2019年2月初めに「“IEを使わないでください”とMicrosoftが警告」や「IEの使用は技術的負債をもたらす」のようなタイトルのニュース記事を目にしました。タイトルだけ見ると「やっぱりIEはセキュリティが不安」とか、「技術的負債って何?」とか、「IEがなくなると困る」とか、思ったりしていませんか?
「Internet Explorer(IE)」の使用に関するニュース記事の元になったのは、2019年2月6日にMicrosoftのWindows IT Pro Blogに投稿された以下の記事です。
タイトルに「危険(perils)」とありますが、この記事ではセキュリティについては一言も触れていませんし、「“IEを使わないでください”とMicrosoftが警告」という内容でもありません。最新のモダンブラウザがある今でも、IEを「既定のブラウザとして(as default browser)」使い続けることに対する負の側面が書かれています。
“既定のブラウザ”とはWindows 10の「既定のアプリ」の設定のことであり、HTTP/HTTPSプロトコルや.htmlファイルに関連付けられた標準のブラウザです(画面1)。
筆者がこのブログ記事から読み取った内容をざっとまとめてみました。
「技術的負債」とは、ご存じの通り、アプリケーション開発における場当たり的な対応によって、理想の状態からは懸け離れてしまうことを指摘した表現です。また、セキュリティについては言及していませんが、Windows 10標準の「Microsoft Edge」の方が、IE 11よりもセキュリティに優れていることは、一般論として指摘しておきましょう。
「IEがなくなると困る」と誤解した人がいるかもしれませんが、Microsoft Edgeを標準搭載しているのはWindows 10だけです。そして、“互換性ソリューション”としてIE 11も標準搭載されています。
Windows 10の長期サービスチャネル(LTSC)版やWindows Serverは「IE 11が標準」であり、Microsoft Edgeを搭載していません。また、Microsoft Edgeを追加することもできません。Windows ServerのServer Coreインストールは、これまでブラウザを搭載していませんでしたが、Windows Server 2019およびWindows Server,version 1809からは、オンデマンド機能としてIE 11をオプションで追加できるようになりました(画面2)。
Microsoftは2016年1月12日以降、サポート中のWindowsで動作する最新バージョンのIEをサポート対象としました。IEはWindowsのサポート期間中、同様にサポートされます。詳しくは、以下のサポート情報で「IEのサポートポリシー」を再確認してください。最新情報は英語ページで確認できます。少なくとも、LTSCの最新バージョンであるWindows 10 Enterprise LTSC 2019とWindows Server 2019のサポート期限である「2029年1月9日」まで、IE 11は確実に存在し続けます。
現在は、幾つかのWindowsにおいて、IE 10以前もサポートされています。2019年3月時点では以下の4つのOSでIE 8、IE 9、IE 10がサポートされています。
オペレーティングシステム | Internet Explorerバージョン | 製品サポート期限 |
---|---|---|
Windows Server 2008 | Internet Explorer 9 | 2020年1月14日 |
Windows Server 2012 | Internet Explorer 10 | 2023年10月10日 |
Windows Embedded POS Ready 2009 | Internet Explorer 8 | 2019年4月9日 |
Windows Embedded 8 Standard | Internet Explorer 10 | 2023年7月11日 |
表1 現在サポートされているIE 10以前のIE |
英語ページを見ると、新たなニュースを見つけられるでしょう。それは、IE 10のサポートが「2020年1月31日」までに変更されたことと、現在、IE 10が最新となっているWindows Server 2012とWindows Embedded 8 Standardに対し、IE 11の提供が予定されていることです(画面3)。2019年春にパイロット版が利用可能になる予定です。これについては、Windows IT Pro Blogで2019年1月末にアナウンスされました。
Windows IT Pro Blogでも言及されているIE 11の「エンタープライズモード」は、既定のブラウザをMicrosoft Edge(または他社の最新ブラウザ)に設定し、IEでのアクセスが必要なレガシーアプリケーションに関してはIE 11にリダイレクトする企業向けの機能です(画面4)。エンタープライズモードについては、以下の記事を参考にしてください。
既定のブラウザをMicrosoft Edge(または他社の最新ブラウザ)にすることは、最新のWeb標準を利用できるだけでなく、最新ブラウザが備えるセキュリティ機能を活用できるというメリットがあります。
例えば、Windows 10 バージョン1709のEnterpriseエディションで初めて搭載された「Windows Defender Application Guard(WDAG)」は、Hyper-Vハイパーバイザーでホスト環境から分離されたOS環境でMicrosoft Edgeを動作させ、信頼されていないサイトへのアクセスをWDAGのMicrosoft Edgeにリダイレクトします(画面5)。
Windows 10 バージョン1803では、ProエディションでもWDAGが利用可能になりました。次のWindows 10 バージョン1903(19H1)では、Educationエディションにも拡大される予定です。WDAGについては、以下の記事を参考にしてください。
現在、Windows 7やWindows 8.1でモダンブラウザを利用したい場合は、他社の最新ブラウザをインストールすればいいだけです。Microsoft EdgeはIEの後継として開発され(開発コード名「Spartan」)、Windows 10標準の既定ブラウザとなりましたが、Windows 10以外には提供されていません。
2018年12月初めに、Microsoft Edgeの今後に関する大きなニュースが発表されました。現在のMicrosoft Edgeは、Microsoft製の「EdgeHTML」エンジンを使用していますが、今後は「Chromium」ベースのオープンソースプロジェクトに移行するというものです。
まず、デスクトップ版のMicrosoft EdgeをChromium互換のWebプラットフォームへと移行し、その後、サポート対象の全てのWindowsにも提供する予定です。また、macOSなど、他のプラットフォームへも提供範囲を拡大する予定とのことです。
つまり、近い将来、Windows 7/8.1でもMicrosoft Edgeを使って、Web回りの技術的負債から脱却できる可能性が出てきたのです。とはいえ、そもそもWindows 7やWindows 8.1を使い続けていること自体が技術的負債であり、それがまた別の技術的負債を生んでいるのですけれども……。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2018/7/1)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.