生成AIの可能性を開花させるには――ボトムアップイノベーションが不可欠Gartner Insights Pickup(336)

生成AIに注目が集まる中、企業の経営幹部は「このテクノロジーによってどうすれば実際に価値を生み出せるか」を理解しようと躍起になっている。まだ不明確な生成AIのリスクプロファイルを評価しながら、その基盤となっているテクノロジーを基礎から学んでいるところだ。

» 2024年02月02日 05時00分 公開
[Brian Prentice, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」などのグローバルコンテンツから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 生成AIは目覚ましい進化を遂げているが、まだ成熟途上のテクノロジーであることを念頭に置く必要がある。その上で、野心的なデジタル企業にとっては、生成AI市場における新しいカテゴリーを創出し、支配する大きな機会が生まれていることを認識する必要がある。

 生成AIについては、業務改善に活用できるテクノロジーとしてのみ考えるのではなく、自社がこのテクノロジーでどうすれば市場をリードできるかを考えなければならない。

 可能な限り幅広くイノベーションの取り組みを進め、差し迫ったリスクを管理する必要性との間で、適切なバランスを取る必要がある。

 トップクラスの大規模言語モデル(LLM)は、大幅改訂のたびに大きく改善されている。

 競争環境は非常にダイナミックだ。LLMの商用化のメカニズムはちょうど形成されつつあるところで、オープンソース製品が商用生成AIの市場価値に与える影響も未知数だ。主要なLLMプロバイダーを取り巻くパートナーのエコシステムも発展途上にある。

 さらに、政府の規制も整備が始まったばかりだ。政府機関の管轄の違いによって、規制アプローチに大きな違いも生じている。

 市場が未成熟なことから、ほとんどの企業はまだ何が可能かを探っている。だが、それよりも、生成AIの効果的な活用への貢献を考えなければならない。

 同時に、自社をテクノロジーユーザーとしてのみ考え、ベンダーから提供される生成AIソリューション関連のリスクにばかり目を向けてはならない。

 生成AIの効果的な活用への貢献を考えることで、企業は独自のイノベーションにより、価値を最大化する可能性が開ける。

急ピッチで進む生成AIイノベーション

 Gartnerの調査によると、AIは経営幹部が、今後3年間に業界に最も影響を及ぼすと考えているテクノロジーだ。このことから、企業が進めるイノベーションによる成長促進の取り組みでは、AIの中でも注目度の高い生成AIの活用法が焦点となるだろう。

 もちろん、未成熟なテクノロジーではリスクが不透明であり、その管理が重要だ。実際、企業は利用ポリシーの導入を急いでいる。だが、一貫して無視されているリスクが1つある。

 それは、AIの市場リーダーになれないリスクだ。このリスクを考慮している企業はほとんどない。

 逆に言えば、ほとんどの企業はAIの市場リーダーになる可能性を無視しているということだ。つまり、企業はAIポリシーを策定するにあたって、自らが生成AIソリューションを生み出し、市場をリードする可能性を考慮していないわけだ。

 従来、企業は新しいテクノロジーを、業務効率を高める手段として考えてきた。現代の企業は、顧客体験を向上させ、収益を伸ばす方法を探す傾向がある。

 いずれにしても、経営幹部は、テクノロジーベンダーのソリューションだけを利用して、こうした成果を追求するという間違いを犯しやすい。だが、テクノロジープロバイダーとテクノロジーユーザー企業の確固たる境界線は、もはや存在しない。

 経営リーダーは、自社がプロバイダーからデジタル資産を調達し、運用、管理するだけでなく、デジタル資産を構築し、商用化することも可能なことを認識する必要がある。

 ただし、企業は、生成AI市場におけるリーダーシップの発揮を目指して尽力しなければならないが、この取り組みで得られる便益を正確に評価するリスクベネフィット分析をしなければ、このプロセス全体が徒労に終わりかねない。

