文部科学省は日本の科学技術政策に関するトピックをまとめた2020年版「科学技術白書」を公開した。2040年の未来予測や新型コロナウイルス感染症の流行を記載している。
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2020年6月16日に閣議決定された「令和2年版科学技術白書」が、文部科学省Webサイトに同日付で公開された。科学技術白書は、日本の科学技術政策に関するトピックをまとめたもので、1958年からおよそ1年に1回の頻度で発行されている。
白書は2部構成になっている。第1部は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対して、日本で講じられている研究開発の内容と、文部科学省科学技術・学術政策研究所が実施した「第11回科学技術予測調査」を基にした、2040年の未来予測を記載している。白書では、新型コロナウイルス感染症の流行について、「新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、これからの社会の形が大きく変わっていく可能性が高い」と言及している。
第2部は、科学技術振興のために講じた施策を「サイバーセキュリティの確保」「オープンサイエンスの推進」などのテーマ別に紹介している。
第1部で紹介されている2040年の未来予測は、2019年11月に公表された第11回科学技術予測調査を基にして作成された。科学技術予測調査は、科学技術や科学技術基本計画の立案などに利用することを目的として、1971年から約5年おきに行われている。
第11回調査は、スキャニング法による科学技術や社会のトレンド把握、ビジョニング法による社会の未来像検討、デルファイ法による科学技術の未来像検討、シナリオ法による科学技術の発展による社会の未来像検討の4手法を組み合わせて実施した。この検討を通じて、2040年に目指す社会は、「人間性の再興・再考による柔軟な社会」と提言している。
2040年に目指す社会の姿を、2つの観点(無形/有形、個人/社会)により設定される4つのグループ(無形/個人、無形/社会、有形/個人、有形/個人)ごとに、科学技術トピック(以下、トピック)の具体例と、それに対応するイラストを掲載している。
未来予測は、「あらゆる言語をリアルタイムで翻訳・通訳できるシステム」「話し言葉でも文脈を捉えた文章に自動整理・文字化できるAI(人工知能)システム」「コンピュータシステム(重要インフラ、自動車などの制御システムや個人用IoT《Internet of Things》機器・サービス)などへの不正侵入を防止する技術」など、約50個トピックがいつごろ技術的に可能になるか(科学技術的実現時期)、実現した技術が製品やサービスとして利用可能な状況になるか(社会的実現時期)を記載している。
中でも社会的実現時期が最も早いものは「初心者でも使える機械学習活用基盤の普及」で、2025年に実現可能になると予想している。反対に、社会的実現時期が遅いものは「CO2の還元による再資源化(燃料や化学原料を合成)をエネルギー効率20%以上で可能とする、光還元触媒及び人工光合成」で、実現可能時期の予想は2039年だ。
過去に行われた科学技術予測調査では、30年以内の実現が期待される科学技術に関する専門家アンケート(デルファイ調査)を実施している。1971年から1992年までの調査で取り上げた約4300件のトピックについて2009年に検証した結果、約7割のトピックが、部分的なものも含めて実現できていたという。
実現したトピックには、1977年に予測された「20インチのテレビの厚さが10センチ以内に納まって、壁に掛けられるテレビが普及する」や、1982年に予測された「任意の場所から送受信可能なポケット・テレホンが実用化される」が含まれる。
一方で実現していないトピックには、「がん細胞の転移阻止技術が実用化される」(1977年予測)「衛星放送又は地上放送により電子新聞(加入者のみ受け取れるスクランブル方式)が普及する」(1987年予測)などが含まれる。前者は技術が確立できていないという理由で実現していない。後者はインターネットの普及により、「衛星放送又は地上放送」に対するニーズが低まったことにより実現に至らなかったとしている。
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