OSIモデルにはないが、サービスの創出で重要な「レイヤー8」とは?羽ばたけ!ネットワークエンジニア(27)(1/2 ページ)

静岡県藤枝市は2020年2月14日、2020年度予算案を記者会見で発表した。その中には筆者が手掛けているコミュニケーションロボットを使った高齢者見守りサービスも含まれていた。今回は藤枝市のプロジェクトで気付かされたサービス創出で大切な「レイヤー8」について述べたい。

» 2020年04月27日 05時00分 公開
[松田次博@IT]

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 以前この連載で紹介した「みまもり パペロ」というサービスは、2017年7月に松山市で行った講演をきっかけとして提案活動が開始。愛媛県西条市で2018年7〜9月に実証実験を行い、2019年1月から本サービスが始まった。その後もメニューの充実を図っている。藤枝市のモデルについて触れる前に主なサービスメニューや利用者の評価を紹介する。

「おしゃべり機能」が好評

 みまもり パペロには2020年3月現在、12のメニューがある。図1はそのうちの主なものだ。「見守り」はこのサービスでは一番大事なメニューで、朝昼夕(デフォルトは8時、11時、17時)の3回、ロボットが高齢者の顔を見つけると写真を撮っていいかどうか声を掛ける。応じると撮影後に写真を見守っている家族に送る。家族はスマートフォンやPCで写真を見る。写真とともに高齢者宅の室内の気温と湿度も分かる。

図1 みまもり パペロの主なメニュー

 高齢者が写真撮影に応じなかったときはロボットから家族に「今、忙しいみたいだよ」というメッセージを送る。写真を撮る時間から2時間、ロボットは高齢者の顔が見えるまで待っている。2時間しても高齢者が来なかった場合は「今、お留守みたいだよ」というメッセージを送る。朝であれば少し異常な状況で、いつもなら起きてきてロボットの前に来るはずが来ていないということだ。家族は電話をかけるなどして安否を確認するアクションを起こすことができる。

 現在、みまもり パペロを使っている方の利用統計を取ると、写真を撮るのは平均して約2回に1回である。毎回撮影しない理由の一つは、女性の高齢者であればパジャマ姿だったり、化粧をしていなかったりすると、許可をしないからだ。

 「コミュニケーション」は家族と高齢者の間でメッセージや写真、ビデオのやりとりができるメニューだ。平均して1日約3回利用されている。「音声リクエスト」はニュースや天気予報など約30種類の定型的な質問に対してロボットが答えるものだ。当初、高齢者がロボットに話し掛ける機能としては音声リクエストだけだった。定型的な質問にないことを話し掛けると「その言葉は分からないんだよ」と答えていた。

 ロボットが理解できる言葉を増やしてほしい、という要望に応えて開発したのが「おしゃべり機能」だ。高齢者がどんなことを話し掛けても返答ができ、ある程度の会話が成り立つ。実はメニューの中で一番使われているのが「おしゃべり機能」で、多い人は1日平均110回使っている。

 みまもり パペロという名前の通り、サービスの一番の目的は高齢者の安否確認を家族に負担のない方法で実現することだった。しかし、実証実験のアンケートや商用サービス開始後のインタビューで分かったのは「高齢者は見守られる安心よりも、ロボットとの会話や家族とのコミュニケーションで孤独感や退屈感が癒やされることをとても喜んでいる」ということだ。

 人の心に働き掛けるサービスは予想通りの反応にならないものだ、と気付かされると同時に、喜んでいただけて利用頻度も多いことをうれしく思っている。

自治体向けメニューの開発

 図1は家族と高齢者が使うメニューだ。これに加えてサービスの主体である自治体のメニューを加えるということを藤枝市で最初に進めることになった。みまもり パペロは「B2G2C」(NEC→自治体→利用者)という形態で提供している。自治体が主体となることで民生委員やケアマネジャーとの連携が図れること、民間企業と違って利益を目的とせず安価で安心なサービスを提供できることがその理由だ。

 藤枝市から要望のあったメニューが図2の防災メールの一斉送信と図3の緊急通報だ。

図2 防災メールの一斉送信

 防災メールを一斉送信する目的は高齢者に避難情報をはじめとする災害情報を確実に伝えることである。元々多くの自治体は防災メールというサービスを提供している。自治体の防災メールのアドレスに空メールを送信するだけで登録が終わり、防災メールが届くようになる。みまもり パペロのクラウドのメールアドレスを登録し、クラウドにメールが届いたら対象となるロボットに一斉送信するようにした。届いたメールはロボットが高齢者の顔を見つけたときに2回読み上げる。さらに、メールの内容をディスプレイに表示する。これで聞き逃しても確実に防災情報を伝えることができる。

図3 緊急通報

 緊急通報の目的は、遠く離れて暮らす家族に代わって緊急時に警備会社が高齢者を救う対応をすることだ。高齢者が体調の悪いときにロボットの緊急連絡ボタンを押すと、警備会社と家族にサービスIDと通報内容を記したメールを即時に送る。高齢者がボタンを押さなくても見守りの写真を撮るためにロボットが顔を検知しようとして3回連続で失敗すると「異常あり」と見なして警備会社と家族に通報する。

 警備会社は通報を受け取ると直ちに高齢者に電話をかけ、応答があれば必要な対応を行い、応答がなければ高齢者宅に駆け付けて安否を確認する。

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