Google Cloudが提供するAnthos(旧Cloud Services Platform)の利用が広がるかどうかは、ハイブリッド/マルチクラウドKubernetesがどう普及するかというテーマとも重なる。本記事では、Anthosとハイブリッド/マルチクラウドKubernetesのユースケースを探る。
Google Cloudが2019年4月9〜11日に開催したGoogle Cloud Next ’19における最大の発表は、ハイブリッド/マルチクラウドKubernetesソリューションの「Anthos(アンソス)」だ。
この発表がGoogle Cloudにとって重要な理由は、Google Cloudがクラウド市場に食い込むために打ち出す「オープンソースソフトウェア(OSS)の活用による、クラウドロックインからの解放」というテーマを、直接的に体現したプロダクトだからだ。
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また、Google Cloudは新CEOトマス・クリアン(Thomas Kurian)氏の下で、「エンタープライズ(一般企業)」への取り組みをこれまで以上に深めようとしているが、Anthosはエンタープライズ顧客に切り込むための武器として使える一方、エンタープライズITベンダー/パートナーとの関係を深めるための接点としての役割を果たすことができる。
では、Anthosはどういった用途でどう使われる可能性があるのか。これについては「Kubernetesのハイブリッド/マルチクラウド構成がどう広がるか」というテーマと重なる部分も大きい。
本記事では、まず、「Anthosの利用がどう広がるか、広がらないのか」に影響を与え得る要因について、Anthosの責任者を務めているGoogle Cloudエンジニアリング担当バイスプレジデントのエイヤル・マナー(Eyal Manor)氏に確認したことを中心に紹介する。次に、NTTコミュニケーションズなどのパートナーのコメントを交え、Anthos、およびハイブリッド/マルチクラウドKubernetesのユースケースを探る。
Anthosは一言でいえば「ハイブリッド/マルチクラウドKubernetesソリューション」だが、具体的な機能、使い勝手、価格などの要因が、同プロダクトの採用の広がりに大きく影響することが考えられる。
おそらく他のメディアでは報道されていない独自情報だが、マナー氏は筆者に、Anthosでは仮想マシンへの対応も進めていることを明らかにした。これは最低でも、Anthosに統合された機能の一つであるアプリケーション通信制御のIstioで、コンテナと仮想マシンを統合管理できるようになるということを意味する。
それでもAnthosが、基本的にはコンテナソリューションであることに変わりはない。マナー氏は、「一般企業は迅速なビジネス展開を進めたいと考えるようになってきた。これを支えるソフトウェア開発者が求めているのはコンテナ環境だ」といい、Anthosは企業のデジタルトランスフォーメーションに向けたツールだと話している。
Anthosの料金体系は「エンタープライズIT向け」に設計されている。100 vCPU当たり月1万ドルで、最低1年間の契約を結ぶ必要がある。100 vCPUを超えると、200 vCPU分の料金となる。
Anthosでは、オンプレミスとGoogle Cloud Platform(GCP)におけるvCPU利用量の合算が課金対象となる。どちらでどれくらい動かすかによって料金が変わるわけではない。
一方、料金の高低とは関係なく、オンプレミスのITインフラは迅速に規模を拡張できないことがスケーリングの障壁になることが考えられる。マナー氏は、Anthosを通じてGoogle Cloud Next ’19における発表の一つである「Cloud Run」と同様の機能をオンプレミスに導入すれば、コンテナの「scale-to-zero(不要になったらリソース利用がゼロになる)」運用が可能になり、こうした懸念の一部が解消できるとしている。
Anthosのオンプレミス導入における中核はGKE On-Prem。GKE On-Premでは、コントロールプレーンを含む全てのコンポーネントがオンプレミスで動くが、統合的な運用管理やモニタリングのために、GCPと接続する。こうしたこともあり、既存IT環境に導入する際には、特にネットワーク周りの作業が複雑化し得る。
マナー氏も、Anthosのオンプレミスにおける導入が即座に完了するわけではないことを認める。
「オンプレミスのサーバ/ストレージ構成、ネットワーク、セキュリティポリシーは非常に複雑だ。αテストを始めたころは導入に2、3週間を要するケースもあった。だが、ネットワーク構成を事前に確認し、設計するなど標準的な手順を確立することにより、現在では3時間で導入できるようになった。現実には多くの導入がパートナーによって行われることになる。これを支援するためのトレーニングを進めている」
Cisco Systems、Dell EMC、Lenovoなどのベンダーは、Anthosのオンプレミス導入を容易にするハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品を提供する。だが、こうした製品を利用したとしても、多くの場合、システムインテグレーション作業が必要となる。Anthosの利用を広げるためにはエンタープライズIT製品ベンダーやシステムインテグレーターの協力が不可欠だ。
一方でAnthosは、「クラウドベンダーが、オープンソース製品のオンプレミスにおける展開で、既存エンタープライズIT関連企業の協力を得る」という点で、新たな取り組みと表現できる。Google Cloudは、これを逆に梃(てこ)として使い、既存エンタープライズIT関連企業との連携を強化しようとしている。
では、Anthosはどのようなユースケースで使われる可能性があるのか。Google Cloud日本代表の阿部伸一氏と、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)クラウドサービス部門ホスティングサービス部門長の角守友幸氏は、ハイブリッド/マルチクラウドKubernetes以前に、既存IT環境における「コンテナ化」、およびコンテナベースのアプリケーション開発環境構築のニーズが拡大していると話す。
「オンプレミスのITを今後どうしていくか。そのままで更改するか、多少リファクタリングするか、完全に作り直すか。例えば5年後を見据えたグランドデザインを描いたときに、既存システムについても(今回同時に発表した仮想マシンからコンテナへの)移行ツールを用い、リフト&シフトでコンテナ化しておけば、その後のクラウドへの移行などもしやすくなる」と阿部氏はいう。
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