を感じ取ることができるのではないでしょうか。
一方、後者の記事には「従来型の情報システム部門」から「今求められる情報システム部門」に変わるためのヒントが多数盛り込まれています。テクノロジーの専門家としてビジネスの現場に真摯に向き合い、ITの意義を考え続けてきたフジテック CIOの“珠玉の言葉”は、これまでを振り返り、これからを見据えるための非常に大きな道しるべとなるはずです。読了後には、きっと皆さまそれぞれの業務環境に即した「あるべき情シス像」をリアルにイメージできることでしょう。
さて、いかがだったでしょうか。2017年はデジタル変革の波が加速し、「既存の常識を疑う」「新たな価値を発想する」ことが強く求められた年でした。@IT編集部では、これからも時代と人の変容を見つめながら、読者の皆さまにとって有用な情報をもらさずキャッチアップしていきます。2018年も@ITをどうぞよろしくお願いいたします。
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