デジタルガバメントの取り組みの中で、変革をもたらす技術は何か。Gartnerが選ぶデジタルガバメント技術のトップトレンドとして、「チャットbot」「政府のデジタルツイン」「ブロックチェーン」「データマーケットプレース」「スマートワークスペース」の5つを紹介する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
市庁舎、交通ネットワーク、教育機関のキャンパス――これらについての意思決定が将来にわたって的確に行われるようにするには、どうすればよいか。まさにそれを可能にする「政府のデジタルツイン」が、世界中で構築され始めている。
Gartnerの「デジタルガバメント技術のハイプサイクル:2019年」に新たに追加された「政府のデジタルツイン」は、道路網や水道システムといった主要システムを再現した仮想モデルであり、政府機関はこれらのシステムの管理やモニタリング、メンテナンスにこれを利用できる。このトレンド技術は、5〜10年以内に公共セクターに変革をもたらす効果があると期待されている。
「こうした新興技術の多くはデータが中心だ」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのアリア・メンドンサ(Alia Mendonsa)氏は指摘する。
「IT投資戦略を計画しているCIO(最高情報責任者)は、デジタル戦略を成功させるため、組織的なデータ管理およびガバナンスの取り組みの推進を考えるべきだ」(メンドンサ氏)
「デジタルガバメント技術のハイプサイクル:2019年」に選ばれた技術は、いずれもデジタルガバメントの変革を進めるのに不可欠だ。政府機関のCIOは、新興技術への投資のリスクやタイミングの判断にこの調査レポートを利用できる。
以下では、今後5〜10年間に政府機関に最もインパクトを与えると予想される5つの技術について解説する。
「デジタルガバメント技術のハイプサイクル:2019年」で、「『過度な期待』のピーク期」にあると位置付けられているチャットbotは、市民による政府機関とのやりとりに大きな影響を与える。
チャットbotは会話インタフェースであり、アプリケーションやメッセージングプラットフォーム、ソーシャルネットワーク、会話のチャットソリューションを使用する。テキストベースと音声ベース、両者の組み合わせのいずれかだ。
チャットbotは、企業で最も使われているAI技術だ。用途分野には顧客サービスや人事、ITヘルプデスク、セルフサービス、スケジューリング、エンタープライズソフトウェアのフロントエンド、従業員生産性、アドバイザリサービスなどがある。
デジタルツインは将来、政府機関の管轄対象に関する現状把握と、運用管理の単一のインタフェースを提供するようになる。
「短期的には、政府機関はデジタルツインの概念実証(PoC)に取り組み、成功事例が見いだされるだろう。中期的には、政府機関はデジタルツインを用いて緊急対応業務を自動化し、インシデント対応に要するスタッフの数を減らそうとすると予想される。長期的には、デジタルツインは政策立案や立法に関連するシナリオのテストに使われるだろう。そうなれば、この技術は真に変革をもたらすことになる」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのビル・フィナティー(Bill Finnerty)氏は語る。
政府のデジタルツインは、政府機関が管轄するものの完全なクローンである必要はない。1つの側面のデジタル表現であればよい。例えば、スウェーデンでは水処理施設のデジタルツインが、中国と英国では駅のデジタルツインが構築されている。
ブロックチェーンは、政府トランザクションの透明で権威ある記録を提供し、公共セクターと民間セクターのエコシステムの摩擦を軽減することで、行政サービスを変える可能性がある。政府の多くの機能(本人証明の基盤、選挙、公的記録、調達、サプライチェーンリスクの規制監督など)が変わりそうだ。
「Gartner 2019 CIO Survey」によると、ブロックチェーンまたは分散台帳技術を既に導入したか、12カ月以内に導入しようと計画している政府機関は、全体の7%にとどまる。ブロックチェーンに関心がないと答えた政府機関の割合は、前年調査の35%から43%に上昇している。
ブロックチェーンを巡る市場の盛り上がりはこの1年間に収まってきているかもしれない。だが、製品やサービスは急速に進化している。Gartnerは政府機関のCIOに、ブロックチェーン技術のディスラプション(創造的破壊)に備えてモニタリング、予測、準備をするようアドバイスしている。
データマーケットプレースは、商業的および社会的利益を目的にデータを交換するためのインタラクティブプラットフォームだ。官民のユーザーのために貴重なデータストリームを生成し、政府、産業界、市民のデータコラボレーションを可能にする。
データマーケットプレースは、新しいデジタルビジネスモデルのためのイノベーション環境を生み出す。スマートシティーのビジョンとその実現に取り組んでいる多くのCIOが、既存のオープンデータポータルをデータマーケットプレースに移行することで、これらのポータルの収益化を目指すだろう。
スマートワークスペースは、物理的なモノのデジタル化の進展を利用する。IoTやAIなどの技術を使って、仕事、リソースのスケジューリング、施設サービスのコーディネート、情報共有、コラボレーションの新しい方法を実現することを含んでいる。
スマートワークスペースの効果は多岐にわたる。例えば、従業員の生産性の向上や職場意識の改善および、従業員がスマートワークスペースを活用して顧客対応をする顧客エクスペリエンスの向上などだ。
スマートワークスペースアプリケーションは、生産性向上だけでなく、特定の業種やビジネスプロセスに固有の業務の改革にも貢献している。例えば、従業員がバックエンド処理システムを直接操作するデジタルペンを使えるようになった事例や、ウェアラブルインタフェースで在宅の患者をモニタリングできるようにし、ケアを向上させた事例などがある。
政府機関のCIOはスマートワークスペースの実現に向けて、不動産や施設の担当チームとより密接に協力する必要がある。
出典:Top Trends From Gartner Hype Cycle for Digital Government Technology, 2019(Smarter with Gartner)
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