携帯電話ネットワークの混雑を軽減する「ExLL」プロトコルを開発、蔚山科学技術大Googleの「BBR」よりも高性能

韓国の蔚山科学技術大学校の研究チームが、携帯電話ネットワークの混雑を軽減する超低遅延輻輳制御プロトコル「ExLL」を開発した。Googleの「BBR」よりも高性能だという。

» 2019年01月22日 11時30分 公開
[@IT]

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 韓国の蔚山(ウルサン)科学技術大学校(UNIST)の研究チームが、携帯電話ネットワークの混雑を軽減する新しい超低遅延輻輳(ふくそう)制御プロトコル「ExLL」を開発し、2018年12月にギリシャのイラクリオン市で開催された「ACM CoNEXT’18」で発表した。

 ExLLは通信遅延問題を解決する手法。通信遅延は、ネットワークの処理能力を超えてデータが送信され、未処理のデータが累積してデータ伝送が遅れる現象だ。通信遅延問題は「バッファブロート」とも呼ばれる。データセンターやモバイル通信ネットワークでバッファブロートが観察されると、パケット伝送が遅れ、データ交換効率とサービス品質が低下する。

 UNIST電気電子コンピュータ工学部教授のキュンガン・リー氏が率いる研究チームは、Googleが開発した輻輳制御プロトコル「BBR(Bottleneck Bandwidth and Round-trip propagation time)」よりも優れた性能を提供できるという。BBRは、これまで最も低遅延の伝送プロトコルとされてきた。

キュンガン・リー氏(左)と研究チーム(出典:UNIST

 ExLLの性能評価と検証は、韓国内に加えて、米国コロラドボルダー大学の研究チームの協力を得て韓国外でも行われたという。

GoogleのBBRの課題とは?

 通信遅延問題を解決するため、これまで「低遅延伝送プロトコル」技術の開発が進んできた。ネットワーク状況を把握してデータ伝送量を調整し、遅延を軽減する技術だ。

 これまでの技術では、ネットワークが処理できるデータ伝送量(ネットワーク帯域幅)を把握するために、単位時間当たりの伝送量を増減させてネットワーク状態を調べる手法が使われてきた。伝送量の増減に応じた遅延の変化を考慮して、データ伝送量を制御する。

 だが、GoogleのBBRには、ネットワークが許容する最大のデータを送信する際(最大データレート時)に、最適な最小(最も遅い)性能よりも、性能が低くなる課題があったという。

 今回の研究論文の第一著者であるシニク・パーク氏は、「既存の技術では、調査自体が非効率であることから、最適性能を達成することが難しい。われわれは、モバイル通信端末の伝送プロトコルのみを変えることで、この問題を解決した」と述べている。

ExLLの概念図(出典:UNIST

ネットワークの帯域幅をどうやって推測したのか?

 研究チームは、効率的な低遅延伝送プロトコルを実現するために、「(最大)許容ネットワークキャパシティー」の特定に力を入れた。前提となる考え方はこうだ。モバイル通信端末で許可されたネットワーク帯域幅と同量のデータを超えないように送信できれば、データが通信経路上で不必要に累積することはない。

 研究チームは、モバイル通信端末が受信するパケットのパターンを観察し、モバイル通信ネットワークの帯域幅を直接推論することにした。

 研究チームの一員であり、コンピュータサイエンスの博士課程で学ぶジュンソン・キム氏は次のように説明する。

 「LTEネットワークでは、ミリ秒ごとに受信されるデータ量のパターンと、その時点でのパケット到着の間隔は異なっている。これは、基地局に割り当てられたリソースとチャネル条件に依存する。このため、これらの情報を分析することで、許容ネットワークキャパシティーが分かる。観察時間を変えれば、この手法を5Gネットワークにも適用できる」

 許容ネットワークキャパシティー(ベースライン)が分かれば、次のステップは簡単だ。モバイル通信端末は、計算された参照をサーバに直接伝送し、サーバは、モバイル通信端末のデータ伝送量を直接制御する。現在のスループットが許容ネットワークキャパシティーより小さければ、スループットは急速に向上し、許容ネットワークキャパシティーに迫っていれば、わずかに上昇する。

 「ExLLは調査プロセスの非効率を解消し、超低遅延ネットワーキングを実現する。ただし、既存の低遅延伝送プロトコルは遠隔手術や、遠隔ドローン制御、5Gベースの自動ナビゲーションなどでは、依然、大きな役割を果たすことになる」(リー氏)

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