IBMによるRed Hatの買収は、ハイブリッドクラウドに向けたRed Hatが有する資産の中核といえる、「Red Hat OpenShift Container Platform」の製品戦略に影響を与えるのか、与えないのか。同製品の今後と合わせ、レッドハットのクラウドプラットフォームビジネスユニット製品担当バイスプレジデントであるジョー・フェルナンデス氏と、同クラウドプラットフォームビジネスユニットの製品担当、マリア・ブラッチョ氏に聞いた。
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IBMによるRed Hatの買収は、ハイブリッドクラウドに向けたRed Hatが有する資産の中核といえる、「Red Hat OpenShift Container Platform」(以下、OpenShift)の製品戦略に影響を与えるのか、与えないのか。同製品の今後と合わせ、レッドハットのクラウドプラットフォームビジネスユニット製品担当バイスプレジデントであるジョー・フェルナンデス氏と、同クラウドプラットフォームビジネスユニットの製品担当、マリア・ブラッチョ氏に聞いた。
例えばOpenShiftはCloud Foundryを取り込むことになるのだろうか。IBMは2019年9月中旬、デンマークで開催された「2019 European Cloud Foundry Summit」において、IBMのCloud Foundry on Kubernetes実装である「IBM Cloud Foundry Enterprise Environment」をOpenShift上で動かすデモを見せた。
このデモについて説明したブログポストは、「現在のところ技術デモに過ぎないが、IBM Cloud Foundry Enterprise Environmentに関する、この新たなデプロイメントの選択肢が特にエキサイティングなのは、顧客にとっての全体的なハイブリッドマルチクラウド戦略を可能にするOpenShiftプラットフォームに、既存のCloud Foundryアプリケーションを迅速かつ容易に展開し、稼働できることにある」と述べている。
このことは、OpenShiftに、将来Cloud Foundryが標準あるいはオプションのコンポーネントとして組み込まれることを暗示しているのだろうか。
フェルナンデス氏は、これを明確に否定する。
「Red Hatとして、OpenShiftにCloud Foundryを組み込むつもりは全くない。一方で、IBMやCloud Foundry顧客には、喜んで協力していく。彼らがOpenShiftおよびKubernetes基盤へ移行することを支援するための努力は惜しまない」(フェルナンデス氏、以下同)
FaaS(Function as a Service)のOpenWhiskについても聞いてみたが、こちらについてもRed HatがOpenShiftに組み込む予定はないという。
「私たちは現時点で、FaaSを持ってはいない。私たちはOpenShiftの一部として、サーバレスのKnativeを提供することに力を入れてきた。KnativeはFaaSのためのエンジンとして活用できる。この上に、さまざまなソリューションをプラグインできるというのが基本的な考え方だ。
FaaSに関しては、Red HatのミドルウェアチームとApache Camelに関してある程度の作業を行ってきた。Apache Camelは統合フレームワークで、ファンクションをトリガーするためのイベンティングモデルを提供できる。また、Microsoftとは、OpenShift上でKnativeを介し、Azure Functionsを動かすことでハイブリッドソリューションを実現する発表をした。IBMがOpenWhiskをKnative上で動くようにするなら、協力する余地が出てくるだろう」
IBMはコンテナで、Kubernetes、Knative、Cloud Foundry、OpenWhiskという4種のデベロッパーエクスペリエンスを提供していく計画だが、これは当面、Red HatやOpenShiftという製品に関係なく、IBMが独自に自社顧客を対象として進めていくことだというのが、フェルナンデス氏の理解だという。
「IBMはIBM CloudでCloud FoundryやOpenWhiskを提供してきた。これがすぐに変わることはないだろう。だがもしかしたら、Kubernetesの成長に伴い、これらのサービスを使ってきた顧客の間で、Kubernetesに移行する例が増えているかもしれない。IBMはKnativeも支援しているため、将来的にはこれらを全て統合していく可能性もあるだろう。私はIBMの製品に関する計画を知っているわけではない(ので、IBMの考えを語ることはできない)」
IBMにはコンテナ、Kubernetes、Cloud Foundry、OpenWhiskなどに技術的な観点から関わってきた人たちがいるが、フェルナンデス氏によると、こうした人たちがRed Hatに移籍する、あるいはOpenShiftの製品開発に協力するといったこともないと話す。
「Red Hatの人間でIBMのバッジも身に付けるのはCEOのジム(・ホワイトハースト)だけだ。他の社員はジムだけを見て働いている。Red Hatの運営には変わりがない。当社が独立性を維持することは重要だ。ハイブリッドクラウドプラットフォームであり続けるためには、誰かのクラウドをえこひいきするわけにはいかない。IBMやIBM Cloudだけのために機能を作り込むようことはしない」
一方、IBMはこれまで、オンプレミスのアプリケーションプラットフォームソリューション「IBM Cloud Private」で、コミュニティ版のKubernetesを使ってきたが、これをOpenShiftに移行する。そしてミドルウェア/アプリケーションに注力しようとしている、とフェルナンデス氏は説明する。
IBMは既に、コンテナ上で稼働する既存のミドルウェア製品群である「IBM Cloud Paks」を、今後OpenShift上で提供していくと発表している。Cloud Paksには、アプリケーションのビルド/実行、データ収集/分析、API/データ/メッセージ統合、自動化、マルチクラウド管理に関するミドルウェアがそろっている。OpenShiftのマルチクラウドでの展開に合わせ、これらをはじめとしたミドルウェアやソリューションを推進していこうとしているという。
Red Hatは、デベロッパーエクスペリエンスという観点では、今のところKubernetesとKnativeに注力している。理由は、Knativeが多くのユースケースをカバーできるからだという。
「KnativeはFaaSなどの基盤として使われる前に、それ自体が価値を持っていて、開発者の間で評価されている。例えばサービスをデプロイした時点では、ゼロへのスケール(ゼロへの縮退)をしておき、需要に応じてスケールできる。イベントによるトリガーもできる。フル機能のFaaSでなくても便利だ。既に面白いユースケースが見られるようになっているし、今後さらに増えるだろう。Knativeの利用が広がれば、これを土台にしてより高い抽象度を目指すことができる。Knativeは万能ではない。開発者や、アプリケーションの性質によって、向き、不向きがある。とはいえ、かなりの数のユーザーが魅力を感じてくれ、採用も広がるだろうと考えている」
では、Red HatはOpenShiftでどのような位置に到達したと考えているのだろうか。フェルナンデス氏は、Kubernetesにおけるコア部分の開発および安定化が一段落した今、運用や利用のしやすさに焦点を移していると説明した。
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