全国に散在する規模や得意分野が異なる縫製工場に、電話やファクスで問い合わせて製造を依頼する。そんなアパレル業界の「常識」を変革するディスラプターは、元大学の研究者だった。
和泉信生さんは、2018年4月に9年間務めてきた大学教員、研究者を辞め、スタートアップ企業「シタテル」のCTO(最高技術責任者)に転身した。この決断の背後にはどのような考えがあったのか。シタテルのどこが和泉さんを引きつけたのか、お話を伺った。
和泉さんは、中学生の頃からコンピュータに興味を持っていた。
「古いPCとBASIC言語の本を手に入れて。黒い画面に文字が出たり線が出たりする様子が楽しかったんですね」と話す。大学は、情報系が充実していることで知られる九州工業大学に入学した。4年生で研究室に入ったとき、先輩のプログラミング技術に触れて「スゴい」と感じる瞬間があった。
「地図情報のプログラムを自分で書いたのですが、1〜2秒かかっていた処理に先輩が手を入れると『すっ』と動くようになる。こんなに違いがあるんだ、と」
和泉さんはプログラミング技術に強い関心を持ち、打ち込んだ。「寝ても覚めてもプログラムを書く生活でした」と話す。
和泉さんはプログラムだけでなく、音楽にも縁があった。2歳からバイオリンを習っていた。少年時代にミュージカルの劇団に参加していたこともある。
大学に入学してから音楽熱が再燃し、「1日4〜5時間、バイオリンを弾いていました。クラシック、ジャズ、ポップス、いろいろなジャンルの音楽を仲間と演奏しました。(研究室に入ってから)博士号を取るまで10年近く在学しましたが、その間は楽器を演奏するか、プログラムを書くかでした」と振り返る。
和泉さんは後に「手触り」や「着心地」など「触覚」を重視するアパレル分野をITで支えるスタートアップ企業に参加することになるわけだが、プログラミングと音楽(聴覚)の両方に打ち込んだ経験とシタテル参加の経緯は、「IT×五感」という部分で結び付いているのかもしれない。
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