データを活用したプレゼンテーションで聞き手の行動につなげるには、ストーリーとして語る必要がある。そのストーリーの目的は、ビジネスの意思決定のためにクリティカルシンキングを促し、活性化させることにある。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
フローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争での英国兵士の死亡率を分析し、兵士の大部分は戦闘で命を落としたのではなく、病院内の劣悪な衛生状態に起因する予防が可能な病気で亡くなったことを知った。
英国議会とビクトリア女王に衛生状態の改善への投資を説得するため、ナイチンゲールは兵士の死亡原因を示すグラフを作成。今で言う“データストーリー”を使って、衛生状態を改善する必要性を訴えることに成功し、無数の兵士の命を救った。
この経緯と結果は印象的だが、その核心にあるのはデータストーリーだ。ナイチンゲールが作ったデータストーリーは、時間、場所、量、トレンド、重要性、割合に関するデータポイントを含んでいる。共感に訴えるし、筋書きがあり、ヒーローも登場する。締めくくりには問題を問い掛け、選択肢を提示している。データストーリーテリングは、ナイチンゲールの時代にも重要だった。データがあふれる今日のデジタル世界では、一段と重要性を増している。
「企業がビジネスアナリティクスで得た洞察を伝える方法は進化している。中でも目立つのが、いわゆる『データストーリーテリング』の利用が拡大していることだ」と、Gartnerのシニアディレクターアナリストを務めるジェームズ・リチャードソン氏は指摘する。
「これまでも、データとアナリティクスの担当チームは常に、ダッシュボードを作成したり、ビジュアライゼーションを行ったりしてきた。だが、多くのチームはそれらの成果物をまとめて、順序立てて語ることに慣れていない」(リチャードソン氏)
データストーリーは、時間とともにどのようにデータが変化するか、それはなぜかを探り説明する。これは通常、一連の対応するビジュアライゼーションを通じて行われる。ビジュアライゼーションは大抵、データストーリーの主要な要素だ。ただし、戦略を構成する3つの柱の1つにすぎない。
セルフサービスBIやアナリティクスプラットフォームのユーザーは、魅力的なデータストーリーの作成をサポートするさまざまな機能にアクセスできるようになってきた。こうしたユーザーが利用している多様なビジュアライゼーション手段には、グラフ、地理マッピング、各種の高度なチャート(ヒートマップ、ローソク足チャートなど)がある。
重要な注意点として、全ての状況に有効な1つのビジュアライゼーションはないことが挙げられる。データとアナリティクスチームのデータストーリーテラー(ストーリーテリング担当者)は、どのようなデータを、どのような相手に提示したいかに基づいて、適切なビジュアライゼーションを選択しなければならない。時系列や考え方の順序に従ってビジュアライゼーションを利用すれば、知見やトレンド、隠れたパターンを明示するように語りを構成できる。
「データストーリーの始まりと中間は、他のあらゆるストーリーと同様に考えられる。だが、終わりに関しては、あらかじめまとめ方を決めてはならない。聞き手の行動を喚起するために、一連の選択肢や質問を投げ掛ける必要がある。データストーリーテリングの目標はビジネスの意思決定のためにクリティカルシンキングを促し、活性化させることにあることを忘れてはならない」(リチャードソン氏)
データを単に説明する語りは、意思決定者にとってあまり役に立たないだろう。価値を提供し、人々に当事者として耳を傾けさせるのは、データの文脈だ。文脈もビジュアライゼーションと同様に、オーディエンスに応じて選択しなければならない。
営業チームは、「エレベーター内で見込み客のCEOに、適切な1つのデータポイントを示し、ライバル企業から契約を奪い取った優秀なセールスマン」のストーリーを好むかもしれない。だが、財務チームには、このストーリーは同じようには響かないだろう。財務チームは、「プロセスや契約交渉が効率よく行われ、予測可能な結果が得られる」というストーリーを聞きたいと考える。
データストーリーの聞き手は、その中で語られる知見に基づく意思決定によって、価値を実現する鍵を握っている。オーディエンスは情報を受動的に受け取るのではなく、積極的に関わる必要がある。聞き手に求められるのは、語られる内容に検討を加え、質問を投げ掛けることだ。
「人間のストーリーテラーの語りには必ず主観が入る。誰もが偏見を持っているし、間違えることもあるかもしれない。偏見の危険を自覚し取り除くことが、データストーリーをうまく活用する上で不可欠だ」と、リチャードソン氏は説明する。
データストーリーについて協力的に議論し、クリティカルシンキングを適用することで、企業はデータとアナリティクスへのエンゲージメントを大きく高め、レポートとダッシュボードのみに頼る場合よりも、はるかに効果的な意思決定が行える。
出典:Use Data and Analytics to Tell a Story(Smarter with Gartner)
Director, Public Relations
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