 生成AIの市場をリードできる可能性は確かにあるが、そのためには生成AIの技術的な複雑さを管理し、コストを負担する必要がある。コストは展開アプローチによって異なる。

 LLMをゼロから構築したり、既存のオープンソースLLMを利用したりする必要はないが、状況によっては、これらが適切な選択肢となる場合もある。

 一方、データ資産をファインチューニングして新しいソリューションを開発し、社内で使用したり、デジタル製品として外販するといった手法もある。特定の目的や分野に特化してプロンプトの設計スキルを洗練させ、競争上の差別化要因とすることも可能だ。

 生成AIは、さまざまなカテゴリーが生まれると予想される。現代の企業がカテゴリーを作り出すことを妨げるものは何もない。

 例えば、JPMorgan Chase、Bloomberg、Thomson Reutersは、生成AIのプロバイダーから製品やサービスを提供されるだけでなく、既存のビジネスを足掛かりに、生成AIのプロバイダーになろうとしている。

 生成AIの商用化についてこうした理解に立つ企業が増えるとともに、生成AI市場を定義するイノベーションの在り方も変わる。イノベーションのスピードが最需要点となり、生成AIイノベーションのスピードを上げるにはボトムアップのイノベーションが必要になる。どのチームでも、どの部署でも、どの事業部門でも、どの子会社でも、合理的なリスク範囲内で実験する能力が試されることになる。

 ただし、リスクがなくなるわけではない。明白なリスクもあり、それらは直ちに回避する必要がある。例えば、一般公開しているチャットbotで自社の機密情報を使用したり、適切なチェックなしに生成AIのアウトプットを使用したりするのは禁物だ。

ボトムアップイノベーションを阻害しない

 生成AIを活用する取り組みを進める上では、人々の不安をかき立てる要素が、時として誇張されたリスク(大量失業や人類の滅亡など)に対する懸念を増幅させており、規制を求める声が広がっていることを認識する必要がある。

 デジタル技術の発展の歴史では、進化のごく初期の段階にこうした過程をたどった例は、なかなか見つからない。

 生成AIの価値実現を支えるテーマがボトムアップの迅速なイノベーションだとすれば、AIポリシーの策定に加え、生成AIの取り組みを効果的に一元管理する運営委員会の設置によって、リスクを軽減しようとするのは避けた方がよい。

 当然のことながら、これらの方策の推進者は明らかに、問題になり得るあらゆる物事を自社から排除したいと考えている。これは組織の自衛という点では称賛に値するが、ボトムアップイノベーションの促進との両立という点では、非現実的だ。

 実験が進むとともに、生成AIのリスクは大まかに把握できるものから、微妙なニュアンスを持つものへと変質していく。「ポリシーは全ての可能性を合理的にカバーできる」、あるいは「運営委員会は常に全ての可能性を視野に入れられる」と考える理由はない。

 これらを実現するために力を入れると、ボトムアップイノベーションをサポートするために必要な自律性と柔軟性が犠牲になってしまう。

 生成AIソリューションのカバー範囲は、企業のあらゆる側面に及ぶ可能性がある。イノベーションに弾みをつけるには、リスク管理上のガードレールをできるだけ緩和し、実験が盛んに行われる環境を作らなければならない。

 既存のデータプライバシーポリシーや情報セキュリティポリシーを生成AI向けにアップデートできる場合は、AIポリシーを新たに作成しないようにすべきだ。

 また、リスク管理のために実験に厳格な条件を課すのではなく、特定されているリスクを全てチェックして管理し、報告することを要件として、実験が行われるようにしなければならない。

 運営委員会は、センターオブコントロール(コントロールの組織)としてではなくセンターオブコラボレーション(コラボレーションの組織)として位置付ける必要がある。

出典:Let GenAI flourish through bottom-up innovation(Gartner)

※この記事は、2023年11月に執筆されたものです。

筆者 Brian Prentice

VP Analyst


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。