AIに関するGartnerのハイプサイクルレポートは、AIが多種多様な形で企業に導入されていくことを浮き彫りにしている。同報告書は、特に「拡張インテリジェンス」「チャットBot」「機械学習」「AIガバナンス」「インテリジェントアプリケーション」に注目すべきだとしている。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
Gartnerの「2019 CIO Agenda」サーベイの結果によると、人工知能(AI)を導入済みの企業の割合は、2018年の4%から2019年には14%に増加した。
AIは、数年前と比べてさまざまな形で企業に導入されている。当時は、機械学習(ML)によって独自のソリューションを構築する以外の選択肢はなかった。現在、AutoML(自動機械学習)やインテリジェントアプリケーションに最も勢いがあるが、他のアプローチ――すなわち、サービスとしてのAIプラットフォームやAIクラウドサービスも人気を呼んでいる。
「Amazon Alexa」や「Google Assistant」などの世界的成功をきっかけに、以前よりも、企業にとって会話AIが最も優先的な取り組み課題となっている。一方、拡張インテリジェンスやエッジAI、データラベリング、説明可能なAIといった新しい技術も登場し続けている。
Gartnerは「Hype Cycle for Artificial Intelligence, 2019」(人工知能のハイプサイクル:2019年)として、AI分野におけるイノベーションとトレンドの動向の詳細な調査結果をまとめ、企業のAI計画策定を支援するレポートを発表している。それによると、ファストフォロワー(迅速な追随者)は少なくとも、AIのビジネスケース(投資対効果検討書)作成に取り組んでいるはずだ。アーリーアダプターにとっては、AIのスケーラブルな運用が次のフロンティアになる。
「人工知能のハイプサイクル:2019年」では、多くの新技術が取り上げられているが、価値や目的が十分に理解されているものはごく少なく、主流として採用されているものはさらに少ない。「だからといって、AIは使い道が乏しいということではない。こうした状況は変わっていくだろう」と、Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのスベトラーナ・シキュラー(Svetlana Sicular)氏は説明する。
「AIの価値とリスクを評価するには、CIO(最高情報責任者)は、AIについて現実的な期待を設定する必要がある」(シキュラー氏)
シキュラー氏は、2〜5年後にビジネスを変える大きな影響力を持つとの見通しから、CIOが注視すべき5つのAI技術を挙げ、次のように解説している。
拡張インテリジェンスは、人とAIが協調して認知パフォーマンスを高める人間中心のパートナーシップモデルだ。このモデルにおいては、AIは主に、人間の能力の拡張を支援する役割を担う。
AIが人とやりとりし、人が既に知っていることをより良く行えるようにサポートすることで、失敗や定型業務を減らし、顧客対応や市民サービス、患者ケアを向上させられる。拡張インテリジェンスの目標は、自動化によって効率を高めるとともに、人間が関与して常識によってそれを補完し、判断を自動化するリスクを管理することにある。
チャットbotはAIの代表格であり、人と人のコミュニケーションが行われる全ての分野に影響を与える。例えば、自動車メーカーのKIAのチャットbotは、1週間に11万5000人のユーザーと対話する。Lidl's Winebot Margotのチャットbotは、ワイン選びのアドバイスや料理を組み合わせるコツを提供する。
チャットbotはテキストベース、音声ベース、両者の組み合わせのいずれかだ。あらかじ用意されたシナリオに基づいて会話を行い、人がほとんど介在しない。
チャットbotは人事、ITヘルプデスク、セルフサービスといったアプリケーションで広く使われている。最もインパクトを与えているのは顧客サービスの分野であり、特に顧客サービスの手法を変えつつある。「ユーザーがインタフェースを学ぶ」から「チャットbotがユーザーの求めるものを学んでいく」への変化は、職場のオンボーディングや生産性、トレーニングに大きな影響を与える。
機械学習(ML)によって、パーソナライズされた顧客対応やサプライチェーンの提案、ダイナミックプライシング(動的価格設定)、医療診断、マネーロンダリング対策といったビジネス課題を解決できる。MLは数理モデルを使って、データから知識やパターンを抽出する。MLは導入が進んでおり、その背景には、企業がデータ量の急激な増大に直面していることや、コンピュートインフラの進化がある。
MLは現在、さまざまな分野や業種で、改革の促進やビジネス課題の新しい解決策の発見に使われている。American Expressは、データアナリティクスとMLアルゴリズムをほぼリアルタイムの詐欺検知に役立て、多大な損失を回避している。Volvoは、部品の故障時期や車の整備が必要になる時期をデータから予測し、車の安全性向上につなげている。
企業はAIガバナンスを軽視してはならない。潜在的な規制リスクやレピュテーション(評判)リスクを認識する必要がある。「AIガバナンスは、バイアス(偏向)や差別など、AIに負の要素が含まれたり、AIが負の影響を引き起こしたりするのを防ぐポリシーを策定、運用するプロセスだ」と、シキュラー氏は説明する。
AIガバナンスを構築するには、データとアナリティクスのリーダーおよびCIOが、信頼、透明性、多様性という3つの領域に力を注がなければならない。AIの導入を成功させるために、AIのデータソースと結果を信頼できるものにする必要がある。また、AIのリスクを軽減して信頼を高めるために、データソースおよびアルゴリズムの透明性要件を特定する必要もある。さらに、AIの倫理と精度を追求するために、データやアルゴリズム、視点の多様性を確保しなければならない。
ほとんどの企業はAI機能を導入する際、エンタープライズアプリケーションに取り入れることを好むようになっている。インテリジェントアプリケーションは、AI技術が組み込まれた、または統合されたエンタープライズアプリケーションを指す。インテリジェントな自動化やデータに基づく洞察、生産性や意思決定の向上に向けた提案によって、人間の活動を支援または代替する。
エンタープライズアプリケーションプロバイダーは現在、AI技術を自社製品に組み込んだり、AIプラットフォームとしての機能をERPやCRM、人的資源管理、生産性アプリケーションに導入したりしている。
CIOは、自社が利用しているパッケージソフトウェアプロバイダーに、「どのようにAIを取り入れ、高度なアナリティクスやインテリジェントプロセス、優れたユーザーエクスペリエンスといった形でソフトウェアのビジネス価値を高めるのか、製品ロードマップで説明してほしい」と求めるべきだ。
出典:Top Trends on the Gartner Hype Cycle for Artificial Intelligence, 2019(Smarter with Gartner)
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