客先常駐のプロジェクト現場には複数の会社のエンジニアたちがいるが、お互いの実際の所属会社は分かっていないことが多い。
元請け企業の人間も、エンジニアたちが実際はどこの社員なのか全て把握することは難しい。なぜなら、A社から来ていると思っているエンジニアが、B社とC社がピラミッドの間に挟まり、実際にはD社のエンジニアだったというようなことが当たり前にあるからだ。
このように、ピラミッドの層が何層にもなることを「多重請負」「多重下請け構造」という。
多重請負の悪い点は、間に入って契約を仲介しているだけの企業にマージンを中間搾取され、実際に働くエンジニアがもらえるお金が少なくなってしまうことだ。
最初のページで「客先常駐は派遣のような働き方だが、契約は派遣ではない」と書いた。これは、どういうことだろうか?
会社が派遣業務を行うためには、「派遣法」という法律を順守しなければならない。
派遣契約であれば上記のように間にB社やC社を挟めない。なぜなら、職業安定法第44条、労働基準法第6条(中間搾取の禁止)で「多重派遣は禁止」されているからだ。
SES企業の中には特定派遣(2018年9月に完全廃止)や一般派遣の許可を得ている企業もあるが、派遣契約ではなく請負契約や準委任契約で自社社員を客先に常駐させている。これは「派遣契約だと多重派遣ができない」ことが大きな要因だ。
実態が派遣であるにもかかわらず、契約形態を請負契約や準委任契約とし、派遣ではないかのように偽装したものが「偽装請負」だ。
IT業界で多く見られる「多重下請け+客先常駐」のコンボは、他社のオフィスで働き、かつ他社の人たちとチームを組んで仕事をするため、偽装請負が発生しやすい。
では、派遣と請負の違いとは何か? 派遣の場合は「派遣先の指揮命令、作業管理の下、作業を行う」のに対し、請負の場合は「メンバーに直接指示を出すことも、勤怠管理を行うこともできない」。偽装請負の問題は、この労務管理の責任が曖昧になってしまうことだ。
本来であれば、従業員の労務管理は所属会社が責任をもって行うべきである。しかし、労務管理に他社が介入するとさまざまな問題が生じる。
例えば、残業が多い社員の健康管理のために労働時間を抑制する必要がある場合、普通は所属会社が責任を持って労働時間抑制などの対策を行う。しかし自社の社員が他社のオフィスで働き、そこの社員に業務上の指揮命令を受けている場合、所属会社では労務管理をコントロールしにくくなってしまう。
ちなみに、請負契約や準委任契約は、社員の労務管理や指揮命令は所属会社が行わなければ、法律違反になる。
偽装請負の問題をさらに難しくしているのは、「現場に出ているエンジニアには自分の契約が何なのか知らない場合がある」ことだ。派遣契約でなければ、他社の人間から直接指示を受けられないのだが、本人は自分が派遣契約なのか、SES契約(請負契約や準委任契約)なのか分かっていないため、指示を受けても良いのかどうか判断できないのだ。こうして、知らず知らずのうちに偽装請負の現場にいたなんてことも十分にあり得る話だ。
5次請けや6次請けのSES企業は、エンドユーザーや元請け企業と直接契約すれば良いのではないかと思う方もいるかもしれない。しかし、話はそう簡単ではない。
なぜなら、SES企業の営業も、その案件が何次請けなのか分かっていないことが多いからだ。「情報が流れてきた時点で既に間に何社も入っていた」ということが起きるので、間に何社入るかをコントロールすることは難しい。
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