京都大学の研究グループは、介護技術「ユマニチュード」の技術をAI(人工知能)で評価する手法を開発した。熟練介護者と初学者の間での「目線の使い方」などの違いによって、介護者が被介護者を見る技術を明らかにした。
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京都大学は2019年7月11日、同大学大学院情報学研究科の准教授を務める中澤篤志氏と、同大学こころの未来研究センターの特定教授を務める吉川左紀子氏、九州大学大学院システム情報科学研究院の教授を務める倉爪亮氏、東京医療センターの医師である本田美和子氏の研究グループが、「ユマニチュード」の技術をAI(人工知能)で評価する手法を開発したと発表した。ユマニチュードは、フランス発祥の優しさを伝える介護技術。
高齢者人口の増加に伴い、認知症患者の数が増大している。日本では、2025年に認知症患者の数が700万人を超えると予測されており、認知症のケアが社会的な問題になっている。認知症は、記憶や判断、認識力が低下して日常生活に支障を来すだけでなく、認知症行動心理症状(BPSD)と呼ばれる暴力的な言動を伴うことがあり、これが介護者の精神的・身体的負担を増大させ、介護者の疲弊や介護専門職の離職を招いている。
ユマニチュードはこうした問題の解決に向けて、研究グループの本田氏が導入した介護技術で、病院や介護現場を中心に広まりを見せているという。ただユマニチュードは、先生役つまり熟練介護者が学習者に対して訓練することでしか習得できなかったため「多くの人に確実に伝える」ことが困難だった。
研究グループは、こうした課題解決に向けて、ユマニチュードのレベルを自動的に評価し、自己学習できるようにするシステムの開発を目指してきた。今回の研究成果は、ユマニチュードの熟練介護者と初学者の間での目線の使い方など、コミュニケーションの違いによって「介護者が被介護者を見る技術」を明らかにした。
具体的には、画像認識やセンシングといった技術を使って介護の基本であるコミュニケーション要素の「見ること」を定量化し、AIを用いて解析する。介護者の頭部に装着したカメラで介護動作中の目線や頭部の動きを捉え、顔検出技術やアイコンタクト検出技術などを使って、介護者と被介護者の間のアイコンタクト成立頻度や頭部の姿勢、距離などを検出する。これらの値を、ユマニチュードの初心者と中級者、熟練者の間で比較した。
14人分のデータを統計的に分析(主成分分析)した結果、初心者と中級者、熟練者の間に明確な違いが現れたという。研究グループは「この結果は介護者の動作スキルをAIによって評価できる可能性を示す」としている。
この方法によって、介護技術を学ぼうとする人が自分の介護技術を客観的に見られるようになる。また、AIによる処理はサーバで実行するため「人の主観」による評価を含めず、大量のデータを処理できる。これにより、学習者はいつでも自分の介護スキルを振り返ることができ、介護技術を向上させられる。今後は、同システムを国内の大学に展開し、医療や看護系の学生のセルフトレーニングに活用する実証実験を計画している。
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