“デジタルトランスフォーメーション疲れ”に打ち勝つGartner Insights Pickup(103)

“デジタルトランスフォーメーション疲れ”に陥る組織が増えている。従業員への働き掛けのハック、ナッジ、プロッドにより、目標を見失って迷走しているデジタルトランスフォーメーションプロジェクトを立て直すべきだ。

» 2019年04月05日 05時00分 公開
[Kasey Panetta,Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)に取り組んでいる企業では、「変革」が連呼される。

 「デジタルトランスフォーメーションに力を入れる」というメッセージを一貫して繰り返し掲げることは重要だ。だが、実はこれには、“デジタルトランスフォーメーション疲れ”を引き起こすリスクがある。

 「デジタルトランスフォーメーションの取り組みには、厄介な問題がある。従業員が“デジタルトランスフォーメーション疲れ”に陥る場合があることだ」。Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントのマリー・マザーリオ氏は、2018年11月にスペインのバルセロナで開催されたGartner Symposium/ITxpo 2018でそう語った。

 「その場合、従業員は直面する変化に対応できなくなってしまうか、あるいは、少なくとも対応できないと考えてしまう」(マザーリオ氏)

 マザーリオ氏が顧客と電話で話すと、大抵の場合、顧客はこんなふうに切り出すと語った。「マリー、われわれはデジタルトランスフォーメーションを進めています」

 そこで同氏は、こう応じるという。「素晴らしいですね。どのように変わろうとしているのですか」

 「この質問に対する顧客の答えから分かるのは、人々がさまざまな複雑なことに熱心に取り組んで消化不良になると、驚くべきことに、そうした全てのことをなぜ行っているのかを見失ってしまう場合があるということだ。そうして人々は疲れてしまう。理解しきれないまま、あまりにも多くのことが進行していくからだ」と、マザーリオ氏は語った。

デジタルトランスフォーメーションに関する自己診断テスト

 マザーリオ氏はまず、チームや企業に、デジタルトランスフォーメーションに関する以下のショートテストを受けるよう勧めた。このテストは、デジタルトランスフォーメーションで何を目指すかを、組織としてしっかり共有していることを確認するものだ。

 以下の問いに答えてください。

  1. あなたの会社が目指す変革と、その理由を説明してください。
  2. 問1の答えを2分以下で説明できますか。
  3. 難解な企業用語を使わずに説明できますか。
  4. 現場のスタッフが理解できる説明になっていますか。またそれによってチームのやる気が高まりますか。
  5. 同僚もほぼ同じ説明をしますか。

 デジタルトランスフォーメーションで何を目指すかがはっきりしている企業でも、従業員をその方向に動かす方法を見つけるのは容易なことではない。デジタルトランスフォーメーションの実現に向けた施策は、大掛かりかつ包括的でなければならないと思われがちだ。だが、実はCIOは、すぐに実行でき、非常に大きな効果がある小規模な変更を選択することもできる。

ハック、ナッジ、プロッド

 文化の変革は、デジタルトランスフォーメーションにおける最大の関門だ。CIOはアジャイルで、オープンで創造的な顧客中心の文化を求めている。次の3本柱のアプローチを取ると良い。

  • ハック(切る): 企業文化において変化を起こしやすい単一ポイントを利用する。
  • ナッジ(押す): 従業員が自身にとって適切な方法で行動できるようにする。
  • プロッド(つつく): 報酬とルールで行動変革を促す。

 問題は、これらをどうやって持続していくかにある。

ハック

 南アフリカが水不足に陥ったとき、政府は人気歌手に2分間の歌を歌わせた。シャワーを始めるときにこの曲をかけ始め、曲が終わったらシャワーを終えるという習慣を国民に広める狙いだった。このもくろみは当たり、水の使用量を減らす手っ取り早いカルチャーハックが浸透した。これはまさに、文化の中で変化を起こしやすい単一ポイントを利用したことで、結果が出た事例だ。

 優れたカルチャーハックは感情に訴え、即時性があり、目に見え、作業負担が少ない。だが、それをする勇気は少なからず求められる。

 文化の中で最も変わりやすい要素は、関係者が最も長い時間を費やすものだ。それはプロセス、プロジェクト、会議だ。なかでも人々が多くの時間を費やす会議は、とりわけハックの余地が大きい。

ナッジ

 新しいオフィスに引っ越してから、高いしっくいの天井の下にマホガニーのデスクが置かれ、多くの個室が用意されたフォーマルな環境と、中央にソファが置かれた大部屋のいずれかを、CIOが選ばなければならないとする。どちらを選ぶにしても、従業員に特定の行動を促進または抑制するように「ナッジ」することになる。コラボレーションを促進/抑制したいか、あるいは臨時会議を増加/抑制したいか、雑音を増加/抑制したいか、またはフォーマルな行動を促進/抑制したいかにかかわらず、「ナッジ」することは、従業員が適切な選択肢を選びやすくする、穏やかな方法によるハックだ。こうした選択肢が、従業員をある行動に向かわせ、別の行動から遠ざける。

 CIOは主に3つの方法でナッジする。それは設計、デフォルト、データだ。ITチームがWebサイト、セキュリティパラメーター、予測アナリティクスを設計することは、従業員を特定の行動に導く。

プロッド

 従業員に、CIOが望むように行動する気を起こさせる方法を見つけるのは難しい。プロッドは、文化を変えるために報酬とルールを使用する。

 CIOは、社会規範(関係性、友好的な行動に価値を見いだす世界)に訴えることができ、具体的には報奨や出張、物事や人に触れる機会といったメリットを従業員の誘導に利用できる。損失回避や、同僚からの圧力といった市場規範(金銭や取引に価値を見いだす世界)に訴えることも、誘導のメカニズムとして利用することが可能だ。

 小さなルールを作ることも、誘導する方法になる。例えば、「これから全てのスタッフ会議は、立ったまま15分間で行う」「このタイプのプロジェクトでは、チーム外の誰かと協力しなければならない」といったルールを設ける。このアプローチでは、物事のやり方がおのずと変わり、それが習慣になる。

 ハック、ナッジ、プロッドのいずれかを利用するか、あるいは全てを利用するかにかかわらず、CIOは人々のデジタルトランスフォーメーション疲れを解消し、デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて人々を大きく前進させる効果を発揮し得る、小さな行動を見過ごしてはならない。

出典:Fight Digital Transformation Fatigue(Smarter with Gartner)

筆者 Kasey Panetta

Brand Content Manager at Gartner


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