「全体最適がなされていない」例とは、例えば工場の規模やスケジュールだ。
「ユニフォームを50着作りたいお店もあれば、1000着作りたい企業もあります。2人で回している小さな工場には50着の生産がうまく当てはまりますが、数量が多いと別の工場に依頼しなければなりません。今までは、服を作りたい人が全部の工場に当たって打診していました。sitaeruはそのマッチングの工程を短くします」
ここでITの役割は「情報の整理」だ。
「情報を整理してお互い受け渡すようにしないと、話がうまく通りません。私たちは、お客さまが望むことを、工場が分かる言語に翻訳して渡します。逆に、工場からの問い合わせも、分かるような形にしてお客さまに渡します。その間の情報をデザインし、共通部分を見つけて最適化します」と、和泉さんはsitateruの役割を説明する。そのためのツールとなるのがIT、つまり「複数の工場で、情報をリアルタイムに共有できる」情報システムだ。
「ファクスを送って電話で確認していたのを、ファイルで見られるようにしました。これによって、取り違いが少なくなり、確認の回数も減りました」
こういう話を聞いて気になるのは、ユーザー側のITリテラシーの問題もあるだろうし、生産工場にはITに不慣れな方も多いのではないかということだ。情報システムを使う上で不自由することはないのだろうか。
「最初は私たちも不安でした。エンジニアが現地で説明し、導入を手伝ったところ、すぐに慣れてくださった」と和泉さんは話す。「皆さんが仕事で使うシステムなので、できるだけ簡単な操作で扱えるように工夫しました。先に見られる情報を多くし、入力は最低限にしました。数値を入力する所も極力減らす。後は、チャットツールによるコミュニケーションでサポートします」
情報システムへの入力画面というだけでなく、人間と人間のコミュニケーションは必要になる。「衣服は、通常の工業製品とは違って『コミュニケーションしだい』の側面がある」と和泉さんは話す。発注者と受注者の間で正しく意図、情報が伝わらなければモノが作れない。
情報システムと人間のコミュニケーションをうまく組みあわせるところに、sitateruの特徴があるといえる。
アパレルの生産といえば、海外の工場での大量生産をイメージする読者は多いかもしれない。だが「最近は潮目が変わってきました」と和泉さんは話す。
中国、韓国など海外の賃金が高くなり、製造原価も上がってきたことが、その背景にある。「以前は、例えば中国と日本の2国間で済んでいましたが、今はベトナムやミャンマーのように別の国に主流が移っています。3国間で原料や製品が行き来すると、関税がかかるし、手続きも多くなりますので、生産する量が多くないとペイしなくなっています。今では10万円台のコートなどは日本製のものも多く見掛けます」とのことだ。
アパレルの生産拠点として日本が見直されている今だからこそ、製造の「面倒くさい部分」や「非効率だった部分」を、「情報システム」「業界のネットワークと知識」「人と人とのコミュニケーション」の総合力で解決していくのが、sitateruが目指す姿だ。
sitateruの開発チームは東京と熊本にある。インフラはAWS(Amazon Web Services)を活用し、開発フレームワークはRuby on Rails、Nuxt.js、Vue.jsなどを主に使う。「アパレル分野で服を作る会社であるだけでなく、技術力を持っている会社だと思ってほしい」と和泉さんは話す。
和泉さんは、アパレルという伝統的な業界の課題を、最先端のITと知識で解決する取り組みを進めている。もともと研究者だった和泉さんは、「落ち着いてきたら研究開発の取り組みも増やしていきたい」と話す。
例えば深層学習をファッショントレンド分析に活用するなどの取り組みを考えているという。アパレルという伝統的な業界の課題と最新のITを組み合わせ、新たな価値を生み出していく仕事に、和泉さんは魅力を感じている。
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