営業主導で動いているオンラインショップ開発の企画にぶつけるように、情シスは独自の企画を役員会議で提案した。しかも、既にベンダーも決まっているという──羽生、俺をだましたのか?
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン
大手コンサルティングファーム
老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」で、オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」の開発が始まって、早2カ月。開発は順調に進んでいるが、契約がまだ結ばれていないことが発覚した。総務担当常務の村上が、取引先登録の承認を拒んでいるのだ。
プロジェクト担当の小塚は、村上に手続きを進めてくれるようお願いしに行くが、にべもなく断られてしまう。
小塚が村上にけんもほろろに扱われた日から3日後、月例の役員会議が開催された。小塚の本当の苦しみが始まったのは、この日からだった。
いつも通り出口に近い席に腰かけた小塚は、自分の正面に座る色白の男の顔を見て目を丸くした。「お前も出るのか?」と問い掛ける小塚の言葉が聞き取れなかったのか、羽生は何も答えず、隣に座る村上と何やら小声で会話を続けていた。
会議の終盤、突然村上が手を挙げた。
「以前、社長から企画を考えるようにとご指示のあったITによる業務改革について、情報システム部の羽生部長より提案があるということで、本日は特別に来てもらっております」
「ん? あれならもう小塚君の『スマホ・デ・マルシェ』があるだろう?」
宇野副社長の言葉を皮切りに、室内がざわついた。
「どういうことだ? 羽生」――小塚も羽生の顔を見ながら尋ねたが、羽生は相変わらず小塚の方を見ようともしなかった。
村上の言葉が続く。
「いやいや、採用する企画は1つだけとは伺っておりません。スマホ・デ・マルシェは新しい顧客の獲得と囲い込みという、いわば攻めの戦略。であれば、ここにもう1つ、守りの戦略があってもいいのではないかと思いましてね」
決して力んではいないがすごみのある村上の声に、役員たちも注目した。すると、それまで黙っていた社長の高橋が口を開いた。
「今日はその企画を、羽生部長からご紹介いただけるのですね」
「そういうことです。きっと、社長にもご満足いただけるかと」
村上はそういうと、羽生に向かってうなずいた。羽生は一礼して立ち上がると、持参した資料を役員たちに配った。小塚の前にも置かれた資料の表紙には、太い字で「ラ・マルシェAI在庫管理システム企画書」と書かれていた。
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