自己啓発書には、前向きになれる言葉たちがたくさん並んでいました。それらの言葉を読むと、「あー、そうだなぁ。人生で大切なのはこういうことだよなぁ」と、何となく元気になれた気がしました。
「あー、もう少しこの気分を味わいたいなー」
1冊読み終えると、また書店に行きました。選ぶのは、もちろん自己啓発書です。それからというもの、良い気分になりたくて、つまらない毎日を何とか変えたくて、むさぼるように本を読みました。しまいには「もっと早く読みたい」と思って、5万円もする速読学習セットを購入する始末。おかげで、本はかなり速く読めるようになりましたが。
本を読むのがあまりにハイペースなので、そのうち、お小遣いが足りなくなりました。そこで、古本屋を利用するように。1冊100円程度で売っている自己啓発書を、10冊単位で購入し、とにかく読みあさる毎日です。
これを「自己啓発書中毒」と呼ばずして、何と呼べばいいのでしょうか。
自己啓発書を読んでいると、確かに気分は良くなりました。
しかし、毎日続けていたら「既読感」に襲われるようになりました。「あれ? これ、前にも読んだことがあるな」と。
今から思えば当然なのですが、どんな優れた自己啓発書も、成功法則も、突き詰めれば至極当たり前のことが書いてあります。「物事の捉え方を変えよう」「前向きな考え方をしよう」「未来をイメージしよう」「願えばかなう」「顧客の役に立つことをすればお金を稼げる」「自分らしく生きよう」……みたいな。
もちろん、これらはどれも、とても大切なことです。
自己啓発書とは、これらの「至極当たり前のこと」を、著者の経験談を踏まえて、手を変え、品を変えて作られている商品です。言い方を変えれば、自己啓発書の中身はみんな同じ。たくさんの自己啓発書を読むと、「あれ? この本も言っていることは同じだな」と気付き始めるのです。
本のタイトルには、「○○の法則」や「これであなたも○○になれる」といった、キャッチーな言葉が並んでいます。最初は、それらを見るだけで「私もそうなれるんじゃないか!」とワクワクしました。
でも、しばらく読み進めると、「こんなに読んだのに、何も変わんないじゃないか」「毎日イメージしているのに、何も起きないじゃないか」と、不満のようなものがたまってきました。
「あれ? おかしいな」と。
これらの経験を積んで、気付きました。「本を読んでいるだけじゃ、何も変わんないんだな」「イメージしているだけじゃ、ダメだな」と。
今から思えば、「そんなことに気付かないなんて、俺はバカか?」なのですが、何かに困っているときや、他に頼るものがないときって、こういう状況に陥りやすいんですよね。
それ以来、自己啓発書ではなく、ビジネス書を読むようになりました。今はそれも落ち着き、読みたいときだけ読むようになりました。
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