IoTで一定の成果を収める企業が増えている。だが、一般的には環境が未成熟なこともあり、取り組みは容易ではない。ここでは、先行企業からのIoTにおける教訓をお届けする。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
電力会社は、メーターの数値の漏えいを防ぐ必要はないと考えるかもしれない。だが、製造企業の顧客では、電力消費量は生産と相関する可能性がある。誰かが電力消費量から業務状況に関する洞察を得て、メーカーの業績を推測するかもしれない。そうなれば、ありふれたメーターの数値が突然、株取引に利用できる、業務状況に関する洞察の貴重な源泉になる。
このシナリオから得られる教訓は、早くから弁護士に関与してもらい、綿密なアドバイスを受けるのが賢明だということだ。
IoT(モノのインターネット)への取り組みは、一部の企業では当初の想定よりも立ち上げが難航した。だが、これまでの取り組み状況から見てIoTの成熟化が進めば、IoTの導入企業はより高い価値を生み出していきそうだ。
Gartnerのある調査では、IoTを導入した企業の80%が、IoTプロジェクトで予想以上の成果が得られていると答えた。
Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントのニック・ジョーンズ氏は、「この調査は自己評価に基づくものの、これまで宣伝が先行していたIoTの実際の効果が明らかになってきている」と語る。
「IoTでは、CIO(最高情報責任者)の関与が非常に重要であることも分かっている。CIOが関与している方が、プロジェクトが成功する可能性が高い」(ジョーンズ氏)
セキュリティとプライバシーは、IoTプロジェクトにおける技術的課題の最たるものだ。これらは2025年まで大きな課題であり続けるだろうと、Gartnerは予想している。その背景には、必要なスキルを持つ人材の不足や絶えず変化し続ける脅威、複雑なベンダー状況、未成熟な規格が挙げられる。
「IoTを進める上で解決しなければならないのは、技術的な問題だけではない。パイロット段階を超えてIoTを本格的に導入するには、PoC(Proof of Concept:概念実証)ではなく、価値実証を考えなければならない。技術的なPoCでは、経営陣にIoT投資を説得することはできない」(ジョーンズ氏)
成功を阻む非技術的な障害には、政治的、組織的な問題、資金確保の問題、IoTセンサーおよびデバイスのユーザーエクスペリエンスなどがある。業務方法の変更による従業員の仕事への影響も大きな問題だ。例えば、監視の自動化への移行は、労働組合が関与する契機になるかもしれない。
グローバル大企業は、これら以外にもさまざまな問題に直面する。例えば、世界各地域のインフラおよび通信サービスの品質や可用性のばらつき、さまざまなタイムゾーンにまたがる事業拠点に対する技術サポート、現地の法規制、ロボット観や人工知能(AI)観といった文化的な問題などだ。
このように多くの問題はあるものの、一般的に、IoTの取り組みは実施企業では成功していると考えられている。Gartnerが2018年に行った調査では、IoTを導入中または使用中の企業の5割以上が、プロジェクトで計画通りの、または計画を上回る成果を達成したと回答しており、この割合は2017年の調査より大幅に上昇している。ただし、これは自己評価によるものであり、この調査の回答企業の29%は投資回収期間を定義していなかった。IoTの取り組みがどれだけ成功しているのかを分析するのは難しそうだ。
こうした先行企業によるIoTへの取り組みから、Gartnerは以下の教訓を導き出した。
「プロジェクトが成功するかどうかの勝負は、プロジェクトの前から始まる。強力なイノベーションプロセスによってビジネス目標をサポートする、適切なプロジェクトを選択するようにする。そうすることで、ビジネス価値を生まない不毛なプロジェクトをなくせる。また、プロジェクトをどのように拡張するかを自ずと考えるようになる」(ジョーンズ氏)
出典:Lessons From IoT Early Adopters(Smarter with Gartner)
Director, Public Relations
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.