友岡氏は、情シスがDXに向けてどのように取り組みを進めていくかについて、3つの施策を提案した。1つ目は、既存のR&D部門との連携、融合を図ること。2つ目は「現場の神様」を集め、部門横断で顧客中心主義に基づいてコーポレートエンジニアリングをリードする集団になること。3つ目は、とにかくプログラミングのコードレベルで会話することだ。
これらを5年にわたって実践してきたのがフジテックだ。
まず、ITの基本的な考え方として「現場、現物、現実。開発、運用を自社で」「クラウドファースト」「モバイルファースト」を掲げた。また、ITアーキテクチャの基本指針は「Googleのサービスを使い倒すこと」「自分たちでシステムを作る場合はAWS(Amazon Web Services)の上で」「小粒のクラウドサービスをピンポイントで利用」「標準ブラウザでAndroid、iOS、Windowsに対応すること」だ。さらに、ITベンダーマネジメントの考え方として「開発、運用は全部自分たちで行うことが基本」で、クラウドネイティブの小規模パートナーと組むことを心掛けた。
「重視したのは現場の観察です。現場で使われているExcel資料を見つけたらそれをG Suiteに代替するのです。社内にExcel資料はないかと『Excelを探す旅』に出たのです。一度Webアプリケーションに移行して会議などで利便性を確認すると、Excelには戻れなくなります。取り組みを地道に進め、メリットが理解される中で、残っているExcelを現場が見つけてくれるようになりました」
フジテックでは2014年からG Suiteを導入しモバイル対応やHangoutsによるWeb会議の導入、2015年からのChromebookの導入などと発展させてきた。AWS導入後は、Excelを探す旅が「サーバを探す旅」に変わった。業務部門が抱えているサーバを見つけ、それをAWSへと移行する作業が始まった。
「物理サーバには惜しみのない愛が注がれていることが多く、それを取り上げるのは困難を極めます。そのようなときは、電源工事のために休日出勤する必要がなくなりますよ、現場が楽になりますよ、などとメリットを訴求して理解を得ていきました」
既存システムをリフト&シフトする際の技術的な課題は大きく3つあった。
1つ目は32bitアプリの問題だ。既存のアプリは32bitアプリとして開発されているが、クラウドは基本的にWindowsもLinuxも64bit環境だ。32bitアプリをそのまま移行すると動かないケースが出てくる。これについては、人海戦術で64bit対応を行った。
2つ目は、クライアントサーバ型アプリだ。サーバとクライアント間での通信が前提のため、ネットワーク遅延がしばしば発生するクラウド環境には基本的に適さない。そこでプランA「そのままクラウドへ移行する」、プランB「VDI(Amazon WorkSpaces)を利用する」、プランC「現行塩漬け&新規作り直し」という3つの選択肢を検討し対処しようとした。
3つ目は、オンプレミスのOracle Databaseの問題だ。これについても、移行の選択肢としてプランA「移行ツールの利用」、プランB「Amazon RDS for Oracleへの移行」、プランC「SQL書き換え」、プランD「現行塩漬け」という4つの選択肢があった。
「いろいろと検討しましたが、クライアントサーバアプリとオンプレミスのOracle Databaseについてはこれといった正解を見つけることができませんでした。最終的には、保守サポートサービス事業者のリミニストリートに保守を移管し、システム改定は新標準SQLで記述するようにし、アプリを10年以内に順次書き換えていくという結論に至りました」
また友岡氏は、既存のERPのクラウド移行も検討しているが「エンタープライズにおいては“これ”というクラウド型ERPはまだない」との認識を持っている。
「日本のERP導入は失敗だったと思います。現状のAs-Isで導入したり、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)/ABM(Activity Based Management:活動基準原価管理)などの発想がないまま導入したりした。グローバルレベルでのマスター管理の仕組みを採用していないといった課題があります。特定の領域に特化したクラウドサービスはありますが、残念ながらエンタープライズにおける在庫管理やサプライチェーンなどに対応したERPはまだありません。短期的に乗り切る方法、長期的にどうするかは各社がどう判断していくかが問われています」
最後に友岡氏は「部門サーバ1つをAWSに移行するだけでも大きな抵抗に遭うものです。簡単にリフト&シフトできるわけではありません」とし、地道な取り組みを進めていくことが近道だと訴えた。
テクノロジーの力を使って新たな価値を創造するデジタルトランスフォーメーション(DX)が各業種で進展している。だが中には単なる業務改善をDXと呼ぶ風潮もあるなど、一般的な日本企業は海外に比べると大幅に後れを取っているのが現実だ。では企業がDXを推進し、差別化の源泉としていくためには、変革に向けて何をそろえ、どのようなステップを踏んでいけばよいのだろうか。本特集ではDXへのロードマップを今あらためて明確化。“他人事”に終始してきたDX実現の方法を、現実的な観点から伝授する。
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