Mobile World Congress 2018では、5G通信が脚光を浴びた。だが、全てのユースケース、アプリケーションが5Gに移行するわけではない。現実には5Gを補完し、あるいは5Gと関係なく、各種の無線通信技術が使われていく。この点で興味深い動きを見せているRuckus Networksの、ダン・ラビノヴィッツCEOに聞いた。
2018年2月26日〜3月1日、スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2018(MWC 2018)」では、5G通信が脚光を浴びた。夢の膨らむ技術だが、5Gサービスは提供開始当初から、そのポテンシャルをフルに発揮できるわけではない。また、サービスの展開が進んだ後も、全てのユースケース、アプリケーションが5Gに移行するわけではない。
現実には5Gを補完し、あるいは5Gと関係なく、さまざまな無線通信技術が使われていく。この点で興味深い動きを見せている企業の1つに、Wi-Fiアクセスポイントを開発・販売してきたRuckus Networks(以下、Ruckus)がある。
「端的に言って、5Gはコストが高い。誰がこのコストを負担できるのか」と、Ruckusのダン・ラビノヴィッツCEOは話す。例えば、5G通信の使う周波数帯では、4G/LTEなどよりも電波の到達距離が短い。このため、モバイル通信事業者は4G/LTEなどと併用してカバー率を確保ながら、段階的によりきめ細かな基地局の設置を進めなくてはならないことになる。
一方で、アンライセンス(ライセンス不要)の無線通信技術も消えることはない。その1つはWi-Fiだ。
Wi-Fiは今後も、独立した公衆無線LANサービスで、あるいはモバイル通信事業者によるデータ通信のオフロードで、利用されていくことが考えられる。だが、特に街中では公衆無線LAN接続の不安定さに不満を覚え、携帯電話端末のWi-Fi接続を無効にする人は多い。
そこで、Wi-Fiも段階的な進化を続けている。
Wi-Fi技術を推進する業界コンソーシアムであるWi-Fi Allianceは、主にキャリアWi-Fiを想定し、Wi-Fi(IEEE 802.11ac)における拡張機能を認定する「Wi-Fi CERTIFIED Vantage(Wi-Fi Vantage)」というプログラムを2016年11月に発表。さらに2017年9月にはWi-Fi Vantageの第2弾(「Vantage 2」とも呼ばれる)として、主に接続確立プロセスの高速化、通信品質改善のための技術に関する追加機能の認定を開始した。
MWC 2018の前週に当たる2018年2月22日には、KDDIが「Qualcomm Technologies、Ruckus、シャープと共同で、世界で初めてVantage 2のフィールドトライアルに成功した」と発表した。
KDDIのプレスリリースによると、「今回実証した品質改善技術は、混雑時の通信効率を改善する技術、電波が不安定な状況において接続しない技術、公衆無線LANへの接続時間を短縮する技術の3要素から構成される技術で、フィールドトライアルの結果、30%の通信効率改善、最大10倍の接続速度向上効果が得られることを実証」したという。
また、IEEE 802.11acの後を継ぐIEEE 802.11axの仕様策定が進んでおり、2018年にも製品が登場し始めると見られている。802.11axは、端末が高密度に存在するスタジアムなどの環境に適しているとされる。
米国では、アンライセンスの無線通信で、3.5GHz帯の再利用という重要なトピックがある。RuckusはGoogleなどと共同で、「OpenG」という取り組みを進めてきたが、MWC 2018では、これに基づく製品群を発表した。
米連邦通信委員会(FCC)は2015年4月、3.5GHz帯を「Citizens Broadband Radio Service(CBRS)」とし、新たな周波数割り当てメカニズムを導入すると発表した。これによると、3.5GHz帯には3種類の優先度が設けられる。最優先は、既存ユーザーである米国海軍のレーダーなどによる利用。第2優先度は、入札によって割り当てを受けたPAL(Priority Access Licenses)ユーザーに与えられる。
OpenGが関係するのは第3優先度のGAA (General Authorized Access)だ。基地局をFCCに登録しさえすれば、他の優先ユーザーに干渉しない限り、誰でもライセンスなしに利用できる。干渉を防ぐために、FCCはこれら全ての利用者にわたり、リアルタイムに近い形でアクティブな調停を行う。
Ruckusの新製品「Ruckus CBRS-band LTE portfolio」では、このGAAを活用し、3.5GHz帯を用いる屋内向け小型携帯電話基地局と関連ソフトウェア、サービスを提供する。この小型基地局は、携帯電話サービスからは中立的なものだ。結果として、企業や施設が、Wi-Fiアクセスポイントと同じような感覚で、屋内向け携帯電話基地局を調達し、導入できるようになるという。また、携帯電話事業者にとっては、基地局設置にコストをかけずに、実質的なカバレッジを広げ、ユーザーの利便性を向上できるメリットが得られる。
「既に17の実証実験を行った。初期の実験ではドングル(PCのUSBポートに挿すスティック型機器)を使っていたが、日本が3.5GHz帯を携帯電話事業者に割り当てたおかげで、携帯電話端末を幅広く使えるようになった」(ラビノヴィッツ氏)
アンライセンス無線通信技術を使った、将来有望なもう1つのユースケースとして、IoT(Internet of Things)がある。エッジ接続では、Wi-Fiに加え、ZigBee、LoRaなど、各種のLPWA(省電力無線通信)技術の活用拡大が見込まれる。
「だが、通信技術が併存しているため、運用がバラバラで、統一的なセキュリティも確保しにくい」(ラビノヴィッツ氏)。Ruckusでは、こうした課題を解決する技術および製品への投資を大幅に強化しているという。
MWC 2018でRuckusが発表した「Ruckus IoT Suite」は、一言で言えば「IoTネットワーキングを統合する製品」だ。
既存の同社Wi-FiアクセスポイントにIoTモジュールを挿すことにより、各種LPWAへ対応できるようにしている。すなわちまず、アクセスポイント/IoTゲートウェイを、複数のエッジ接続技術にまたがって物理的に統合できる。当初対応するのは、ZigBee、Bluetooth Low Energy(BLE)、LoRa。
その上で、同社の無線LANコントローラー、「Ruckus SmartZone Controller」の適用範囲拡大により、IoT接続も含めたネットワーク管理ができる。また、新たに提供される「Ruckus IoT Controller」の併用で、デジタル証明書の発行・適用、通信の暗号化、通信のセグメンテーションなどを、一括運用の下で実行できる。
IoT関連では、スマートシティ・プロジェクトに関わるケースが世界各地で増えていると、ラビノヴィッツ氏は話す。
「世界中の地方自治体の多くで、特に街路灯の電力消費コストが重大な問題になっている。年間予算の40%を占めている自治体もある」(ラビノヴィッツ氏)
Ruckusでは、街路灯の支柱に埋め込めるWi-Fiアクセスポイントを開発、これを通じて街路灯のインテリジェントな制御を行うとともに、他のIoT機器への接続や、公衆無線LANサービスに利用できるようにしているという。
Ruckusは一時Brocade Networksの傘下にあったが、イーサネットスイッチ事業と共に、ケーブルモデムなど家庭向けネットワーキング機器を提供してきた企業、ARRISに買収された。
ラビノヴィッツ氏は、ARRISによる買収のおかげで、1社で家庭、企業、社会のネットワークインフラを全てカバーできるようになったと話す。これらの間の境界が今後ますます曖昧になっていくにつれ、このことは重要な意味を持ってくると話している。
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