セッション「運用管理チームの価値を高める! グローバル石油企業におけるツール導入の成功事例」では、フェス 第2事業部 統括グループ チームリーダの二木光一氏が、グローバル石油企業であるアラムコ・アジア・ジャパンにおけるアジア太平洋地域向けヘルプデスクツールの導入事例とその成功を紹介。併せて、ビジネス貢献のための「ツール選定の方法」「ツール導入時の注意事項」「ツール導入後の効果」などを説明した。
アラムコ・アジア・ジャパンは、サウジアラビアの国営企業であるSaudi Aramcoの日本法人で、アジア地域5エリアに14拠点を構えている。IT担当者は18人で、各拠点にサービスデスクを設置し、日本から変更管理を実施している。
「アラムコ・アジア・ジャパンはITサービスマネジメント(ITSM)の課題を抱えていた。既にMicrosoft SharePointを使った簡易ツールを用意して運用を実施していたが、きちんとしたインシデント管理ツールはなく、電話やメールが多くIT部門の工数が増えていた。また、ツール導入を機に申請書類もペーパーレス化したいという要望もあった」(二木氏)
これらの課題を改善すべく、フェスではゾーホージャパンのヘルプデスクツール「ManageEngine ServiceDesk Plus」の導入プロジェクトを推進。導入効果としては、標準プロセスを導入したことで業務の可視化を実現した。また、メールや電話が減ったことによりIT部門の負担を軽減。さらに、導入時には見送った問題管理やFAQ機能も、容易に運用を開始できたという。
「ヘルプデスクツール選定・導入のポイントは、まずツール導入の目標と、導入後の目指すべき姿の全体像を明らかにし、共通認識化すること。そして、最低限の業務要件を定義してからツールを選定し、予算化して導入する流れが、成功プロジェクトへの近道になる」(二木氏)
特別講演に登壇したのは、メルカリ SRE(Site Reliability Engineer)の佐々木健一氏。「メルカリSREの流儀 運用を変えるのは怖い、でもそれをやめたら自分のキャリアも終わりかな」と題し、国内最大級のフリマアプリ「メルカリ」のインフラを支えるSREチームの働きや「どのような仕組みで自動化を実現しているのか」を明かすとともに、「一運用エンジニアとして、顧客、サービス、そして自らの成長とどう向き合っているのか」を語った。
SREは、Googleの運用チームを率いるベン・トレイナー氏が提唱したといわれている。その役割は、企業内のさまざまなプロダクトやサービスを横断して、ソフトウェアエンジニアリングによりサイトやサービスの信頼性を向上させることにある。
メルカリでは、2015年11月に、従来の「インフラチーム」から「SRE」へと組織体制を移行した。
「メルカリでは、売る側と買う側としてお客さまがいるが、双方がいつでも快適かつ安全に利用できる、“信頼性の高い”サービスの実現がSREのミッションとなる。そのためには新規サービスの開発以外のエンジニアリングは全部やるというスタンスで活動している」(佐々木氏)
現在、メルカリは日米英でサービスを展開。ダウンロード数は1億ダウンロード(日本+米国+英国)に達し、出品数は1日100万品以上、流通額(GMV)は月間100億円を突破している。今後もさらなるサービス成長が見込まれることから、SREチームも現在の11人からメンバーを増強し、組織体制を強化する計画だ。
次に佐々木氏は、メルカリのシステムにおけるデプロイ自動化の取り組みについて紹介した。
当初、メルカリのシステムは、1週間に1回の定期デプロイを行っていた。しかし、1回にデプロイする内容が増加するのに伴い、ロールバックかデプロイ継続かの判断が難しくなってきた。また、サービスが拡大し、パートナー企業と接続するケースも増えてきたため、定期デプロイでは対応しきれず、毎日のように緊急デプロイが発生する事態になっていた。
SREチームでは、こうした状況を受け、サーバサイドデプロイの方法を再検討。GitHubのプルリクエストを基にした継続的デリバリーへの変革に取り組んだ。
まずは、継続的デリバリーのプロセスを手動で運用しつつ、並行してSlack botを活用した自動デプロイの開発を進めた。当初は、1つのSlack botでデプロイ自動化を担う仕組みだったが、社内の開発手法がマイクロサービスベースへ移行するのに伴い、開発者ごとにデプロイ手段が増えることが予想された。そこで、Slack botによるデプロイbotと、GitHub botによるレビューbotに機能を分割。これによって、デプロイに柔軟性を持たせた自動化の仕組みを実現した。
最後に佐々木氏は、一運用エンジニアの立場から運用管理者にアドバイスを送り講演を締めくくった。
「急速に変化する環境の中で、立ち止まることは相対的には後退してしまうことになる。生き残るためには変化を続けることが重要だ。また、人との出会いを大切にし、人には親切にすること。そして、チャンスを逃さないよう、常にアンテナを立てておいてほしい。
運用自動化は、自分の分身を作るつもりで取り組むのがポイント。運用が自動化された後には、別の新しいことや楽しいことにチャレンジできる。例えば、開発者が運用を行う時代では、アドバイザーなどとして運用者の経験や視点が生かせるはずだ。今後も自動化する対象は増え続けることは確実。運用者は常に自動化の開拓者でありたい」
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