日本マイクロソフトは、2018年11月5〜7日の3日間、「Microsoft Tech Summit 2018」を開催した。日本マイクロソフト 執行役員の伊藤かつら氏が語る、DXに対するMicrosoftの取り組みとは。
日本マイクロソフトは、2018年11月5〜7日に都内のホテルで「Microsoft Tech Summit 2018」を開催した。同イベントは、2018年9月に米国で開催された「Microsoft Ignite」での発表内容をフォローアップしつつ、日本独自の事例や展開についても触れられた。基調講演には、Microsoft CEO(最高経営責任者)のサティア・ナデラ氏やMicrosoft エンタープライズCTO(最高技術責任者)のノーム・ジュダ氏など多くのMicrosoftのエグゼクティブが登壇した。
本稿では、主にMicrosoftのデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みについて語った日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長である伊藤かつら氏の講演内容をお届けする。
基調講演、最終パートのスピーカーは、日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長の伊藤かつら氏が務めた。
「テクノロジーが時代を革新する原動力になっている一方で、多くのエンジニアやビジネスリーダーにとって、次々と現れて急速に進化する新技術をキャッチアップする難易度が上がっている」(伊藤氏)
そうした状況の中で、「Microsoftは企業がDXをより容易に実現できるためのサービスを提供している」(伊藤氏)という。伊藤氏は、特に「Secure」「Deliver」「Innovate」という3つのテーマについて、同社の取り組みの一端を紹介した。
「Secure(セキュリティ)」については、Microsoft セキュリティバイスプレジデントのロブ・レファーツ氏が説明した。同氏はセキュリティの現状を次のように述べた。
「Microsoftは自社単独のテクノロジーやオペレーションだけではなく、業界のあらゆるセキュリティプロフェッショナルとのパートナーシップによって、これらの脅威に対抗しようとしている」(レファーツ氏)
またMicrosoftでは、グローバルで展開するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」(以下、Azure)上で取得されたあらゆるログデータを基に、サイバー攻撃に関する研究、兆候の検知に努めているという。
「2017年に猛威を振るったワーム型ランサムウェア『WannaCry』に関して、早期に有害性を察知し、Microsoft 365内での拡散を防ぐ対応を行った」(レファーツ氏)
さらに、エンタープライズセキュリティに関して次のようにレファーツ氏は話す。
「アクセス管理や脅威からの保護、情報保護といったことを適切に行いながらも、それによってユーザーの生産性が損なわれないようにしなければならない」(レファーツ氏)
その上で、旧来のパスワードに変わる、よりセキュアで使い勝手の良い技術として「Windows Hello」による顔認証技術や、iOSの「Touch ID」による指紋認証などを紹介した。
Microsoftでは、エンタープライズのシステム管理者が、自社で保有するシステムやデバイスのセキュリティをコントロールするに当たり、Microsoft 365上で「Microsoft Secure Score」というツールを提供している。このツールでは、企業が管理しているIDや利用している仮想マシン、デバイスなどの情報と、関連するログをベースに、セキュリティ状況の「スコア」を算出し、ダッシュボードとして表示。ダッシュボードには、安全性をより高めるためのアドバイスなどが提示され、アドバイスに従って対応を行うことで、企業はシステムの安全性を数十倍に高められるという。
またMicrosoft Secure Scoreは、「何も起こっていない状態が当たり前」とされがちなセキュリティ管理者が、対策の有用性を経営陣に対して説明するためのツールにもなるとしている。
次のテーマは「Deliver(デリバリー)」だ。伊藤氏は、現在、グローバル54リージョンで展開されているAzureの基本理念として「Trust(信頼)」を挙げ、そこに保存されているユーザーデータを「Microsoftが自社のビジネスのために利用しない」と改めて強調した。
また、伊藤氏は特に日本向けに強調したい特徴として、同社技術の「ハイブリッド性」について触れた。ここで言う「ハイブリッド」は、WindowsやSQL Server、Active Directoryといった各プロダクトの、オンプレミスとクラウドにおける相互運用性の高さだけを指すものでない。LinuxのようなOSやOSS(オープンソースソフトウェア)の各種ミドルウェア、iOSやAndroidデバイスを含めたマルチデバイスでの相互運用性、一貫した管理性なども含んでいるという。
ここでは、そうしたハイブリッド性の一端を表すものとして、Microsoft Igniteで発表された「Windows Virtual Desktop」が紹介された。デモを担当したのは、日本マイクロソフト テクノロジーセンターのセンター長である澤円氏だ。Windows Virtual Desktopは、Azure上で提供されるWindowsデスクトップの仮想化環境である。澤氏は、実際にAzureのコンソール上でリソースや環境の設定を行い、起動したWindowsの仮想デスクトップにiPadからアクセス。Excelを起動する様子を聴衆に披露した。
最後のテーマは「Innovate(イノベーション)」だ。伊藤氏は、2018年10月25日にMicrosoftとの統合が完了した「GitHub」について触れた。
「Microsoftは以前からGitHubで最大の貢献企業でもあった。2800万人以上が参加する開発者コミュニティーであるGitHubの統合は、Microsoftにとっても大きな責任がある決断だと理解している。Microsoftとの統合後も、GitHubは独立した形で運営することが決定しており、今後もオープンプラットフォームとしての性質を維持していく」(伊藤氏)
イノベーションの促進に関して、伊藤氏が触れたもう一つの取り組みが「IoT」だ。同社では「Azure IoTプラットフォーム」に関するパートナープログラムを急速に拡大しており、同プログラムで認定されたIoTデバイスは既に1000以上に上るという。認定デバイスでは、Azure IoT上に用意されたプロトタイプテンプレートを活用した開発が迅速に行える。またAzure上で利用できるサーバレス環境、データベース、アナリティクス、AI(人工知能)といった機能をビジネス要件に合った形で組み合わせて、IoTによるデータ活用のライフサイクルを展開可能になるという。
IoT環境などで取得したビッグデータの活用に向けた取り組みとして、伊藤氏は「Azure Data Explorer」を紹介した。これは、Microsoft社内でAzureのログデータ分析に使われていたツールをサービス化したもので、1日当たり20P(ペタ)Bにも及ぶデータのアドホックな分析を、Azureのハイパフォーマンスなインフラを活用して可能にしているという。基調講演では、GitHubのユーザーアクティビティーに関する10億レコードに及ぶデータをAzure Data Explorerを利用して集計、分析する様子をデモしていた。
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